ビジネスわかったランド (経営・社長)
やっかいなトラブル
取締役営業部長が突然、行方不明になってしまった
事件性の有無を調べ、なければ解雇の手続きをとる。
当然のことだが、まずは、事実関係をよく調べる必要がある。会社の金を持っているかどうか。また、出張に行くなどと家族にも嘘をつき、自らの意思で行方をくらましていることなどが判明すれば、事件に巻き込まれた可能性は低いと思われる。
一方、社の業務のことを考えると、取締役には「忠実義務」と「注意義務」の二つの義務がある。取締役会に出席して業務執行の意思決定を行なうとともに、業務執行する取締役の行為の監督義務などだが、それらの義務を放棄している以上、取締役辞任の意思表示をしているのと同じことになる。さらに、営業部長としての仕事も放棄したと受け取らざるを得ない状況だ。
これらのことを総合的に考えて対処することである。
<< 従業員身分を先に解く >>
はじめに従業員身分を解く。方法は二つある。一つは、就業規則に「行方不明等で出社せず、その期間が○日以上に達したとき」は退職とみなす旨の規定があれば、自動的に退職として処理することができる。もう一つは解雇だが、営業部長解雇は「支配人その他重要な使用人の選任・解任」にあたり、取締役会の専決事項となる。
解雇手続きとして、予告をするか予告手当を支払うことになるが、労働基準監督署に解雇予告除外認定を提出し認定されると、解雇手続きを必要とせずに解雇することができる。一般には「2週間以上の無断欠勤で出勤の督促に応じないとき」に該当すれば認められる(取締役営業部長ともなれば、職責の重さからそれより短期でも妥当性はあろう)。行方不明者の場合は、簡易裁判所への公示送達により出勤の督促を行なう。
また、解雇予告除外認定を受けずに解雇するときは、公示送達により30日後に解雇するか、公示送達と同時に30日分の解雇予告手当を支払うか、のいずれかになる(解雇予告手当は法務局に供託)。
次に取締役解任について。これは、発行済み株式総数の過半数をもつ株主によって株主総会を開き、三分の二以上の賛成で決める特別決議を経なければならない。オーナー型中小企業の場合、(本来望ましいことではないが)この決議はいつでもできるともいえる。したがって、取締役としての身分の解任は後回しでもよいことになる。
なぜ、両方の身分を一度に剥奪しないか。それは、当人が戻ってきたとき、ショックが大きく、話し合いの余地がなくなると、不当解雇を理由とした仮処分申請や解雇無効確認の訴えなどを起こされかねないからだ。
行方不明の捜査願は、プライベートな部分もあるので家族が行ない、会社としては届出に協力するという関係にすべきであろう。原因や事情はできるだけ詳細に調べ、他の役員などと相談しながら諸手続きを行なう。
また、社員への配慮も大切だ。最初の二週間くらいまでは「体調を崩して休んでいる」といったことでよいだろうが、それを過ぎれば、正確な情報を伝えざるを得ないだろう。ただし、営業部長を補佐する次長・課長には最初から秘密厳守を条件に真実を伝えておくべきだろう。
伝える際には、得意先から問い合わせがあった場合に、くれぐれも事実以上の詮索を交えないよう、応答のしかたを申し合わせておく必要もある。
月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。
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