ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
シジミは弱った肝臓を強くする最良の食材
シジミは弱った肝臓を強くする最良の食材
いまでは信じがたい話だが、昔は江戸でも業平橋のあたりではシジミがたくさん採れた。量だけでなく味もいいと評判を集めた。「業平蜆」と呼ばれ、江戸の名物の1つになっていた。
江戸の名物を紹介した『続江戸砂子』(1735年)も「なり平橋の堀にて取る、名産也。尾久蜆と共に大きさ小蛤ほどあり、風味甚だよろし、江州瀬田蜆名産といえども及ひがたし」と絶賛している。瀬田蜆は琵琶湖および瀬田川の産で、シジミのなかではとりわけ美味とされているが、それよりもうまいというのである。
もっとも、業平蜆が評判だったのには、もう1つ理由がある。実は、肝臓病の薬としてよく効くといわれたのだ。新鮮なシジミは体にいい。それを、江戸時代の人は経験的に知っていたのだった。
黄疸にかかった人がシジミを買い求める様を風刺した川柳すらある。昔は黄疸にかかると、人々はひたすらシジミを食べた。軽い肝臓病なら、薬を口にしなくても、それだけで治ってしまったといわれている。
肝臓を建て直す材料そして大工
それにしても、なぜシジミが肝臓にいいのか。その秘密がいまようやくわかってきた。壊れた家を新しく建て直すには材料と大工が必要になるが、どちらかが足りなければ、壊れた家は元には戻らない。たとえていえば、シジミはこの材料と大工の両方を備え、肝臓を建て直す成分が充満しているとなる。
まず材料からみてみよう。
「総合化学工場」とされている肝臓を修復するには、傷んだ肝細胞を1個1個治していかなければならない。その材料として最も大切なのは、たんぱく質である。肝細胞を修復するためには、約20種類のアミノ酸(たんぱく質の構成成分)が必要で、なかでも8種類の必須アミノ酸(これらは、体内で合成することができない)がとくに大切とされる。
食品に含まれるたんぱく質の善し悪しを決めるのは、この必須アミノ酸の量とバランスなのだが、それを評価するプロテインスコア(あるいはアミノ酸スコア)という指標の最高値100を、シジミは牛肉や卵などとともに示しているのである。
それだけではない。シジミには、タウリンやメチオニン、システインといった、肝機能を活性化するアミノ酸が豊富に含まれている。なかでも、特筆すべきはタウリンがもつ作用であろう。
神戸大学医学部第二内科の上野山林造博士は、慢性肝炎患者にタウリンを投与した結果、肝機能検査のうちとりわけGOTが低下することを確かめている。また、タウリンは胆汁酸と結合して「解毒作用」を促す働きもしてくれる。よく知られているように肝臓は毒性成分を解毒する臓器だが、この働きをタウリンがより効果的にしてくれるのだ。実は、解毒作用にはビタミンB12もかかわっており、シジミにはこれも豊富に含まれている。
大工のほうはどうか。すでに記したように、肝臓を修復するには、材料だけでなく、建て直す大工が必要となる。シジミは、この大工をよく働かせるようにしてくれる。
肝臓を建て直す材料となる各種のたんぱく質の合成に深く関与しているのは酵素(体内の化学反応を促進する物質)だ。すなわち、酵素が大工に当たるのだが、この大工はさまざまなミネラルの助けがなければ力を発揮しない。とりわけ、亜鉛が大事。亜鉛がなければ、たんぱく質が合成できず、傷んだ肝細胞を修復することも難しい。
シジミには、この亜鉛が非常に多く含まれている。ちなみに、肝細胞の重要な働きの1つであるアルコール分解(解毒作用)にも亜鉛は重要な役割を果たしている。シジミがいかに肝臓に優しい食品かがおわかりいただけただろう。
実にも汁にも健肝の効果あり
とはいえ、いくら栄養豊富だからといって、シジミを食べたくらいで本当に肝臓に効くのだろうか。この点については、数々の興味深い研究が報告されているので紹介しておこう。
弘前大学の佐々木甚一講師らの研究グループは、特殊なネズミを使って実験を行なっている。普通に飼育すると半年で肝炎を起こし、さらには慢性肝炎に移行して肝硬変・肝ガンで死に至るという実験用のネズミであるが、このネズミに毎日シジミエキスを飲ませたところ、飲ませなかったネズミより肝炎を発病する時期が大幅に遅れた。また、シジミエキスの粉末を飲まなかったネズミが肝硬変に移行したのに対して、飲んだネズミは移行しなかったという。
愛媛大学の武内望教授は、脂肪肝にしたネズミにシジミエキスを投与してみた。与えたのは2種類のシジミエキス。1つはシジミを水に入れて煮沸し、抽出した成分を濃縮して乾燥させてから固めた水溶性成分(みそ汁の汁の部分)、もう1つはあとに残った部分から抽出した油性成分(実の部分)である。
結果は、油性成分を与えたネズミの肝臓の重量は与えないネズミより軽くなり、脂肪の量も著しく減少した。脂肪肝はアルコール以外の肥満などでも起きてくるが、これらにもシジミのエキス、とくに油性成分がよく効くことが武内教授によって確かめられている。
となると、シジミエキスの水溶性成分には効果はないのだろうか。実は、ある特殊な物質を投与してつくり出したネズミの肝炎には、油性成分より水溶性成分が効いたとも武内教授は報告している。シジミのみそ汁は、実も汁もすべて効くわけだ。ストレス気味で、アルコール過多の経営者には最良の食品であることは間違いない。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
