ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

納税猶予税額の免除と贈与者が死亡した場合のみなし相続とは
●贈与税の納税猶予税額が免除になる事由

非上場株式等に係る納税猶予制度は、相続税と贈与税に共通した事項が多く、猶予税額を納付することとなる事由も「相続税の納税猶予制度のしくみとは」で述べた相続税の場合とほぼ同様です。
一方、猶予税額が免除になるのは、主として次の場合であり、このうち(4)と(5)は、相続税の場合と同じです。

(1)贈与者の死亡のとき以前に経営承継受贈者が死亡した場合
(2)贈与者が死亡した場合
(3)経営承継受贈者が納税猶予を受けていた株式を「非上場株式に係る納税猶予制度」に係る贈与をした場合
(4)経営承継受贈者が、その保有する株式等の全部を同族関係者以外の1人に一括譲渡した場合
(5)認定贈与承継会社について、破産手続開始の決定または特別清算開始の命令があった場合

これらのうち(1)の場合には、通常の相続となり、死亡した経営承継受贈者の相続人について、相続税が課税されることになりますが、その相続人とその株式等について、一定の要件を満たせば、相続税の納税猶予制度の適用を受けることができます。
上記の(3)は、経営承継受贈者(2代目経営者)がその後継者(3代目経営者)に納税猶予の適用を受けていた株式を贈与(再贈与)した場合の免除規定ですが、次の点に注意する必要があります。
[1]株式の再贈与を受けた者(3代目経営者)が、その贈与について、贈与税の納税猶予制度の適用を受けない場合には、経営承継受贈者(2代目)の納税猶予税額は免除されない。
[2]納税猶予を受けていた株式を経営贈与承継期間(5年間)が経過した後に再贈与した場合に上記の免除規定が適用される。したがって、経営贈与承継期間が経過しない間に株式の再贈与をしても、納税猶予税額の免除は受けられない。
[3]ただし、[2]の例外的措置として、経営贈与承継期間中に経営承継受贈者(2代目経営者)が身体障害者となったことなどやむを得ない理由により、その後継(3代目経営者)に株式を再贈与し、その後継者が贈与税の納税猶予制度の適用を受けるときは、上記の免除規定が適用される。


●贈与者が死亡した場合には贈与株式に相続税が課税される

ところで、非上場株式等について贈与税の納税猶予の適用を受けた後、贈与者に相続が開始した場合、納税猶予されていた贈与税が免除になりますが、一方で、その相続に係る相続税については、次のように取り扱われます。

(1)贈与税の納税猶予の適用を受けた株式等は、経営承継受贈者が贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなす
(2)この場合に、相続税の課税価格に算入する株式等の価額は、贈与により取得したときにおける価額とする

要するに、株式等の贈与者に相続があると、納税猶予を受けていた贈与税を免除すると同時に、すでに贈与を受けて納税猶予の対象とされた株式等について、贈与時の価額で相続税課税に取り込むということです。この取扱いは、納税猶予について、贈与と相続の「つなぎ」の役割を果たしています。
この場合の相続税課税において、一定の要件を満たせば、その相続税について納税猶予制度の適用を受けることができます。もっとも、この場合には、雇用の8割維持などのいわゆる事業継続要件はありません。これは、贈与を受けた時点で事業継続要件があるため、事業承継が完了しているとみることができるからです。
いずれにしても、非上場株式等に対する相続・贈与税制では、一定の要件を満たす事業承継であれば、相続と贈与のいずれであっても、連続的に納税猶予制度が適用されるよう措置されているわけです。

小池 正明(税理士)
2018年1月末現在の法令等に基づいています。