ビジネスわかったランド (経営・社長)

やっかいなトラブル

自店の料理に対する事実無根の悪口を雑誌に書かれた

まずは抗議を。すぐさま訴訟を起こすのは考えものである。

名誉を毀損された場合、民事上の責任のほか、刑事上の責任を問うことも考えられるが、それには警察署などの捜査機関に六か月以内に告訴しなければならない。捜査を経て検察官が加害者を裁判所へ起訴すれば、刑事訴訟手続きが開始される。

<< 現実的ではない刑事告訴 >>

刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と規定している。「公然」とは不特定多数の人々が知り得る状態で、という意味で、「名誉を毀損」とは社会的評価を低下させることを意味する。市販の雑誌に人(法人も含む)の評価を低下させる事実を掲載すれば、名誉毀損罪が成立することになる。
さて、雑誌に掲載された内容だが、たとえば有機野菜を使用していることを謳い文句にして評判をとり、実際に有機野菜を使用していたにもかかわらず、使用していないと書かれたというものであるならば、社会的評価を低下させるものといえる。
ただし、刑法230条の2は、名誉を毀損する行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図る目的にあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」と定めている。加えて裁判例は、真実であることの証明の代わりに、真実であると信じたことにつき確実な資料・根拠に照らし、相当の理由があればよいとしている。
不特定多数を顧客とする飲食店に関する事実は公共の利害に関するものであり、これを公に指摘することは公益を図る目的に合ったと認められることが多いだろう。
したがって、雑誌社の責任者(刑事上の処罰対象は個人となる)において、掲載した事実が真実であること、あるいは真実であると信じる相当な理由があったことを証明できないときに、名誉毀損罪が成立する可能性が高いと考えられる。
しかし、捜査機関が表現の自由に気遣っていることもあるのか、検察官が名誉毀損罪として起訴する事例は少ないのが実情である。また、資料提供や事情聴取への協力などの努力を必要とし、最終確定まで相当な時間を要するため、刑事事件として告訴することは、必ずしも現実的とはいえない。
一方、名誉毀損の民事上の責任を問うため裁判所に民事訴訟を起こす場合、損害賠償だけでなく、謝罪広告などの名誉回復措置も併せて請求し、雑誌社を被告とすることもできる。民事訴訟の場合、訴訟の提起さえ行なえば、民事裁判の手続きが始まる。
民事で勝訴した場合も、認められる賠償額は満足できるものではないかもしれないし、謝罪広告は認められないケースもある。
民事訴訟で勝訴できる可能性が高い場合であっても、訴訟を起こすのが得策か否かは、現実的な検討が必要だ。裁判で白黒がつくまで、マスコミで報道されるなどして、かえって世間の注目を浴び、顧客層から不審の目を向けられるかもしれない。
訴訟を起こす前の初期対応の重要性を考慮すると、まずその段階から弁護士に相談することをお勧めする。


月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。