ビジネスわかったランド (人事・労務)

募集・採用

採用内定の取消しと法的な性質
採用選考から採用内定に至る流れは、次のようになる。
(1)募集

(2)就職希望者からの応募

(3)採用内定の通知
(1)は労働契約の申込みの誘引、(2)が労働契約の申込み、(3)が申込みに対する会社の承諾となる。したがって、(3)の段階で労働契約が成立するというのが判例の考え方である。

この労働契約は、「解約権留保付労働契約」と呼ばれており、解約事由が生じた場合の解約権が留保されているが、「労働契約」であることには変わりない。したがって、この取消しは「解雇」と同じ扱いとなり、合理的な理由がない場合には取消しが無効と判断される。

つまり、労働契約法第16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という解雇権濫用法理の規定が、採用内定の取消しにも適用されることになる。

採用内定の取消しができるのは、事前に明示されている解約事由、たとえば、「出席日数が足りずに大学を卒業できなかった場合」「重大な犯罪行為を犯した場合」「事故に遭って就労が困難になった場合」など、労働契約を履行できない事由が生じた場合である。

なお、採用内定の取消しについて、職業安定法施行規則により、下記の要件のいずれかに該当する場合には、新規学卒者の採用内定取消しを行なった企業名が公表される(倒産により翌年度の新規学卒者の募集・採用が行なわれないことが確実な場合を除く)。

 
(ア) 2年度以上連続して行なわれたもの (イ) 同一年度内において10名以上の者に対して行なわれたもの(内定取消しの対象となった新規学卒者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く) (ウ) 生産量等の事業活動を示す最近の指標、雇用者数等の雇用量を示す最近の指標等からみて、事業活動の縮小を余儀なくされているとは明らかに認められないときに行なわれたもの (エ) 次のいずれかに該当する事実が確認されたもの・内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行なわざるを得ない理由を十分に説明しなかったとき ・内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援をしなかったとき

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。