ビジネスわかったランド (経営・社長)

やっかいなトラブル

解任した役員があちこちで機密事項を漏らしているようだ

弁護士を介し、話し合いによる解決を模索する。

直接的な法的措置としてはまず、退任役員に対して「営業秘密開示行為の差止め請求」を行なうことが考えられる(不正競争防止法〈以下「不競法」〉3条1項等)。緊急の場合であれば、裁判所への差止め仮処分の申し立ても検討することになるだろう。そのほか、損害賠償請求をして民事上の責任を問い、あるいは、刑事上の責任を問うことで、間接的に秘密漏洩を止めさせることも考慮に入れておくとよい。

<< 不競法による保護 >>

もっとも、法的措置をとるにあたっては、不競法上の要件を充たす必要があり、事案ごとに慎重な検討を要する。

(1)退任役員が秘密保持義務を負い、この義務に著しく違反すること
そもそも、役員は退任後も引き続き当然に秘密保持義務を負うのか。これについては現状、裁判所の判断が分かれている。裁判例の多数は、信義則上の義務を負うとするが、否定する例もある。さらに、退任役員が在任中に企業から開示された秘密を不正な利益を得たり会社に損害を与える目的で漏らしたという点も立証しなければならない。

(2)不競法上の「営業秘密」
漏らしている営業上の秘密事項が不競法で保護される「営業秘密」に該当するかどうか。これは、次のような条件をすべて充たす必要がある。
・情報が会社で秘密として管理 されている(たとえば「マル秘」と記載するなどし、それにアクセスする者が営業秘密であると認識したうえで、限定された者だけがアクセスできるよう厳重に保管し、アクセス者には守秘義務を課すことなどが考えられる)
・生産方法、販売方法その他の 事業活動に有用な技術上または営業上の情報である
・公然と知られていないものであること
いざ緊急事態が起きても、日頃の情報管理体制等によっては、法律上の要件を欠き、法的措置をとることが困難な場合が多い。質問のケースでも、具体的な事情によっては事後の法的措置は難しいかもしれない。

<< 訴訟ではさらなる情報漏洩も >>

仮に法律上の要件を充たしている場合でも、訴訟を起こすことが会社の経営にとって得策かどうか、慎重な検討が必要だ。
裁判は公開が原則なので、訴訟を通じて情報がさらに漏れる危険を負う。また、裁判の決着までには時間がかかり、その間、マスコミによって役員が退任するきっかけになった不祥事などが報道され、かえって会社の印象を悪くする危険性もある。
そこで、まずは事実を把握したらすぐに弁護士に相談し、訴訟の検討と並行して、弁護士を介した退任役員との話し合いによる解決を模索することが最初にとるべき措置となるだろう。
以上のとおり、こうした例で事後的に有効な法的措置をとることは難しい。結局、日頃から情報管理体制を万全にしておくことが、法的措置をとる困難さを緩和することになる。
たとえば、会社の営業秘密を選別して特定し、その取扱いに関して諸規程を設けるなど、情報管理体制を整えておくことも必要だ。また、役員在任中から誓約書や役員規程等により、退任後の秘密保持義務を課しておくことが望ましい。


月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。