ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
梅干しとブタ肉は民間薬の代表選手
梅干しとブタ肉は民間薬の代表選手
身近な食品には、かつて薬とされていたものが多い。
梅干しがその代表であろう。あの大石内蔵助率いる赤穂浪士も、討ち入りの際には梅干しでつくった薬を口に含んで戦ったといわれている。これは、梅干しと甘草(かんぞう)を練り合わせた丸薬で、昔から合戦のときに呼吸の乱れや息切れを防ぐのに用いられていた。
疲労回復にも梅干しは効果バツグン
とくに庶民の生活に梅干しは欠かせなかった。食欲がないときでも、梅干しがあるとご飯が食べられる。風邪のときには、梅干しを湯に溶いて飲むと元気になる。食あたりを防ぐのにも、夏負けにも梅干しが利用された。さらに、梅干しを弁当に入れておけば食べ物が腐らない。こめかみに張りつけて、頭痛の特効薬とすることもできた。
万葉集には梅を詠んだ歌が119首もある。これらはすべて鑑賞用としての梅を歌にしたものだが、もともと梅は烏梅(うばい。青梅をまるのままいぶして乾かしたもの)という生薬として中国から日本へ渡ってきたのだった。中国の薬物学の古典『本草綱目』では、烏梅は「熱を下げ、唾液を出させて消化を助ける。寄生虫を追い払い、慢性のせき、慢性の下痢を治す」とされている。
ところがいま梅干しのこれらの働きをありがたがる人が少なくなってきている。現代こそ、見直されるべきは梅干しの“薬効”なのに……。
たとえば、梅干しを食べると唾液がたくさん出てくる。これがいい。現代の食生活には発ガン作用のある物質があふれているが、唾液と一緒になると、それらの物質の作用が消えてしまうのである。よく噛んで食物を食べることが少なくなってしまった現代人は、唾液の分泌が乏しくなっているので、梅干しのこうした働きは貴重なのだ。
梅干しのもつ抗菌作用も、もっと見直されるべきだろう。最近、春から夏にかけて病原性大腸菌O-157の感染がきまって話題になるが、梅干しは食中毒を起こすさまざまな細菌もやっつけてくれる。
また、梅干しにはクエン酸とリンゴ酸が豊富に含まれており、肥満の多い現代人にはこれも貴重だ。クエン酸などの酸は、クレブスサイクルというエネルギーをつくり出す回路で活躍している。クエン酸などによりこの回路が無駄なく回っていると、栄養素は効率よくエネルギーに変換され、余分な脂肪として体内に溜まることが少なくなるのである。それに、クエン酸は疲労回復にも役立つ。腸内の善玉菌の働きを高めて、便秘や下痢にも効く。梅干しを常食するようにして、体が元気になったという人は少なくないのだ。
沖縄の人が長寿なのはブタ肉を食べるから
ブタ肉も昔の人にとっては“薬”だった。
浮世絵師・歌川広重(1797~1858年)の『名所江戸百景』の1つに、雪景色を背にして“山くじら”の看板を描いた「びくにばし雪中」という作品がある。びくにばし(比丘尼橋)とは、江戸の市谷御門外の尾張家上屋敷の近くにあった橋のこと。この橋のそばに山くじらを食べさせる店があった。
当時、精力の衰えた人、病人、冷え症で困っている人が山くじらを食べると、てきめんに効くといわれた。山くじらを食べることが“薬喰い”といわれていたほどだが、もちろん海の鯨の話ではない。山くじらとは、イノシシのことである。
大昔の日本人はイノシシをよく食べた。『日本書紀』の時代には、イノシシを食肉用に飼育していた。これがブタの食用の始まりである。その後、仏教の伝来で肉食禁忌が定着したが、それでもシシ鍋のことを牡丹鍋などといい替え、隠れて食べていた。野菜を主にした淡白な料理に慣れ親しんでいた日本人には、イノシシの肉はとりわけ美味に感じられたことだろう。
すでに記したようにイノシシ、つまりブタの肉は病人の治療食や滋養強壮剤でもあった。幕末になると、新撰組が隊士の食料としてブタを飼っていたのが有名だ。これも力をつけたり、怪我を早く治すために食べられたのだと思われる。
実をいうと、ブタ肉は現在でも薬喰いとしての威力を誇っている。そのいい例が日本一の長寿県沖縄である。沖縄は日本でもトップクラスの平均寿命を誇るだけではなく、ガンや心臓病、脳卒中の死亡率も日本一低い。
その沖縄でよく食べられているのがブタ肉だ。沖縄では、歴史的に仏教の戒律により肉食が制限されることがなかったので、ブタ肉をよく食べる。一説によると、戦前でも1人当たり本土の10倍以上もブタ肉を食べていたという。その食べ方も徹底しており、耳から尾、内臓、さらに足まで食べてしまう。
年をとったら、菜食主義に徹したほうがいいと考えている人は多い。しかし、丈夫で長生きを願うなら、良質の動物性のたんぱく質を積極的にとるようにしたい。理由は単純明快。私たちの体はたんぱく質でできているからである。たんぱく質がなかったら、血液も筋肉も皮膚も、髪の毛一本もできない。たんぱく質が不足すると、体の老化もそれだけ進むのである。
とくに老化が進むのが血管である。たんぱく質の欠乏で血管がもろくなり、脳では脳出血が起こりやすくなる。動物性たんぱくを与えると、マウスに脳出血が起こりにくくなることも確かめられている。体の防衛軍ともいうべき免疫の主役となるのは白血球だが、これらもみなたんぱく質でできている。そのため、たんぱく質の不足は病気を起こしやすいのだ。
