ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)
つい、使ってしまう、ちょっとおかしな表現
「暑いかもしれない」は、「エアコンをつけてください」の同義語かもしれない
はっきり言わないと、理解してもらえないこともある
「暑いかもしれない」
7月の大学の教室。「暑かったら言ってくださいね、エアコン入れますから」と言って、私は節電モードで授業を進めていました。しばらくして男子学生が手を挙げて言った一言です。「かもしれない」は、可能性はあるけれども確かではない、というときに用いるものですが、もちろん学生はそんな意味で使ったのではありません。この「かもしれない」は、「明日は雨が降るかもしれない」とは異なり、「暑い」というストレートな表現をやわらげるために添えたものです。
そして、これは、冷房のスイッチを入れてほしいという要望の表明です。新しい「依頼の表現」を使って、「エアコン入れてもらってもいいですか」と言ってもよさそうなものなのに、学生はそう言っていません。彼が選択したのは、許可を求める形をとった遠回しの依頼よりももっと婉曲な依頼のメッセージだったのです。
言われた側も、話者の意図をすぐに察します。日本語の教科書に出ている「冷房をつけてください」という言い方は、目上の人に頼むような場面では使われません。「あのう、ちょっと暑いような気がするんですけれども」とか「恐れ入りますが、エアコンを」のように、含みを持たせて言葉を止める方法が好まれます。
相手はたいてい、「あ、そうですね、冷房を入れましょうね」と応じてくれます。「暑いかもしれない」というのも、若者なりの婉曲表現なのです。
万が一、相手が察してくれない場合は、言葉できちんと依頼する必要が出てきます。前項にも書いたように、依頼の言い方はいくつもあります。たとえば、「少し暑くなってきたので、すみませんが、エアコンを入れていただけますか」と言ってもいいでしょう。
最後まで言い切ったり断言したりすると押しつけがましくなるのではないかと遠慮して、はっきりものを言うことを避ける傾向があります。けれども、遠回しに言って伝わらなかったり、言葉を出し惜しんだあげくに、「もう暑くて耐えられない! どうして冷房つけないの?」とイライラしたりするより、はっきり頼んだほうが身のためです。察しない相手を逆恨みしても、室内は快適な温度になりません。
可能性を述べる「かもしれない」は、依頼以外にも用いられます。新発売のお菓子を口にして、「もしかして、私、これ好きかも」と言ったりします。「おいしい。これは気に入った」と思ったのなら、「私はこれが好きだ」と言えばよいのですが、断言を避けるのです。「もしかして」「かもしれない」と2か所にぼかしを入れています。
「暑い」とか「好きだ」とかいうのは本人の感覚や感情ですから、「かもしれない」とは相容れないはずですが、恥じらいの気持ちが、言い切ることにブレーキをかけるようです。それでも、食べてみてその味が好みに合えば、「好きかも(しれない)」などと言わないで、「好きだ」と宣言する勇気を持ってもいいと思います。
はっきり言わないのは謙譲の精神の表れと言えますが、はっきり言わないと理解してもらえない場合があります。ごまかしているのではないかと誤解されることもあります。注意が必要です。
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