ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)
つい、使ってしまう、ちょっとおかしな表現
相手の好意を断るときに「大丈夫です」と言う?
「イエス」か「ノー」かはっきりさせたほうが相手の都合もいいときは、遠慮せずに伝える
「お茶、お入れしましょうか。それとも、コーヒーがよろしいですか」
↓
「あ、大丈夫です」
いつごろからかよく覚えていないのですが、大学の講師控え室でこのやりとりを聞くようになって何年かたちます。お茶を用意しようとする大学職員の好意を断ったり辞退したりする教員が、「大丈夫です」と言うようになったのです。そのあとに、「すぐ帰りますから」とか「すみません」とか付け足す人も多いようです。
「いいえ、結構です。すぐ帰りますので。どうもありがとうございます」と、まず断り、訳を言い、そして礼を述べる、というのが模範的な返答とされていたのは昔の話です。「ノー」と言えない、もしくは「ノー」と言わない日本人および日本語、というのは今に始まったことではありませんが、その傾向がこのごろさらに強まってきた感があります。
「いいえ」はキツいし、「結構です」はもっとキツいということで、使えなくなってしまいました。せっかくの相手の好意をぴしゃりとはねのけるように感じて、多くの人がこの表現を避けるようになったのです。
その代わりに登場したのが「大丈夫です」なのでしょう。むろん、「結構です」はやめたものの、「大丈夫です」も使わない教員もいて、「あ、いえ、もう帰りますので。すみません」とか、「あ、今飲んできたところですので。ありがとうございます」などと答えています。長い間「いいえ、結構です」と言ってきた私も、実はそうです。
『大辞林』(三省堂)によると、形容動詞としての「大丈夫」の意味は、「(1)危険や心配のないさま。まちがいがないさま。(2)きわめて丈夫であるさま。非常にしっかりしているさま」となっています。副詞としての「大丈夫」は、「よい結果になることを信じ、それが確かであることを保証するさま。たしかに。きっと」と定義されています。今のところ、新しい用法の「大丈夫」についての記述はありません。
あるとき、日本人の学生が「日本語は難しい」と言ってきました。コンビニで弁当を購入した際に、店員に「お箸はおつけしますか」と聞かれ、「大丈夫です」と断ったのに、箸がついてきたというのです。「大丈夫です」は「お願いします」の意味にもなるということでしょうか。
このような場面では「イエス」か「ノー」かはっきり伝達することが要求されますし、そのほうが相手にとってもありがたいのですから、「いいえ、要りません」と言えばよかったのです。伝達内容はきっぱりと、口調はやわらかく、にこやかに。そうすれば、キツい印象など絶対に与えません。
別の学生は、親戚の家での食事の最中に「お代わりは?」と聞かれて、「大丈夫です」と答えたそうです。そうしたら、その家のおばさんに、「ほしいのかほしくないのか、はっきり言わないとわからない」と、とがめられたのだそうです。「いいえ、結構です」が使いにくければ、「もう十分いただきました。ごちそうさまでした」と言えばいいと思います。
相手に気をつかって遠慮がちに断ったり辞退したりするときに「大丈夫です」を使うことを否定はしませんが、遠慮せずに断ったほうがよい場合もあるのです。スーパーやコンビニでレジ袋や箸の要不要を問われたときに、「いいえ、結構です」「いいえ、要りません」と言っても相手が傷つくわけではなく、むしろ感謝されるでしょう。断るときは「大丈夫」と言えばよい、とだけ覚えていると、とんだ誤解が生じる恐れがあるということです。
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