ビジネスわかったランド (経営・社長)

やっかいなトラブル

倒産会社の社長の資産が倒産前に息子名義に移されていた

計画倒産の可能性大。刑事告発も辞さぬ姿勢で臨む。

倒産会社に債権を有しており、その取引が社長を連帯保証人として行なわれていたことを前提にお話しする。倒産会社(A社)の社長は、個人が実質無資産となってしまえば債務履行には応じられない、応じる必要もないと考えたのであろう。計画倒産の可能性大だ。
たしかに外観上は、倒産会社の社長の思惑どおりに進むかもしれないが、打つ手はある。対抗策をとるためにも、まず最終的な債権額を確定させ、売掛商品が残っているようなら引き揚げなどの整理を行なうことだ。

<< 誠意が見られなければ >>

対抗策としては、次の四つが挙げられる。

(1)息子に対する回収交渉
資産を譲り受けた息子に対して債務の履行を交渉する。悪意がない場合や息子が道義的責任を強く感じている場合は、それで回収に結びつくことがある。
もっとも、本事例は資産隠しであることが濃厚なので、可能性は低いだろう。「連帯保証の相続性」を根拠に話し合うことはできるが、相続放棄が行なわれれば「相続性」もなくなる。穏便な回収交渉はダメ元と割り切ったほうがいいかもしれない。

(2)刑事告発の検討
普通の倒産なら、民事裁判を起こすしか手はないだろうが、このケースでは刑法上の罪を問えるかもしれない。そこで息子には、詐害行為に基づく刑事告発をちらつかせ譲歩を求める。
刑法には、強制執行免脱罪についての定め(96条の2)があり、本件はそのうちの財産仮装譲渡罪に抵触する可能性がきわめて高いと思われる。該当すれば、2年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。
仮装か否かの見分けは、さほど難しいことではない。息子の資金調達手段や売買代金の経路などを調査すれば一目瞭然だ。A社社長の計画に息子が同意して財産譲渡を行なった場合には、息子も「通謀虚偽表示」として刑事罰の対象となる。
刑事訴訟は、民事と異なって強権で捜査が行なわれるので証拠隠蔽は難しく、またスピーディに結論が得られるメリットがある。実際に訴追できるかどうかはわからないが、社長父子にはかなりのプレッシャーになるだろう。相手に誠意が見られぬ場合は断固とした姿勢を示すことも有効な手といえる。

(3)債権額見直しで回収協力要請
(1)と(2)は社長父子をターゲットとしたものだが、A社を相手とする手もある。債権額のなかには当然、質問者の会社の販売利益が含まれている。交渉いかんによっては利益部分を差し引き、原価相当分の回収を要求するに留めるなど、譲歩案を示せば、相手方の譲歩を引き出せるかもしれない。これはむしろ、(2)の前に検討したい手法だ。

(4)債務名義を取る
最後は、単独の手法というより、(1)~(3)と並行して行なっておくべきことだ。
民事上の争いになった場合に重要なのが前述の債務残高の確定だ。そのため、「債務残高確認書」にA社と社長の署名押印を求めることが何よりも大切になる。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。