ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)
つい、使ってしまう、ちょっとおかしな表現
「~かねます」は丁寧な否定表現なのか
「~かねる」には強さとキツさがあることに注意する
本メールに直接ご返信いただきましても対応いたしかねます。
これはカード会社からのメールの最後に書かれていたものですが、メールの出だしはこうです。「平素は当カードをご愛用賜り、誠にありがたく厚く御礼申し上げます。このたび、一部サービス内容の変更および新たなサービスをご用意させていただくこととなりました」。このきわめて丁寧な文(文法や接続に少し問題はありますが)と、最後の一文は対照的です。「このメールに返事をもらっても対応しかねる」と冷たく突き放しているのです。客に向かって直接使うべきでない「対応」という単語を用いているのも問題ですが、「できない」を「かねる」と言い換えるのは姑息な手段と言わざるを得ません。
ビジネス敬語の指南書に、「否定形はなるべく使わないで『~かねます』と言いましょう」と書いてあることがあります。確かに、顧客への応答が否定形ばかりなのは避けるべきです。注文を受けて、「できません」「わかりません」「不可能です」「無理です」などと答えていては、商売になりません。だいいち、客に対して失礼です。
しかしそれは、否定形を使うことが失礼なのではなくて、否定的な返答をすること、すなわち客の要望に応じない、もしくは応じられないことが失礼なのです。言葉を言い換えるだけでは解決しません。
「できません」の代わりに「いたしかねます」「できかねます」を、「わかりません」の代わりに「わかりかねます」を用いても、顧客を満足させることはできません。まずは、否定的な返事をしなくてすむように努力を重ね、準備を怠らないことが肝要です。それでも否定せざるを得ない場合には、小手先の細工などせずに、堂々と否定すればいいのです。その際に、文章であれば文体、口頭であれば口調や表情に気を配るのは言うまでもありません。
「~かねる」はたとえば、「こらえきれない」「黙って見ていられない」の意で、「腹に据えかねる」「見るに見かねる」のように使われます。言葉から受ける印象はかなり強いものです。よい意味で使われるのは、「待ちかねる」から生まれた「いらっしゃいませ。お連れ様がお待ちかねですよ」くらいのものではないでしょうか。「~かねない」となると、そのキツさはより激しくなります。「あの男ならやりかねない」「国際問題に発展しかねない」など、よくないことにしか用いられません。
「する」の謙譲語「いたす」に「かねる」をつけた「いたしかねます」の場合、「かねる」の強さとキツさに「いたす」の謙虚さが消されてしまい、下手に出ている感じがなくなるのです。
客の利便を第一に考えてサービスに徹したいと本気で思っているのなら、何とか工夫して、「本メールに直接ご返信いただ」けるようにするのが最良の策です。それがかなわない場合には、たとえば次のように言えばいいのです。実際にこのような文面のメールも少なくありません。
「このメールアドレスは送信専用ですので、お手数ですが、お問い合わせは専用フォームよりお願いいたします」。特別に慇懃ではありませんが、失礼でもありません。否定形を嫌う向きにも、これなら認めてもらえると思います。
もっとも、私自身は否定形を否定しません。「わかりかねます」と言われるより、「ちょっとわからないのですが」と言われたほうが、情報が得られなくてがっかりすることに変わりなくても、ショックは少ないような気がします。
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