ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
「赤い食品」が秘めた強力な健康パワー
「赤い食品」が秘めた強力な健康パワー
『南総里見八犬伝』や『椿説弓張力』などで有名な江戸時代の作家・滝沢馬琴(1767~1848年)は、実は薬屋でもあった。執筆のかたわら、馬琴ほどの大作家が薬を製造していたのは、何やら奇妙な気がするかもしれない。
理由はちゃんとあった。
息子・宗伯が医者になったとはいえ病弱、嫁のお百もこれまた病弱、加えて馬琴自身がよく患っていた。そんなことから、実利も兼ねて売薬製造業に精を出していたようだ。
天保2(1831)年、そんな馬琴を慌てさせるような事件が起きた。孫2人があいついで痘瘡(天然痘)にかかってしまったのだ。当時、痘瘡による子供の死亡率は高かった。馬琴も気が気ではなかったろう。
そのせいだろうか、馬琴は医薬の手当てをする一方で、常軌を逸したような行動をとった。赤い木綿で着物や頭巾をつくらせ、痘瘡除けの赤絵を貼って、患者の回りを赤色ずくめにしてしまったのだ。
馬琴のような医薬知識のある人が、どうしてこのような奇妙な行動に出たのか。気が動転してしまったのだろうか。
実は当時、赤色で患者をおおうと、痘瘡が軽くなり、痘痕も残りにくくなると信じられていたのである。そのため、患者の衣服はもちろん、寝具、蚊帳、屏風にいたるまですべてが赤色にされた。痘瘡患者の多くは子供なので、病床の慰めに贈られた玩具やお菓子、絵本(絵草子)まで赤色だった。おそらく馬琴の孫たちも、赤い玩具や絵本などを見舞いの品としてもらったに違いない。
当時の育児書にも「屏風・衣桁に赤き衣類をかけ、その稚児にも赤き衣類を着せしめ、看病人もみな赤き衣類を着るベし。痘の色は赤き色を好しとする故なるべし」と記されている。これは中国医学の教えによるものだ。馬琴もその教えを忠実に守ったにすぎない。
色の濃い食品ほど体にはいい!?
いまとなってみると、こうした努力はすべて迷信としか思われないかもしれない。しかし、一笑に付すことはできない。
1894年、デンマークの医学者ニールズ・フィンセンによって、痘瘡が赤外線によって悪化しやすく、それをさえぎる赤い色を使うと悪くなるのを防げることが確かめられている。
それだけではない。現在、赤色が病気に効力があることは、食品の世界でも確認されつつある。赤い色の食べ物は活性酸素を退治する力が強いのだ。
動脈硬化、心筋梗塞、ガンなど、多くの病気に活性酸素という反応性の高い酸素分子がかかわっていることがわかってきた。活性酸素を退治する仕組みは体の中にもしっかりあって、その態勢は万全であるかのようだが、それでも活性酸素の執拗な攻撃にはつい油断が生じてしまう。そのため、人は老化したり、病気になったりする。
これを防ぐために、人は古くから健康によいとされる食べ物を選んで食してきた。実際、昔から体によいとされてきたものには活性酸素を退治する物質(抗酸化物質)が豊富に含まれている。しかも、そうした食べ物は総じて色が濃い。
たとえば野菜・果物では、赤、緑、黄色といった三原色の鮮やかなものは多くの抗酸化物質を含んでいる。イチゴ、スイカ、ニンジン、ピーマン、ブロッコリー、ホウレンソウなど。魚も同様。とくにサケのように身の赤い魚には、βカロチンの仲間であるアスタキサンチンという色素が含まれていて、これが強い抗酸化物質であることがわかってきた。このほか、キンメダイ、エビ、カニ、タイ、メバルなどの赤い魚介類にもアスタキサンチンが多い。
「赤ワインか健康にいい」は本当
赤ワインが健康によいとされるのも、赤い色の濃いワインほどポリフェノールという抗酸化物質がたくさん含まれているからだ。これが心臓病を防ぐのに大活躍をしている。
肉や脂肪を多くとる国ほど、動脈硬化による狭心症や心筋梗塞などの病気が多い。だが、それにも例外があった。フランスである。フランスは国民1人当たりの肉や脂肪の消費量が多いにもかかわらず、なぜか心臓病による死亡率が低い。この現象は「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ、研究者を悩ませてきたが、その謎が最近になって解かれた。フランス人が好んで飲む赤ワインに、たくさん含まれているポリフェノール。これに秘密があったのだ。
動脈硬化と活性酸素の関係をここで少し詳しく説明することにしよう。
近年、動脈硬化は悪玉コレステロール(LDL)が血液中に多くなりすぎると、進みやすくなるとされてきた。しかし、研究が進むにつれて、単にLDLが多いだけで動脈硬化が進行するのではないことがわかってきた。体内で発生した活性酸素がLDLを酸化するために、動脈硬化が進むことがわかってきたのだ。
赤ワインに豊富なポリフェノールは、この活性酸素を退治して、血管の老化を抑えてくれる。また、赤ワインには血栓(血の塊)を防ぐ作用があることもわかっている。心筋梗塞と並んで、脳梗塞も血栓で血管が詰まることによって起こる。赤ワインが、血栓ができる原因となる血小板(血液を固まらせる働きをする血液成分)の凝集を抑制することを、フランスの国立衛生研究所が発表している。
もちろん、抗酸化物質が豊富なのは赤ワインだけではない。すでに記したように、天然の赤い食品にはさまざまな抗酸化物質が含まれていると思って間違いない。私たちも馬琴に習って、赤い色の力を大いに利用しようではないか。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
