ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)

「仕事」がスムーズに進む言葉のルール

社員の応対で、その会社の教育は透けて見える

電話応対などの会話は、ちょっとしたことだと思われがちです。しかし電話の取り次ぎ方しだいで、しっかりした会社かそうでないかは透けて見えてしまうものです。また、その際に自然な敬語が使えると、それだけでその会社の教育が行き届いているという印象を与えます。さらに、会社に出入りしている業者に対する言葉づかいひとつで、あなたが横柄に思われたり、逆に尊敬を集めたりすることもあります。
自分1人の態度だと思っていても、時に会社全体の発言としてとらえられることもあるので注意しましょう。

不在の人宛の電話応対
不在の人宛に取引先から電話がかかってきた際、

× 「すみません、今、田中は外出しています」

 「申し訳ございません。あいにく田中は外出しておりまして、午後3時には戻ってくる予定となっております。もしよろしければ、戻りしだい、こちらからお電話させていただきますが、いかがいたしましょうか?」

電話の不便なところは、相手に必ずいつもつながるわけではないということでしょう。たとえ携帯電話であっても、電車の中や会議中であれば、なかなかつながりません。 相手が不在のとき、電話の取り次ぎ方によって、そのあとの対処が変わってきます。たとえば、いつ電話をしても「外出中です」としか言ってもらえないときは、いつまでたっても相手と話すことができません。一方で、「○時に戻って参ります。戻りしだいご連絡させていただきます」と取り次いだ人が伝えてくれれば、あとは相手から連絡が来るのを待てばよい、ということになります。電話の取り次ぎ方ひとつで、その会社がどれぐらいしっかりした会社なのかが透けて見えると言われています。とくに電話は相手に見えない分、丁寧な言葉はもちろん、相手の立場になって受け答えできているかどうか、という点が問われます。

外出中の社長宛の電話応対
外出中の社長宛の電話に新入社員が出た際、

× 「社長の本田はあいにく外出しております。もしよろしければ、本田から折り返させますけれども、いかがいたしましょうか?」

 「社長の本田は、あいにく外出しております。もしよろしければ、戻りしだい、こちらからご連絡させていただきますが、いかがいたしましょうか?」

自分より目上の人について話すとき、いくら社内であっても明らかに目下の人が「(さ)せます」という使役の表現を社長に使うことは、人によっては不自然に感じます。 ここでスマートな表現に変えるためには、2回目の固有名詞をまず取ることです。社長宛の電話なのですから、折り返す相手は社長に決まっているので、わざわざ「本田」と名前を入れる必要はありません。主語がなくても、「こちらからご連絡させていただきます」というだけで、十分伝わります。だれかに何かをさせる「使役」表現は、たとえ社内であっても自分より目下の人に使うのが自然です。

取引先に対する言葉づかい
会社に出入りする宅配業者の方に対して、

× 「ごくろうさま

 「いつもありがとうございます」

「ごくろうさま」という言葉は目上の人から目下の人に対して使う言葉です。たとえば、出入りの宅配業者の人に向かって、「ごくろうさま」という言葉を、とりわけ入社間もない若い社員が使っていると、横柄な印象を与えてしまうので注意しましょう。それだけで「この会社の教育はなっていない」と評価される可能性もあります。 たしかに宅配業者の人に対して、会社は発注する側の立場なので、立場が上だと感じている人もいます。けれども、仕事上の上下関係でものを言う人というのは、単に会社の権力を振りかざしているのに過ぎません。このような言葉づかいをしていると、品性のない人だと思われてしまいます。ですから、さきほどの例で言えば、せめて「お疲れ様です」、もしくは若い人が言うのなら、「いつもお世話になっております」「いつもありがとうございます」のほうが何倍も好感度の高い言い方になります。

新しい案件の発注先を同僚と相談している際、

× 「これはあの業者を使って……」

 「この仕事は、○○さんのところにお願いしよう」

「使う、使わない」もとても上下関係を感じさせる言葉です。ある会社が○○の業者を使うというのは、明らかに使う会社が上、使われる業者が下というニュアンスが出てきてしまいます。たとえば、企業のトップが「○○の業者を使う」という言い方ばかりしていると、部下たちもそろって「使う」という言い方をするばかりか、きっと会社全体でその業者を軽く見るようになってしまうでしょう。 それに対して、トップの人が努めて、「この仕事は、○○さんのところにお願いしよう!」という発注先を尊重する言い方をしていると、部下たちも発注先を大切にする空気が生まれてくるはずです。相手をどのような目線で見ているのかは、ちょっとしたひと言にも現われてしまうことがあります。その代表的なものが、「使う」という表現です。会社も人も道具ではないのですから、「使う」という表現はなじみません。

間違い電話の応対こそ日頃からの姿勢が現われる
会社に掛かってきた電話が間違い電話だとわかった際、

× 「間違えてますよ!(とすぐにガチャンと切る)」

 「こちらは○○社ですが、何番におかけですか?」

間違い電話は、自分には関係がないので、「違います!」などとついぶっきらぼうな対応になりがちです。しかし、とりわけ会社に掛かってきた電話が間違いだったというケースを想像してみてください。とくに幅広い商品を扱う会社の場合、電話の先にいる人がどこでお客様になるかわかりません。たとえ間違い電話だとしても、日頃から丁寧な対応を心がけていたら、失礼な場面は少なくなるはずです。 間違い電話は、私もダイアルの押し間違えなどでたまにしてしまいます。そんなとき、「まったく関わりのない相手に対して、どのように対応するかで電話の向こうにいる人の本質が見える」ような気がします。たとえば、実際に私が間違い電話をかけたときに、「こちらは○○社です。失礼ですが何番におかけですか?」と言われ、その美しい対応に感動したことがあります。それに対して、「ウチは違いますけど!」とキツイ言葉が返ってきたときには、番号を確認するのも怖くなりあわてて電話を切ってしまいたくなります。もちろん間違い電話の相手と、今後何かの関わりがあることはまれかもしれません。しかし、間違い電話にさえも丁寧に出られる人には、日頃からの意識の高さを感じます。 見ず知らずのどんな相手に対しても「丁寧な言葉づかい」ができる。それも究極の「会話力」かもしれません。

渡辺 由佳(フリーアナウンサー・マナー講師)