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募集・採用

採用内定の取消しを行なう際の注意点
採用決定時には想定できなかったような業績悪化により、やむなく採用内定を取り消さざるを得ない事態に陥ることもある。

その際に大切なのは、採用内定を取り消す対象者の理解を得られるように、誠意を尽くして内定取消しに至った経緯と理由を説明するとともに、場合によっては金銭的補償を行なうことである。

厚生労働省の「青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針」では、採用内定の取消しについて次のように述べている。

「採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定取消しは無効とされることについて十分に留意し、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずること。また、やむを得ない事情により採用内定取消しの対象となった学校等の新規卒業予定者の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、これらの者からの補償等の要求には誠意を持って対応するものとすること」

また、業績悪化により従業員を整理解雇する際の判断基準である「整理解雇の4要件」(注)のひとつとして、「手続きの妥当性」がある。手続きの妥当性とは、解雇に至る経緯・理由等を十分に説明し、理解を得るように手を尽くすことであり、これが欠けていると、裁判所によって解雇が無効と判断されることがある。

この手続きの妥当性は、業績悪化による採用内定取消しにも当てはまる。したがって、会社は、対象者に対して、次の点について丁寧に説明する必要があるだろう。

(1) 会社が採用内定を取り消さざるを得なくなった理由
(2) 採用内定の取消しに至った経緯
(3) 会社の厳しい現状(新規募集の停止、支店等の閉鎖や、在籍従業員の給与・賞与カットが行なわれている等)

採用内定の取消しについて説明・協議するなかで、対象者から何らかの金銭的補償を求められることがある。この金銭的補償の額は、ケースバイケースではあるが、労働局のあっせん事例や、採用内定取消しが「解雇」と同じ扱いをされていることを考慮すると、労働条件として会社が提示した賃金の1か月分相当額をひとつの基準として検討することもできるだろう。
注意点!
採用内定は、「解約権留保付労働契約」という労働契約であることから、30日以上前の解雇予告(労働基準法第20条)が必要となるのか、という疑問が生じる。この点については、解雇予告の適用はないと解される。
(注) 整理解雇の4要件

1 人員整理の必要性
整理解雇により人員を削減する必要性があること
2 解雇回避努力義務の履行
整理解雇を回避する努力が払われたこと
3 対象者選定の合理性
解雇対象者を選定する基準に合理性があること
4 手続きの妥当性
整理解雇に至る手続きが妥当なものであること

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。