ビジネスわかったランド (経営・社長)

役員給与の実務処理と節税ポイント

【事例3】 役員報酬の額の据置きを定時株主総会で決議せず、その後に減額した場合
事例

当社(年1回3月決算)は、代表取締役Aに対し、毎月20日に、月額50万円の役員報酬を支給することとしていました。当社は、通常、役員報酬の額の改定を5月に開催する定時株主総会で決議していますが、5月25日に開催した定時株主総会においては、任期の中途である役員の報酬の額は前年の定時株主総会において決議された額を据え置くこととしたことから、定時株主総会の議案には役員報酬の額に関する事項を盛り込まず、これまでと同額の給与を継続して支給してきたところです。その後、会社の営業利益を確保することのみを目的として、11月25日に臨時株主総会を開催し、Aの12月支給分の報酬から10万円を減額して月額40万円とすることを決議しました。
この場合、損金不算入となる金額が発生することになるのでしょうか。もし、損金不算入額が発生する場合、その金額の算定はどのように行なえばよいのでしょうか。

結論

10万円(臨時株主総会で減額した金額)×6か月(定時株主総会から臨時株主総会までの期間)=60万円
が損金不算入となります。

解説

この事例を図示すると下図上段のようになります。
役員報酬の額の据置きを定時株主総会で決議せず、その後に
減額した場合
まず、11月25日の臨時株主総会で代表取締役Aの報酬を減額した件ですが、減額理由である「営業利益を確保すること」というのは、法人税法施行令69条1項1号ロに規定する臨時改定事由、および同ハに規定する業績悪化改定事由には該当しません。したがって、この減額改定により定期同額給与には該当しないこととなり、損金不算入額が発生することになります。

■法人税法施行令69条1項1号

イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日まで(定期給与の額の改定(継続して毎年所定の時期にされるものに限る。)が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定(通常の改定)

ロ 当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(臨時改定事由による改定)

ハ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた定期給与の額の減額改定(業績悪化改定事由による改定)

そこで、どの部分が損金不算入額に該当するかが問題となります。5月25日の定時株主総会時に代表取締役Aの報酬の据え置きを決議しなかったわけですが、これにより通常の改定も行なわれていないと考えられ、その結果、定期同額給与の判定を12か月分の支給額で行なうことになるのではないかという疑問が生じます。つまり、定期同額給与は1年間通じて月額40万円となり、4月から11月までの各月10万円、合計80万円が損金不算入となるのではないかという疑問です(上図下段参照)。
この疑問について国税庁は、平成20年12月発行の「役員給与に関するQ&A」で以下のとおりの考え方を示しており、結果として4月と5月の給与は、定期同額給与に該当するものと取り扱って差し支えありません。

(1) 役員の職務執行期間は、一般に定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会開催日までの期間であると解される(事例1「役員報酬を株主総会の翌月分から増額した場合」より)。

(2) 任期中の役員に対して、前年の定時株主総会で決議された支給額を引き続き支給することとする場合には、当年の定時株主総会から開始する新たな職務執行期間に支給される役員報酬金額についての決議を経ないといった企業慣行も見受けられる。

(3) 上記新たな職務執行期間の中途で臨時改定事由や業績悪化改定事由に該当しない減額改定が行なわれたという事実をもって、前年の定時株主総会で確定していた役員報酬についてまで定期同額給与に該当しないと解するのは相当ではない。

(4) この例の場合、当年の定時株主総会の通常改定において、同額改定の決議があったときと同様に取り扱うことが相当である。

結局、6月から期末までの10か月間の報酬のうち、6月から11月までの6か月分の各月50万円については、12月支給分からの金額(各月40万円)に10万円上乗せして支給していたと判定するわけです。したがって、6月以降の10か月間は40万円を定期同額給与と考え、その上乗せ部分(10万円×6か月=60万円)を損金不算入にすることになります。
これを図示すると下図のようになります。
損金不算入額の算出