ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

都道府県知事の認定を受ける条件と手続きのしかたとは
●都道府県知事の認定を受けるための条件

事業承継税制(株式納税猶予制度)は、相続開始後または株式の贈与後に都道府県知事の「認定」を受けた場合に適用されますが、認定を受けるための条件は以下のとおりです。

 ・会社の要件を満たすこと(下記の認定対象外の会社でないこと)
 ・被相続人の要件を満たすこと
 ・相続人の要件を満たすこと

このうち「被相続人の要件」と「相続人の要件」は、「被相続人と相続人の要件を満たしているか」で説明します。

●認定対象外となる「会社」の範囲

事業承継税制は、「非上場株式等に係る納税猶予制度とはどんな制度か」で述べた中小企業基本法の中小企業者に適用することを原則としていますが、次に該当する会社は、都道府県知事の認定を受けることはできません。したがって、これらの会社は、株式の納税猶予制度を受けることができません。

(1)上場会社
(2)経営承継円滑化法の中小企業に該当しない会社(大企業、医療法人等)
(3)風俗営業会社(風営法の性風俗関連特殊営業を営む会社)
(4)資産保有型会社…直前の事業年度において総資産価額に占める「特定資産」の価額の合計額の割合が70%以上である会社
ここで「特定資産」とは、次に掲げる資産をいいます。
 ・有価証券(実質的な子会社株式を除く)
 ・その中小企業者が現に自ら使用していない不動産
 ・ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利(事業の用に供することを目的として有するものを除く)
 ・絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産、貴金属および宝石(事業の用に供することを目的として有するものを除く)
 ・現預金(代表者および代表者の同族関係者に対する貸付金および未収金を含む)
(5)資産運用型会社…総収入金額に占める特定資産の運用収入の割合が75%以上である会社
(6)総収入金額がゼロである会社
(7)常時使用する従業員がゼロである会社
(8)その中小企業者の特定特別子会社(代表者と生計を一にする親族により総議決権の50%超を保有される会社)が上場会社等、大法人または風俗営業会社に該当する会社

上記(3)の風営法関連事業では、「性風俗関連特殊営業」に該当する会社だけが認定の対象外です。したがって、同法に関する事業でもパチンコ業やゲームセンターなどは認定対象となります。
上記(4)の資産保有型会社における総資産の「価額」および特定資産の「価額」は、いずれも貸借対照表における帳簿価額により判定します。
注意したいのは、特定資産の割合の「70%」の判定方法です。個々の特定資産の価額で判定するのではなく、特定資産の価額の合計額によります。したがって、上記の特定資産が2以上あれば、その全部の価額を合計し、その合計額が総資産価額の70%以上であれば、資産保有型会社に該当することになります。
特定資産のうち、有価証券については「実質的な子会社株式を除く」こととされており、持株会社形態を採用している場合の親会社は認定の対象になります。特定資産となる有価証券は、投資目的で保有しているものなどが該当します。
不動産については「現に自ら使用していない」ものが特定資産になりますから、いわゆる遊休不動産や賃貸用(貸付用)不動産が該当します。
上記(5)の資産運用型会社における「総収入金額」とは、売上高をいい、営業外収入や特別利益項目の収入金額は含まれません。
上記(7)の「従業員」とは、文字どおり従業員であり、役員ではありません。したがって、役員のみの会社は「従業員ゼロの会社」となり、認定対象外です。ただし、「使用人兼務役員」は従業員として取り扱われます。
なお、この場合の従業員とは、次のいずれかの者をいいます。したがって、社会保険に加入していない事業所は、認定を受けられず、事業承継税制の適用はありません。

(1)厚生年金保険法、船員保険法または健康保険法に規定する被保険者
(2)その会社と2か月を超える雇用契約を締結している者で75歳以上である者

●資産保有型会社、資産運用型会社の例外措置

前記の「資産保有型会社」と「資産運用型会社」は、総資産価額に占める特定資産の価額の合計額の割合が70%以上、あるいは総収入金額に占める特定資産の運用収入の割合が75%以上という形式基準による判定です。そうすると、実態のある優良企業が認定対象外となってしまうおそれがあります。
そこで、次のいずれにも該当するときは、資産保有型会社および資産運用型会社には該当しないものとみなして、都道府県知事の認定の対象となります。

(1)常時使用する従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他固定施設を所有し、または賃借していること
(2)常時使用する従業員の数が5人以上であること
(3)相続開始の日または贈与の日において、3年以上継続して、自己の名義と計算において、商品販売等(商品の販売、資産の貸付け、役務の提供など)を行なっていること

これは、事業の実態がある企業には事業承継税制の適用を認めるという趣旨であり、形式的に資産保有型会社または資産運用型会社に該当しても(賃貸用不動産を多く所有するような会社であっても)、認定の対象となります。

●認定を受けるための手続きと提出書類

都道府県知事の認定を受けるためには、相続開始の日の翌日から8か月以内に、「認定申請書」(様式第8)とその写し1通を、以下の書類を添付して都道府県の担当課に提出しなければなりません。

(1)認定申請日におけるその中小企業者の定款の写し
(2)経営承継相続人の被相続人の死亡の直前および死亡の日におけるその中小企業者の株主名簿の写し
(3)登記事項証明書(被相続人の死亡の日から認定申請日までの間に作成されたものに限る)
(4)経営承継相続人が相続または遺贈により取得したその中小企業者の株式等に係る相続税の見込額を記載した書類
(5)従業員数起算日における従業員数証明書
(6)その中小企業者の認定申請日の直前の事業年度(実質基準によって、資産保有型会社等の適用除外規定の適用を受ける場合には、3事業年度)の貸借対照表、損益計算書および事業報告書
(7)認定申請日において、その中小企業者が上場会社等、大法人等または風俗営業会社に該当しない旨の誓約書
(8)認定申請日において、その中小企業者の特定特別子会社が上場会社等、大法人等または風俗営業会社に該当しない旨の誓約書
(9)経営承継相続人および被相続人の親族のうち株式等を有する者の戸籍謄本等
(10)上記のほか、認定の参考となる書類

また、贈与の場合の認定申請は、株式を贈与した年の翌年1月15日までに、上記に準じた書類を添付した「認定申請書」(様式第7)を提出して行ないます。
以上の書類を添付して認定申請書を提出した結果、都道府県知事が認定をしたときは、「認定書」が交付されます。

小池 正明(税理士)
2018年1月末現在の法令等に基づいています。