ビジネスわかったランド (経営・社長)

やっかいなトラブル

取締役が人身事故を起こしたが、退任させなければならないか

人身事故は、禁錮以上の実刑で資格喪失。執行猶予が付けば、法律上は任務続行も可能である。

会社法では、取締役の欠格事由を次のとおり定めている。

(1)財産を管理する能力のない者
ア)成年被後見人または被保佐人
イ)破産宣告を受けて復権していない者

(2)犯罪を行ない会社財産を管理させることが不適当な者
ア)会社法上の犯罪を行なって刑に処せられ、その執行を終わった日(または刑の時効が完成した日)から2年を経過していない者
※刑の執行猶予中の者も含む
イ)会社法上の犯罪以外の犯罪を行なって、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わっていない者(または刑の時効が完成していない者)
※刑の執行猶予中の者は欠格者に含まれない
これは、会社の業務執行を担当して会社財産を管理するにふさわしくない者を排除するためである。欠格事由に該当する者を取締役に選任する決議は無効となり、選任後に欠格事由に該当する状態になったときは、取締役の地位を失うことになる。
したがって、取締役が人身事故を起こして禁錮以上の実刑に処せられた場合は、当然、取締役の地位を失うことになるが、執行猶予が付いた場合は、道義的にはともかく、法律上は取締役を退任する必要はない。

<< 人身事故と刑罰の実際 >>

人身事故を起こした場合、通常、業務上過失致死傷罪に問われ、刑法では5年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金と定められている。しかし、事件処理においては、交通事故に関する業務上過失致死傷罪の起訴猶予率は80パーセントを超えている。
これは、国民の多くが車を運転する今日、軽微な事件について国民の多数が刑事罰の対象となることは、刑罰のありかたとして妥当ではないこと、保険制度の普及で被害者への補償が充実してきたことにより、加害者が起訴されなくても被害者が納得する場合が多いこと、などの理由による。いずれにせよ、一般事件に較べると不起訴になる割合は相当高いといえよう。
起訴するか否かを判断するにあたっては、(1)加害者の過失の程度、(2)被害者の過失の有無・程度、(3)被害者の死傷の別および傷害の治療期間、(4)加害者の道交法違反の有無・内容、(5)加害者の行政処分歴、(6)加害者の前科、(7)被害者感情、が重要な要素となる。
検察官がこれらの事情を考慮した結果、処罰の必要性がないと判断すれば起訴猶予になる。また起訴された場合でも、事案が悪質でない限り、罰金刑にとどまるか、懲役・禁錮刑でも執行猶予が付く可能性が高い。
したがって、たとえ交通事故を起こしてしまっても、過失の程度や加害の程度が軽微であり、運転免許に関する行政処分歴がなく、加害者が更生を誓い、誠意をもって謝罪し、被害弁償をするなどして被害者感情が沈静化しているなどの事情があれば、起訴猶予になるか、罰金刑または執行猶予付きの懲役・禁錮刑になる可能性は高く、法律上においては、取締役を退任する必要がなくなるケースは多い。
ただし、飲酒運転など事案が極めて悪質な場合には、刑の重い危険運転致死傷罪で立件される可能性がある。
この場合は、その90パーセント以上は起訴され、執行猶予率も低くなる。


月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。