ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)

つい、使ってしまう、ちょっとおかしな表現

話を端折りすぎない

話を端折ると事がスムーズに運ばない

(1) 先日、お客様に原本のほうをお渡ししたのですが、実は、お客様のご署名入りの原本が必要でして、で、ここにサインをお願いしたいんですけど (2) 新人なんで、とってくるまで的なとこがあって、一つよろしくお願いします
保険の契約を更新して2か月ほどたったころ、代理店の営業担当者が訪ねてきました。「その節はご契約ありがとうございました」に始まり、3枚綴りの契約書のうち、原本を私が持ち帰り、代理店と保険会社がそれぞれコピーを1部保管しているという話が続きました。

原本が必要だと2、3回繰り返した後、何やら書類を取り出した営業マンが言った言葉が、(1)です。私は契約更新時に渡されたものが原本だったかコピーだったかも覚えておらず、その書類を2か月後の時点で所有しているかどうかも定かではありませんでした。でも、探せばどこかにあるのではないかとも思いました。

そして、担当者の言葉に少し疑問を抱いたのです。原本が必要だと言いながら、新規に作成してきた書類にサインをしろと言っています。原本を渡してほしい、あるかどうか探してほしい、と言うのが先ではないかと思ったわけです。

おそらく、2か月もたってから書類を探させるのも悪いから、新しく署名をもらえばよいと、営業所で判断したのでしょう。それでも、原本があれば新たに書類を用意する必要もないわけです。いきなり書類持参で訪問する前に、電話で事情を説明して、原本があるかどうか尋ねてもよかったのではないかと思うのです。

原本、原本と繰り返すのと、署名のための用紙を差し出すのが、どうも矛盾しているように私には感じられました。言葉の出し惜しみ、と言ってしまっては、よかれと思って書類を作ってきた人に悪いのですが、黙って作業を進めないで、一言聞けばいいのです。そのほうが、事がスムーズに運ぶ可能性も高いのではないかと思った次第です。

(2)の例は、明らかに話を端折りすぎています。これは若い訪問販売の人の言葉ですが、一種の泣き落とし戦術です。上司に、「注文をとってくるまで帰ってくるな。帰れないと思え。その心意気で行ってこい」と送り出されたのかもしれませんが、それをそのまま客に言うのが泣き落とし作戦です。情にほだされた客がOKしてしまうこともあるのでしょうか。

それにしても、「とってくるまで的なとこがあって」は、くだけすぎ、端折りすぎです。もっと補足説明がほしいし、この人の言葉は、「一つお願いします」以外は敬語にもなっていません。セールストークは、友達との会話ではないのです。

こういう場合、脅しはもってのほかですが、泣き落としも勧められません。商品やサービスに自信があるのなら、言葉を尽くしてその説明をするのが本筋だと思います。

野口 恵子(文教大学非常勤講師)