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事業承継と相続対策

遺言書に書けることと書けないことは?

法的効力を持つのは相続、身分上の行為、財産の処分に関する行為に限られます。
遺言書にはどんなことでも書けますが、すべてが法的に有効なわけではありません。たとえば、「妻の再婚を禁じる」と遺言しても、奥さんがそれに縛られる必要はないということです。


<<遺言書に書いて法的効力があるもの>>
遺言書が法的効力を持つのは、相続、身分上の行為、財産の処分に関する行為に限られます。
具体的には、次のような内容です。


(1)財産の処分方法
「自宅は妻に、預貯金は長男に相続させる」というように、誰にどの財産を相続させるか指定できます。内縁の妻や友人など第三者への遺贈、母校や公益団体への寄付、財団法人の設立なども可能です。


(2)相続分の指定
それぞれの相続人が遺産を相続する割合(相続分)は民法で定められていますが、その割合を変更することができます。
たとえば妻と子ども一人がいる場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつです。これを、妻の相続分を4分の3、子どもを4分の1にするなど、相続分を変更するように遺言できます。
ただし、相続人には最低限保証された相続分(遺留分)が残されています。遺留分を侵害した遺言書は無効ではありませんが、遺留分を侵害された相続人が、他の相続人に遺留分を支払うように請求する可能性があるので注意が必要です。


(3)負担付遺贈
「財産をあげる代わりに○○してほしい」と、条件付きで財産を遺贈することを「負担付遺贈」といいます。たとえば、「自宅を長男に相続させる代わりに妻の面倒を最後まで見てほしい」とか、「預金を遺贈する代わりに、私が可愛がっているペットの面倒を見てほしい」といった内容です。
ただし、相続発生後、指定された人が遺贈を放棄する可能性があるので、生前、相手に了承を得ておいたほうがいいでしょう。


(4)遺産分割の禁止
今自分が死ぬと、遺産分割をめぐってトラブルが起きそうな予感がある場合は、自分の死後一定期間(最長5年間)、遺産分割を禁止するという遺言をのこすことができます。


(5)相続人の廃除、廃除の取り消し
日頃から遺言者に暴力を振るったり、人前で悪態をつくなどの重大な非行をする相続人がいる場合は、相続人から廃除するという旨の遺言をすることができます。その場合は遺言者の死後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申し立てをすることになります。
反対に、生前に相続人を廃除していたが気が変わったという場合は、遺言で廃除を取り消せます。


(6)子どもの認知
結婚をしない男女の間で生まれた子どもを「非嫡出子」といいます。もし、父親がこの子どもを認知しなければ法的に親子関係が生じないため、子どもは父親の財産を相続できません。
認知はしたいが、なんらかの理由で生前は認知が難しい場合は、遺言書の中で認知することができます。また、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1ですが、遺言することによって非嫡出子の相続分を増やすことも可能です。


(7)遺言執行者の指定
たとえ遺言をのこしても、遺言に書かれていた財産の分配に不満がある相続人が遺産分割を妨害したり、手続きを遅らせたりすることがあります。それを避けるために、遺言の内容を実行してくれる遺言執行者を遺言書で指定することができます。
遺言執行者には原則として誰でもなれますが(相続人や受遺者も可能)、ある程度の法律知識がある人が望ましいでしょう。


(8)後見人、後見監督人の指定
すでに配偶者が亡くなっていて、まだ幼い子どもがいる人は、後のことが気がかりです。そんな場合は、本人に代わって子どもの監護や財産管理を行なう後見人を遺言で指定できます。


(9)相続人間の担保責任の指定
遺言書の指定どおりに財産を分配しようとしたら、建物が壊れていて使いものにならなかったり、絵画に傷がついて資産価値がほとんどなくなっているような場合、その財産を受け取る人は他の相続人よりも損をしてしまいます。
民法ではこのような場合に、財産の価値が減った分を他の相続人が金銭で穴埋めするように定めています。これを「担保責任」といいます。誰がどれだけ負担するかは各人の相続財産の金額によって決まりますが、遺言によって特定の人に全部負担させるなど担保責任の内容を指定することができます。


(10)遺留分の減殺方法の指定
特定の人に財産を全部相続させるというように、他の相続人の権利を侵害する遺言をのこした場合、権利を侵害された相続人が他の相続人に対して遺留分の支払いを請求する可能性があります。その場合に、まずどの財産から支払う(減殺する)のかといった手順をあらかじめ遺言書で定めることができます。


 

著者
本田 桂子(NPO法人 遺言相続サポートセンター理事)
2009年4月末現在の法令等に基づいています。