ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)

つい、使ってしまう、ちょっとおかしな表現

音位転換「ふいんき」「おさがわせ」

より発音しやすいように音の順番を入れ換える現象がある

(1) この店はふいんきもいいし、料理もおいしい
(2) 毎度おさがわせしております
ケータイメールで「ふいんき」と入力して、漢字変換されないと怒っていた人がいました。スペルチェック機能があれば、「もしかして、ふんいき?」とケータイが聞いてくれるかもしれませんが、そうでなければ、「ふいんき」は「不インキ」とか「不陰気」と変換されるのがオチです。

(1)も(2)も、より発音しやすいように順番を入れ換えた「音位転換」と呼ばれる現象で、大きな罰点(ばってん)がつくような誤用ではありません。とはいえ、「おさがわせ」が「長が早稲」などと変換されると困りますから、正しい言い方を覚えておいたほうがいいでしょう。「雰囲気」は「ふんいき」、「お騒がせ」は「おさわがせ」が正解です。

「ふんいき」のように、「ん」のあとに「あいうえお」や「やゆよ」がくる言葉は「恋愛」「満員」「暗雲」「運営」「南欧」「婚約」など多数ありますが、これらは外国人の日本語学習者には発音しづらいもので、「恋愛」を「れんない」、「本を」を「本の」、「雰囲気」を「ふんにき」、「婚約」を「こんにゃく」のように言う人は少なくありません。

日本でも、古くは連声(れんじょう)が行われていました。例えば、「輪廻」は「りんえ」ではなく、「りん」rinの最後の子音nが「え」の前にもう一つ現れて「りんね」rinneとなるというものです。「天皇」「観音」「因縁」なども同様です。

「雰囲気」の場合、ほとんどの現代日本人は「ん」を鼻音化して「ふんいき」と言いますが、人によっては「ふんぎき」(「ぎ」は鼻濁音)と聞こえることもあります。誰もが楽に発音できるものではないようです。

「ふんいき」が「ふいんき」となるのは、そのほうがずっと発音しやすいのと、「インキ」「陰気」という単語があるからでしょう。

「んい」と「いん」では発音のしやすさに大きな差があります。「おさわがせ」と「おさがわせ」はそれほどではないにしても、後者のほうが発音しやすいのは確かです。「~がわ」になじみがあるうえ、「したがわせる」のように「~がわせ」となる動詞があるため、それらに引きずられたとも考えられます。

音位転換の例としてよく知られているものに、「あたらしい」と「さざんか」があります。漢字の「新しい」と「山茶花」のそもそもの読み方は、「あらたしい」「さんざか」ですから、「あらた」が「あたら」に、「んざ」が「ざん」に変わってしまったことになります。そのほうが言いやすかったということでしょう。前者については、「可惜」または「惜(あたら)」、「あたらし」(惜し)という言葉がすでにあり、よく使われていたことから、「あらたし」(新たし)が「あたらし」になったと言われています。

「シミュレーション」simulationを「シュミレーション」と言う人がいるのも、趣味という使い慣れた単語があるのと、「シミュ」が日本人には発音しにくいからなのでしょう。

野口 恵子(文教大学非常勤講師)