ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
赤ワインに負けず劣らぬ日本酒の効用
赤ワインに負けず劣らぬ日本酒の効用
まずは笑い話から。
江戸の町にけちな酒飲み兄弟がいた。2人は酒を買ったが、一気に飲むとすぐになくなってしまうので、箸の先でなめることにした。まず兄が一なめして、箸を弟に渡した。すると弟が二度続けてなめたので、兄が怒鳴った。
「この大酒飲みめ!」
次は、実際にあった話。
昭和6年2月16日の大寒の日に、東京・日本橋の浜田屋という料亭で、我慢大会が開かれた。大広間の障子戸はすべて取り払われ、あちらこちらに氷柱が置かれ、何台もの扇風機が冷たい風を吹きつけた。参加者はすべて浴衣を着用。そこへ冷汁、冷麦、冷たくしたなますといった身も心も冷たくなるような料理が出され、氷粒を浮かべた酒で盛大な宴会が催された。
それでなくても寒いところへ、冷たい料理と冷酒で参加者はブルブルと震え始め、早くも脱落者が出てしまった。が、そのあとが面白い。主催者もどうにも耐えられなくなったところで、パッと襖が開いて、隣の大広間が見えてくる。そこにはこたつや火鉢が並べられ、綿の入った温かい羽織や足袋などが用意されていた。そのうえ、熱燗や鍋料理が湯気を立てている。ここで本当の宴会を楽しもうという心憎い趣向だった。
日本酒がガンと高血圧に効く!
古今東西、酒にまつわる話は枚挙に暇がない。一般的には酒の悪い面ばかりが強調されるが、実際にはそうとはいえず、たとえば、酒を飲むとつい冗談が言いたくなる。酒は人の心を楽しくさせ、ストレスを解消する効果があるからで、ほどほどにさえすれば人の寿命を延ばすのだ。1981年にイギリスで行なわれたアルコールと死亡率についての調査結果が、そのことを端的に物語っている。
ロンドン近郊に住む1600人の飲酒量を調べ、禁酒群、少量飲酒群、中量飲酒群、大量飲酒群の四群に分けて、その後の10年間を追跡調査した。すると、その間の死亡率は禁酒群と大量飲酒群が高く、少量・中量飲酒群は低かった。特徴的なのは、心臓病の死亡率が禁酒群で、ガンやその他の病気での死亡率が大量飲酒群で高くなったことだ。要するに、適量の酒は動脈硬化を防ぎ寿命を延ばす。しかし、飲み過ぎると肝臓を傷め、最終的には肝ガンに至る。
江戸時代の儒学者・貝原益軒は、すでにこのことを『養生訓』で説いていた。
「酒は天下の美禄なり。少し飲めば陽気を助け、血気を和らげ、食気をめぐらし、愁いを去り、興を発してはなはだ人に益あり。多く飲めば、またよく人を害すること、酒に過ぎたるものなし」
ところで、最近は赤ワインが心筋梗塞を予防することがわかり、その人気が一気に高まっている、しかし、日本酒も忘れてはならない。日本酒も赤ワインに負けず劣らず体にいいことが、実験で確かめられている。いくつかその効果を紹介してみよう。まず日本酒がガン予防に役立つ点について。
膀胱ガン、前立腺ガン、子宮ガンの3種類の人間のガン細胞を培養し、そこに日本酒を64倍に薄めた液を入れてみた。すると、ガン細胞の90%以上が死んでしまった。128倍に薄めたものでも、約半分の細胞が萎縮したり死んでしまうほど効果があったという。ちなみにウイスキーやブランデーでは、こうした効果は得られなかった。