いまでは信じがたい話だが、昔は江戸でも業平橋のあたりではシジミがたくさん採れた。量だけでなく味もいいと評判を集めた。「業平蜆」と呼ばれ、江戸の名物の1つになっていた。
江戸の名物を紹介した『続江戸砂子』(1735年)も「なり平橋の堀にて取る、名産也。尾久蜆と共に大きさ小蛤ほどあり、風味甚だよろし、江州瀬田蜆名産といえども及ひがたし」と絶賛している。瀬田蜆は琵琶湖および瀬田川の産で、シジミのなかではとりわけ美味とされているが、それよりもうまいというのである。
もっとも、業平蜆が評判だったのには、もう1つ理由がある。実は、肝臓病の薬としてよく効くといわれたのだ。新鮮なシジミは体にいい。それを、江戸時代の人は経験的に知っていたのだった。
黄疸にかかった人がシジミを買い求める様を風刺した川柳すらある。昔は黄疸にかかると、人々はひたすらシジミを食べた。軽い肝臓病なら、薬を口にしなくても、それだけで治ってしまったといわれている。
肝臓を建て直す材料そして大工
それにしても、なぜシジミが肝臓にいいのか。その秘密がいまようやくわかってきた。壊れた家を新しく建て直すには材料と大工が必要になるが、どちらかが足りなければ、壊れた家は元には戻らない。たとえていえば、シジミはこの材料と大工の両方を備え、肝臓を建て直す成分が充満しているとなる。
まず材料からみてみよう。
「総合化学工場」とされている肝臓を修復するには、傷んだ肝細胞を1個1個治していかなければならない。その材料として最も大切なのは、たんぱく質である。肝細胞を修復するためには、約20種類のアミノ酸(たんぱく質の構成成分)が必要で、なかでも8種類の必須アミノ酸(これらは、体内で合成することができない)がとくに大切とされる。
食品に含まれるたんぱく質の善し悪しを決めるのは、この必須アミノ酸の量とバランスなのだが、それを評価するプロテインスコア(あるいはアミノ酸スコア)という指標の最高値100を、シジミは牛肉や卵などとともに示しているのである。
それだけではない。シジミには、タウリンやメチオニン、システインといった、肝機能を活性化するアミノ酸が豊富に含まれている。なかでも、特筆すべきはタウリンがもつ作用であろう。
神戸大学医学部第二内科の上野山林造博士は、慢性肝炎患者にタウリンを投与した結果、肝機能検査のうちとりわけGOTが低下することを確かめている。また、タウリンは胆汁酸と結合して「解毒作用」を促す働きもしてくれる。よく知られているように肝臓は毒性成分を解毒する臓器だが、この働きをタウリンがより効果的にしてくれるのだ。実は、解毒作用にはビタミンB12もかかわっており、シジミにはこれも豊富に含まれている。
大工のほうはどうか。すでに記したように、肝臓を修復するには、材料だけでなく、建て直す大工が必要となる。シジミは、この大工をよく働かせるようにしてくれる。
肝臓を建て直す材料となる各種のたんぱく質の合成に深く関与しているのは酵素(体内の化学反応を促進する物質)だ。すなわち、酵素が大工に当たるのだが、この大工はさまざまなミネラルの助けがなければ力を発揮しない。とりわけ、亜鉛が大事。亜鉛がなければ、たんぱく質が合成できず、傷んだ肝細胞を修復することも難しい。
シジミには、この亜鉛が非常に多く含まれている。ちなみに、肝細胞の重要な働きの1つであるアルコール分解(解毒作用)にも亜鉛は重要な役割を果たしている。シジミがいかに肝臓に優しい食品かがおわかりいただけただろう。
実にも汁にも健肝の効果あり
とはいえ、いくら栄養豊富だからといって、シジミを食べたくらいで本当に肝臓に効くのだろうか。この点については、数々の興味深い研究が報告されているので紹介しておこう。
弘前大学の佐々木甚一講師らの研究グループは、特殊なネズミを使って実験を行なっている。普通に飼育すると半年で肝炎を起こし、さらには慢性肝炎に移行して肝硬変・肝ガンで死に至るという実験用のネズミであるが、このネズミに毎日シジミエキスを飲ませたところ、飲ませなかったネズミより肝炎を発病する時期が大幅に遅れた。また、シジミエキスの粉末を飲まなかったネズミが肝硬変に移行したのに対して、飲んだネズミは移行しなかったという。
愛媛大学の武内望教授は、脂肪肝にしたネズミにシジミエキスを投与してみた。与えたのは2種類のシジミエキス。1つはシジミを水に入れて煮沸し、抽出した成分を濃縮して乾燥させてから固めた水溶性成分(みそ汁の汁の部分)、もう1つはあとに残った部分から抽出した油性成分(実の部分)である。
結果は、油性成分を与えたネズミの肝臓の重量は与えないネズミより軽くなり、脂肪の量も著しく減少した。脂肪肝はアルコール以外の肥満などでも起きてくるが、これらにもシジミのエキス、とくに油性成分がよく効くことが武内教授によって確かめられている。
となると、シジミエキスの水溶性成分には効果はないのだろうか。実は、ある特殊な物質を投与してつくり出したネズミの肝炎には、油性成分より水溶性成分が効いたとも武内教授は報告している。シジミのみそ汁は、実も汁もすべて効くわけだ。ストレス気味で、アルコール過多の経営者には最良の食品であることは間違いない。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
キーワード検索
タイトル検索および全文検索(タイトル+本文から検索)ができます。
検索対象範囲を選択して、キーワードを入力してください。