ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)

つい、使ってしまう、ちょっとおかしな表現

紋切り型報道文「~ことがわかった」

わかったという境地に達するまでには、試行錯誤、紆余曲折がある

(1) この地区で空き巣や店舗荒らしの犯罪が増えていることが、警察への取材でわかった
(2) タレントのAさんとBさんが婚約したことがわかった。二人の所属事務所が発表した
(3) 「とうとう」と「やっと」は意味が違うことがわかった
(1)と(2)は報道の文、(3)は大学の授業での学生のコメントです。いずれも、はっきりしなかったものごとが明らかになる意の「わかる」が使われているのだと思いますが、ここは、「わかった」よりも「教えてもらった」と書くべきではないでしょうか。あたかも真実を発見したかのように「わかった」と結ぶのは安易すぎます。

筆者が本当にわかったことと、誰かに教わったことはイコールではありません。発表をそのまま信じるのは自由ですが、それを「わかった」と書いてしまうのは勇み足と言わざるを得ません。「わかる」までには、自分でも徹底的に調べ、得られたさまざまなデータを基に考え抜くことが不可欠です。それらのプロセスを経て、「結局わからなかった」ということのほうが多いくらいなのです。簡単に「わかった」と思い込むのはむしろ危険なのです。

(1)にわざわざ「警察への取材で」と書いてあるのは、警察の公式発表ではなく、足を使った取材で聞き出したと言いたいのだと思われます。「わかった」と書くと、筆者がその話を真実と見なしていることになります。報道する立場の人は取材先の広報担当者ではないのですから、裏付け調査をしてから報じるか、それができなければ、伝聞の形をとればいいのです。「わかった」を使わずに、「警察関係者の話では、犯罪が増えているとのことだ」と書くということです。

(2)は「二人の所属事務所が発表した」と書いてあるのですから、「わかった」は不要です。「(二人が)婚約したと所属事務所が発表した」でいいわけです。

しばらく前から、報道文特有のこの文末がいずれ大学生のレポートにも現れてくるだろうと思っていましたが、実際にそうなりました。(3)のように、授業中に教員が話したことをそのまま書いて、「~ことがわかった」とするのです。

「とうとう」と「やっと」の違いについて、例を挙げて私が説明しました。辞書や参考書に書いてあることではありますが、自分でも例文を作り、思考もし、得られた結果を学生に伝えました。けれども、教えられたからといって事実がわかったと思い込むのは間違いです。鵜呑みにしないで、自分で調べてみることが肝要だと私は考えています。ものごとは、そう簡単にわかるものではないのです。

わかったという境地に達するまでには、試行錯誤、紆余曲折があるはずです。途中を省略して、手っ取り早く答えを教えてもらい、それでわかった気になっても、結局は何もわかったことにならないのです。

野口 恵子(文教大学非常勤講師)