もう1つ、日本酒には血圧を下げる働きもある。高血圧ラット(遺伝的に、成長するにつれて高血圧になる実験用のネズミ)に酒粕の分解成分を混ぜたエサを与え飼育すると、成長しても血圧が上がらなかった。
日本酒は米が原料である。この米が麹や酵母の働きで発酵し、日本酒になる過程で、さまざまなペプチド(アミノ酸がいくつかつながったもの)が大量にできてくる。このペプチドにガンを予防したり、血圧を下げたりする働きがあるとみられている。また、高齢者の物忘れを防いだり、骨粗鬆症やアレルギー病を抑えるペプチドも日本酒から見つかっている。
日に1、2合が普通の人の適量
それにしても、日本人はよく酒を飲む人種だ。昔、伊丹、池田、灘、西宮などの本場の酒が年間100万樽も江戸に運ばれていた。常時100艘を超える樽廻船が江戸と大坂の間を行き来したのである。とくに新酒を運んでくる冬は大騒ぎとなった。いまでいう160トンクラスの大型の千石船が、その年の新酒を樽に詰め一斉に大坂を出帆、どの船が一番早く江戸に着くかを競った。それが江戸っ子の人気を集めていた、という。
なにしろ、信じられないようなスピードで江戸まで新酒を運んだのである。普通、大坂と江戸の間は速い船でも10日はかかる。それを5日で運んでしまう。江戸っ子は少しでも速く新酒が飲みたかったのだろう。
飲み方も、いまでは想像もつかないくらいすごいものだった。文化12(1815)年に江戸・千住の商人・中屋六右衛門の長寿を祝って催された競飲会がその一端を伝えている。百余人の参加者が柳橋の芸者にお酌をしてもらい、次々に盃を重ねていく。3升、4升ぐらい飲んだのでは大したことはない。このとき、優勝したのは野洲(栃木県)の左衛門と名乗る男で、7升5合を飲んだ。途中、血を吐いて意識不明になる者が続出した、という試合だ。おそらく急性アルコール中毒で死亡者も出たに違いない。
では、最後に日本酒の適量とはどのくらいなのか。普通の人なら、だいたい1合から2合まで。ちなみにビールなら大ビン2本、ウイスキーならダブル2杯が適量とされている。これなら毎日飲んでも平気である。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
まずは笑い話から。
江戸の町にけちな酒飲み兄弟がいた。2人は酒を買ったが、一気に飲むとすぐになくなってしまうので、箸の先でなめることにした。まず兄が一なめして、箸を弟に渡した。すると弟が二度続けてなめたので、兄が怒鳴った。
「この大酒飲みめ!」
次は、実際にあった話。
昭和6年2月16日の大寒の日に、東京・日本橋の浜田屋という料亭で、我慢大会が開かれた。大広間の障子戸はすべて取り払われ、あちらこちらに氷柱が置かれ、何台もの扇風機が冷たい風を吹きつけた。参加者はすべて浴衣を着用。そこへ冷汁、冷麦、冷たくしたなますといった身も心も冷たくなるような料理が出され、氷粒を浮かべた酒で盛大な宴会が催された。
それでなくても寒いところへ、冷たい料理と冷酒で参加者はブルブルと震え始め、早くも脱落者が出てしまった。が、そのあとが面白い。主催者もどうにも耐えられなくなったところで、パッと襖が開いて、隣の大広間が見えてくる。そこにはこたつや火鉢が並べられ、綿の入った温かい羽織や足袋などが用意されていた。そのうえ、熱燗や鍋料理が湯気を立てている。ここで本当の宴会を楽しもうという心憎い趣向だった。
日本酒がガンと高血圧に効く!