『南総里見八犬伝』や『椿説弓張力』などで有名な江戸時代の作家・滝沢馬琴(1767~1848年)は、実は薬屋でもあった。執筆のかたわら、馬琴ほどの大作家が薬を製造していたのは、何やら奇妙な気がするかもしれない。
理由はちゃんとあった。
息子・宗伯が医者になったとはいえ病弱、嫁のお百もこれまた病弱、加えて馬琴自身がよく患っていた。そんなことから、実利も兼ねて売薬製造業に精を出していたようだ。
天保2(1831)年、そんな馬琴を慌てさせるような事件が起きた。孫2人があいついで痘瘡(天然痘)にかかってしまったのだ。当時、痘瘡による子供の死亡率は高かった。馬琴も気が気ではなかったろう。
そのせいだろうか、馬琴は医薬の手当てをする一方で、常軌を逸したような行動をとった。赤い木綿で着物や頭巾をつくらせ、痘瘡除けの赤絵を貼って、患者の回りを赤色ずくめにしてしまったのだ。
馬琴のような医薬知識のある人が、どうしてこのような奇妙な行動に出たのか。気が動転してしまったのだろうか。
実は当時、赤色で患者をおおうと、痘瘡が軽くなり、痘痕も残りにくくなると信じられていたのである。そのため、患者の衣服はもちろん、寝具、蚊帳、屏風にいたるまですべてが赤色にされた。痘瘡患者の多くは子供なので、病床の慰めに贈られた玩具やお菓子、絵本(絵草子)まで赤色だった。おそらく馬琴の孫たちも、赤い玩具や絵本などを見舞いの品としてもらったに違いない。
当時の育児書にも「屏風・衣桁に赤き衣類をかけ、その稚児にも赤き衣類を着せしめ、看病人もみな赤き衣類を着るベし。痘の色は赤き色を好しとする故なるべし」と記されている。これは中国医学の教えによるものだ。馬琴もその教えを忠実に守ったにすぎない。
色の濃い食品ほど体にはいい!?
いまとなってみると、こうした努力はすべて迷信としか思われないかもしれない。しかし、一笑に付すことはできない。
1894年、デンマークの医学者ニールズ・フィンセンによって、痘瘡が赤外線によって悪化しやすく、それをさえぎる赤い色を使うと悪くなるのを防げることが確かめられている。
それだけではない。現在、赤色が病気に効力があることは、食品の世界でも確認されつつある。赤い色の食べ物は活性酸素を退治する力が強いのだ。
動脈硬化、心筋梗塞、ガンなど、多くの病気に活性酸素という反応性の高い酸素分子がかかわっていることがわかってきた。活性酸素を退治する仕組みは体の中にもしっかりあって、その態勢は万全であるかのようだが、それでも活性酸素の執拗な攻撃にはつい油断が生じてしまう。そのため、人は老化したり、病気になったりする。
これを防ぐために、人は古くから健康によいとされる食べ物を選んで食してきた。実際、昔から体によいとされてきたものには活性酸素を退治する物質(抗酸化物質)が豊富に含まれている。しかも、そうした食べ物は総じて色が濃い。
たとえば野菜・果物では、赤、緑、黄色といった三原色の鮮やかなものは多くの抗酸化物質を含んでいる。イチゴ、スイカ、ニンジン、ピーマン、ブロッコリー、ホウレンソウなど。魚も同様。とくにサケのように身の赤い魚には、βカロチンの仲間であるアスタキサンチンという色素が含まれていて、これが強い抗酸化物質であることがわかってきた。このほか、キンメダイ、エビ、カニ、タイ、メバルなどの赤い魚介類にもアスタキサンチンが多い。
「赤ワインか健康にいい」は本当
赤ワインが健康によいとされるのも、赤い色の濃いワインほどポリフェノールという抗酸化物質がたくさん含まれているからだ。これが心臓病を防ぐのに大活躍をしている。
肉や脂肪を多くとる国ほど、動脈硬化による狭心症や心筋梗塞などの病気が多い。だが、それにも例外があった。フランスである。フランスは国民1人当たりの肉や脂肪の消費量が多いにもかかわらず、なぜか心臓病による死亡率が低い。この現象は「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ、研究者を悩ませてきたが、その謎が最近になって解かれた。フランス人が好んで飲む赤ワインに、たくさん含まれているポリフェノール。これに秘密があったのだ。
動脈硬化と活性酸素の関係をここで少し詳しく説明することにしよう。
近年、動脈硬化は悪玉コレステロール(LDL)が血液中に多くなりすぎると、進みやすくなるとされてきた。しかし、研究が進むにつれて、単にLDLが多いだけで動脈硬化が進行するのではないことがわかってきた。体内で発生した活性酸素がLDLを酸化するために、動脈硬化が進むことがわかってきたのだ。
赤ワインに豊富なポリフェノールは、この活性酸素を退治して、血管の老化を抑えてくれる。また、赤ワインには血栓(血の塊)を防ぐ作用があることもわかっている。心筋梗塞と並んで、脳梗塞も血栓で血管が詰まることによって起こる。赤ワインが、血栓ができる原因となる血小板(血液を固まらせる働きをする血液成分)の凝集を抑制することを、フランスの国立衛生研究所が発表している。
もちろん、抗酸化物質が豊富なのは赤ワインだけではない。すでに記したように、天然の赤い食品にはさまざまな抗酸化物質が含まれていると思って間違いない。私たちも馬琴に習って、赤い色の力を大いに利用しようではないか。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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