ビジネスわかったランド (総務・庶務)

取締役会の運営

取締役会の専決事項にはどんなものがあるか

取締役に委任することなく、必ず取締役会で決定しなければならない業務の主要なものとして次の4つの事項がある。

「重要な財産の処分・譲受け」
この「財産」には、不動産、動産、債権、工業所有権などの個別の財産のほかに、営業自体も含まれる。
これらの財産の「処分」とは、財産の譲渡、賃貸、担保設定、出資、寄付、債務免除等を、財産の「譲受け」とは、不動産、動産等の譲受けや賃借、工業所有権の実施権の設定等をいう。
たとえば、会社が所有する工場の敷地を他社に売却したり、あるいは倉庫を他社に賃貸したりするのは、いずれも「財産の処分」になる。
また、他社の機械を買い受けたり、使用料を払って他社が特許権を有する製法での商品を生産したりするのは「財産の譲受け」である。
なお、事業の全部譲渡または重要な一部の譲渡は、株主総会の決議事項とされる。

重要の基準
問題は、「重要」とされる基準をどのように考えるかである。判例は、財産の価額、会社の総資産に占める割合、財産の保有目的、処分行為の態様や会社の従来の取扱い等の事情を総合して判断すればよいとしている。

重要な判断の目安
「重要」の判断の目安としては、
(1)寄付金については、「貸借対照表上の総資産額の1000分の0.1に相当する額」
(2)債務免除については、「貸借対照表上の総資産額の1000分の1に相当する額」
(3)(1)(2)以外の財産の処分および譲受けについては、「貸借対照表上の総資産額の100分の1に相当する額」
等を妥当とする見解がある。

「多額の借財」
ここにいう「多額」の判断についても、会社の経営に重大な影響を与える金額か否かという観点から個別・具体的に決めればよい。
実際に資本金約10億円、総資産約200億円の会社において基準を定めている一例を示すと、金銭借入れについては、「1件で5億円以上の長期借入れ」としているものなどがある。
一般的には、大会社よりも、経済的基盤が弱い小規模な会社のほうが、借財によって会社経営が圧迫されるおそれが高いといえる。
したがって、「多額」の基準も厳格に定めておくのがよい。

「支配人その他の重要なる使用人の選任解任」
この「重要なる使用人」であるか否かについても、会社の規模、組織や業務の態様、使用人に与えられる権限等を考慮して判断する。
(1)「支配人」は、会社に代わって事業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をなす権限を有するとされている。
支店長・営業所長など、その名称の如何を問わず、このような包括的な代理権を有する商業使用人が支配人である。
(2)重要な使用人とは一般的にいえば、役員以外の各部門の最高位の使用人である。
「本社部長」「工場長」「研究所長」は重要な使用人にあたるが、「支店長」については、規模や組織の態様等により必ずしもすべてが重要な使用人になるとは限らない。
「本社部次長」「副部長」は、一般的には重要な使用人ではない。

「支店その他の重要なる組織の設置、変更および廃止」
ここにいう「支店」とは、一定の範囲で、営業活動上の指揮が統一されている中心的な場所として、独立的に営業を継続できる程度の人的、物的および会計的組織と施設を備えているところをいうとされる。
支店は商業登記簿に登記することが要求されるが、未登記であっても支店としての実態を備えていれば、その設置などについては取締役会決議による。
「営業所」「出張所」「派出所」は、支店の出先にすぎないような場合はこれに該当しないが、本社以外の第一の組織であるような場合には支店に相応するものといえる。
「その他の重要な組織」とは、事業部制、工場、常務会など、支店およびこれに準ずる程度に重要な組織をいう。

取締役会規則を定める
取締役会が、会社法の定める専決事項について誤りなくその職責を果たすためには、取締役会規則などの社内規程を整備しておくことが不可欠である。そのなかに、「重要な」とされる基準を明記しておく必要がある。


著者
安部井 上(弁護士)
2011年8月末現在の法令等に基づいています。