ビジネスわかったランド (経営・社長)

簡単健康法

足の上下運動
足の上下運動

足を上下させるだけで血流がよくなり万病に効く

有名な治療家、健康法研究家には変わった人が多い。これまで1000人を超えるそうした“変人”に会ってきたので、たいていのことには慣れているが、それでも名古屋の民間療法研究家・Nさんには度肝を抜かれた。何しろ住んでいる家が変だった。焼けているのである。
Nさんの話によると、数年前に火事になったが、暮らせないわけではないので、そのままにしているとのこと。おかげで、タクシーの運転手にNさんの名前を告げただけで、「あの焼けた家に住んでいる人ね」と、すぐに連れていってくれた。
玄関で声をかけると、「待ってたぞー」と元気な名古屋弁で主は現われた。自己を飾らない、ざっくばらんな人柄だ。焼けた家に住んでいるのも、この性格の故かと、妙に納得させられてしまう迫力があった。
実は、この家には全国から5000人近くのさまざまな病を抱える人が訪れている。パーキンソン病、肝硬変、脳腫瘍、脳梗塞、糖尿病、腎臓病、それに精神障害などなど。医者から匙を投げられたような病人ばかりである。そうした人たちが、Nさんの指導によって、次々と重い病から解放されていった。
しかも、Nさんが考案した足を上下に動かす「足の上下運動」という、実に簡単な健康法を毎日実践して元気になったというのだから、驚かされる。
「そんな簡単なことだけで健康になれるのですか」
「なれる、なれる。もともと人間は金がかからずに病気が治るようにできているんだから」
もっとも、型破りな言葉の裏には、深い知恵が見え隠れする。「人はもっと自然から学ばなければいかん。木の葉っぱは偉い」Nさんが足の上下運動を思いついたのも、山に籠もって植物を観察している際、木の葉が風で上下に運動をしているのに気づいたからだった。

葉っぱの動きが水を吸い上げる!?
Nさんは小学生のころから病弱で、不整脈、ネフローゼ、心臓弁膜症といった病気を患ったという。どの治療法も重い病には歯が立たず、最後に西式健康法(故・西勝造氏が独自の医学理論から発展させた健康法)に出会い、活路を見出した。のちに、その経験から西式健康法を指導するようになる。そして、多くの病弱な人たちを見ているうちに、「万病は静脈の血液がうまく流れないために起こる」と考えるようになった。
体の血液は、心臓から大動脈に流れ小動脈を通って毛細血管に至る。そこで、酸素と栄養素を体中の細胞に与え老廃物を受け取り、小静脈に入って心臓に戻ってくる。つまり、心臓から出ていく動脈(下降する血液)と心臓に戻る静脈(上昇する血液)とのバランスがとれて初めて全身の血液循環がよくなり、一個一個の細胞が健康でいられる、とNさんは考える。
「ところが、病気の体は血液が下がっても上がらない。だから、体に老廃物がたまり、病気になるんだよ。肝臓、腎臓、膵臓、腸などから血液が戻らず、老廃物がたまってしまったら当然、いろいろな臓器に病気が起きてくるだろう。それに内臓の働きが弱れば、便秘、頭痛、肩こり、頻尿、不眠、動悸、息切れといった、いろんな症状が出てくることになる」
では、どうして静脈の血液がうまく流れていかなくなるのか。「心臓だけの力で血液は循環しているわけではない」とNさんは言う。実際、成人だと、足から心臓までの高さは優に1メートルはある。心臓から押し出された血液は足の先までくると、もはやパワーがなくなり、とても重力に逆らって心臓まで戻る力はない。だとしたら、健康な人の場合は、どうやって血液が心臓まで戻るのか。
Nさんは、木の葉が風の力によって動くのを見て、そのヒントを得たのだ。
植物学の世界では、高さ数十メートルの木がどうやって水を吸い上げるのかという一つの謎がある。どう頑張っても、木は自分の力(毛細管現象)だけでは数メートルしか水を吸い上げることはできない。そこで、Nさんは、植物の葉が風を受けやすい形状になっていることに着目し、植物が水を吸い上げる原動力は、葉が風で上下することによって生じるポンプ作用にあることに気がついた。この慧眼には、学者のなかにも賛意を示す人がいる。
これと同じ仕組みが人間の体にもあるのではないか、とNさんは人間の足首に注目した。そして、足首が上下に動くことによって、ふくらはぎの筋肉が伸びたり収縮してポンプの役目を果たし、静脈に備わっている弁が逆流を防いで、血液を心臓へ送り返していることに気づいたのだった。

高血圧・痔には効果てきめん
植物は葉がある限り、病気にはならない、とNさんは言う。風がエンジンとなり、葉を上下させて、葉脈の循環を促進してくれるからだ。
「だったら、人間も風に震える木の葉のように足を上下に動かせばいいんだ。そうすれば、全身の血液循環がよくなる」
この結果、生まれたのが足の上下運動だ。
まずビールビンくらいの太さの丸太(長さ30センチほど、あるいは青竹踏み用の竹)を用意する。なければ、ビールビンでかまわない。そうして、仰向けになり、かかと側の足首を曲げ、シワができるところからやや上(ひざのほう)が当たるところに、先ほどの丸太に大きめのタオルを巻いたものを置く。その状態で、ひざを伸ばしたまま足全体を35度ほどの高さに上げ、そのまま落として丸太にアキレス腱を当てる。
そうすると、自然に足先が伸びてアキレス腱が縮むのだ。再び足を上げると、今度は足先が自然に上を向いてアキレス腱が伸びる。これをくり返すことで、ふくらはぎの筋肉が伸びたり縮んだりして、足のポンプ作用が効率よく促進されるというわけである。
この動作を片足50~100回行ない、終わったらもう片方の足も同様に行なう。慣れてきたら、徐々に回数も増やす。毎日くり返していると、全身の血液循環がよくなる。血液循環が悪くなって起こる高血圧や痔なら、たちどころによくなる。
ただし、絶対に無理をしないこと。足が痛くてできないという人は、ふくらはぎをマッサージするだけでもいい。
変な話だが、このNさんの健康法を実践している医師がたくさんいる。彼らはNさんを師と仰いでいる。Nさんのような人こそ、本当の知恵者というのかもしれない。

著者
宮田 充(医療ジャーナリスト)