古今東西、酒にまつわる話は枚挙に暇がない。一般的には酒の悪い面ばかりが強調されるが、実際にはそうとはいえず、たとえば、酒を飲むとつい冗談が言いたくなる。酒は人の心を楽しくさせ、ストレスを解消する効果があるからで、ほどほどにさえすれば人の寿命を延ばすのだ。1981年にイギリスで行なわれたアルコールと死亡率についての調査結果が、そのことを端的に物語っている。
ロンドン近郊に住む1600人の飲酒量を調べ、禁酒群、少量飲酒群、中量飲酒群、大量飲酒群の四群に分けて、その後の10年間を追跡調査した。すると、その間の死亡率は禁酒群と大量飲酒群が高く、少量・中量飲酒群は低かった。特徴的なのは、心臓病の死亡率が禁酒群で、ガンやその他の病気での死亡率が大量飲酒群で高くなったことだ。要するに、適量の酒は動脈硬化を防ぎ寿命を延ばす。しかし、飲み過ぎると肝臓を傷め、最終的には肝ガンに至る。
江戸時代の儒学者・貝原益軒は、すでにこのことを『養生訓』で説いていた。
「酒は天下の美禄なり。少し飲めば陽気を助け、血気を和らげ、食気をめぐらし、愁いを去り、興を発してはなはだ人に益あり。多く飲めば、またよく人を害すること、酒に過ぎたるものなし」
ところで、最近は赤ワインが心筋梗塞を予防することがわかり、その人気が一気に高まっている、しかし、日本酒も忘れてはならない。日本酒も赤ワインに負けず劣らず体にいいことが、実験で確かめられている。いくつかその効果を紹介してみよう。まず日本酒がガン予防に役立つ点について。
膀胱ガン、前立腺ガン、子宮ガンの3種類の人間のガン細胞を培養し、そこに日本酒を64倍に薄めた液を入れてみた。すると、ガン細胞の90%以上が死んでしまった。128倍に薄めたものでも、約半分の細胞が萎縮したり死んでしまうほど効果があったという。ちなみにウイスキーやブランデーでは、こうした効果は得られなかった。
もう1つ、日本酒には血圧を下げる働きもある。高血圧ラット(遺伝的に、成長するにつれて高血圧になる実験用のネズミ)に酒粕の分解成分を混ぜたエサを与え飼育すると、成長しても血圧が上がらなかった。
日本酒は米が原料である。この米が麹や酵母の働きで発酵し、日本酒になる過程で、さまざまなペプチド(アミノ酸がいくつかつながったもの)が大量にできてくる。このペプチドにガンを予防したり、血圧を下げたりする働きがあるとみられている。また、高齢者の物忘れを防いだり、骨粗鬆症やアレルギー病を抑えるペプチドも日本酒から見つかっている。
日に1、2合が普通の人の適量
それにしても、日本人はよく酒を飲む人種だ。昔、伊丹、池田、灘、西宮などの本場の酒が年間100万樽も江戸に運ばれていた。常時100艘を超える樽廻船が江戸と大坂の間を行き来したのである。とくに新酒を運んでくる冬は大騒ぎとなった。いまでいう160トンクラスの大型の千石船が、その年の新酒を樽に詰め一斉に大坂を出帆、どの船が一番早く江戸に着くかを競った。それが江戸っ子の人気を集めていた、という。
なにしろ、信じられないようなスピードで江戸まで新酒を運んだのである。普通、大坂と江戸の間は速い船でも10日はかかる。それを5日で運んでしまう。江戸っ子は少しでも速く新酒が飲みたかったのだろう。
飲み方も、いまでは想像もつかないくらいすごいものだった。文化12(1815)年に江戸・千住の商人・中屋六右衛門の長寿を祝って催された競飲会がその一端を伝えている。百余人の参加者が柳橋の芸者にお酌をしてもらい、次々に盃を重ねていく。3升、4升ぐらい飲んだのでは大したことはない。このとき、優勝したのは野洲(栃木県)の左衛門と名乗る男で、7升5合を飲んだ。途中、血を吐いて意識不明になる者が続出した、という試合だ。おそらく急性アルコール中毒で死亡者も出たに違いない。
では、最後に日本酒の適量とはどのくらいなのか。普通の人なら、だいたい1合から2合まで。ちなみにビールなら大ビン2本、ウイスキーならダブル2杯が適量とされている。これなら毎日飲んでも平気である。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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