毎日200グラムのステーキを食べるという人は、その摂取を控えたほうがいいだろう。が、大部分の日本人は肉をよく食べるようになったとはいえ、まだまだそれほど多くはない。とくにお年寄りにその傾向が強く、毎日の食生活を点検して、肉をほとんど食べていないようであれば、1日に50グラムは肉をとるようにしたい。
その際、脂肪のとりすぎが気になるようなら、肉をゆでると過剰摂取がなくなる。沖縄でも豚肉はゆでて食べることが多いのである。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
身近な食品には、かつて薬とされていたものが多い。
梅干しがその代表であろう。あの大石内蔵助率いる赤穂浪士も、討ち入りの際には梅干しでつくった薬を口に含んで戦ったといわれている。これは、梅干しと甘草(かんぞう)を練り合わせた丸薬で、昔から合戦のときに呼吸の乱れや息切れを防ぐのに用いられていた。
疲労回復にも梅干しは効果バツグン
とくに庶民の生活に梅干しは欠かせなかった。食欲がないときでも、梅干しがあるとご飯が食べられる。風邪のときには、梅干しを湯に溶いて飲むと元気になる。食あたりを防ぐのにも、夏負けにも梅干しが利用された。さらに、梅干しを弁当に入れておけば食べ物が腐らない。こめかみに張りつけて、頭痛の特効薬とすることもできた。
万葉集には梅を詠んだ歌が119首もある。これらはすべて鑑賞用としての梅を歌にしたものだが、もともと梅は烏梅(うばい。青梅をまるのままいぶして乾かしたもの)という生薬として中国から日本へ渡ってきたのだった。中国の薬物学の古典『本草綱目』では、烏梅は「熱を下げ、唾液を出させて消化を助ける。寄生虫を追い払い、慢性のせき、慢性の下痢を治す」とされている。
ところがいま梅干しのこれらの働きをありがたがる人が少なくなってきている。現代こそ、見直されるべきは梅干しの“薬効”なのに……。
たとえば、梅干しを食べると唾液がたくさん出てくる。これがいい。現代の食生活には発ガン作用のある物質があふれているが、唾液と一緒になると、それらの物質の作用が消えてしまうのである。よく噛んで食物を食べることが少なくなってしまった現代人は、唾液の分泌が乏しくなっているので、梅干しのこうした働きは貴重なのだ。
梅干しのもつ抗菌作用も、もっと見直されるべきだろう。最近、春から夏にかけて病原性大腸菌O-157の感染がきまって話題になるが、梅干しは食中毒を起こすさまざまな細菌もやっつけてくれる。
また、梅干しにはクエン酸とリンゴ酸が豊富に含まれており、肥満の多い現代人にはこれも貴重だ。クエン酸などの酸は、クレブスサイクルというエネルギーをつくり出す回路で活躍している。クエン酸などによりこの回路が無駄なく回っていると、栄養素は効率よくエネルギーに変換され、余分な脂肪として体内に溜まることが少なくなるのである。それに、クエン酸は疲労回復にも役立つ。腸内の善玉菌の働きを高めて、便秘や下痢にも効く。梅干しを常食するようにして、体が元気になったという人は少なくないのだ。
沖縄の人が長寿なのはブタ肉を食べるから
ブタ肉も昔の人にとっては“薬”だった。
浮世絵師・歌川広重(1797~1858年)の『名所江戸百景』の1つに、雪景色を背にして“山くじら”の看板を描いた「びくにばし雪中」という作品がある。びくにばし(比丘尼橋)とは、江戸の市谷御門外の尾張家上屋敷の近くにあった橋のこと。この橋のそばに山くじらを食べさせる店があった。
当時、精力の衰えた人、病人、冷え症で困っている人が山くじらを食べると、てきめんに効くといわれた。山くじらを食べることが“薬喰い”といわれていたほどだが、もちろん海の鯨の話ではない。山くじらとは、イノシシのことである。
大昔の日本人はイノシシをよく食べた。『日本書紀』の時代には、イノシシを食肉用に飼育していた。これがブタの食用の始まりである。その後、仏教の伝来で肉食禁忌が定着したが、それでもシシ鍋のことを牡丹鍋などといい替え、隠れて食べていた。野菜を主にした淡白な料理に慣れ親しんでいた日本人には、イノシシの肉はとりわけ美味に感じられたことだろう。
すでに記したようにイノシシ、つまりブタの肉は病人の治療食や滋養強壮剤でもあった。幕末になると、新撰組が隊士の食料としてブタを飼っていたのが有名だ。これも力をつけたり、怪我を早く治すために食べられたのだと思われる。
実をいうと、ブタ肉は現在でも薬喰いとしての威力を誇っている。そのいい例が日本一の長寿県沖縄である。沖縄は日本でもトップクラスの平均寿命を誇るだけではなく、ガンや心臓病、脳卒中の死亡率も日本一低い。
その沖縄でよく食べられているのがブタ肉だ。沖縄では、歴史的に仏教の戒律により肉食が制限されることがなかったので、ブタ肉をよく食べる。一説によると、戦前でも1人当たり本土の10倍以上もブタ肉を食べていたという。その食べ方も徹底しており、耳から尾、内臓、さらに足まで食べてしまう。
年をとったら、菜食主義に徹したほうがいいと考えている人は多い。しかし、丈夫で長生きを願うなら、良質の動物性のたんぱく質を積極的にとるようにしたい。理由は単純明快。私たちの体はたんぱく質でできているからである。たんぱく質がなかったら、血液も筋肉も皮膚も、髪の毛一本もできない。たんぱく質が不足すると、体の老化もそれだけ進むのである。
とくに老化が進むのが血管である。たんぱく質の欠乏で血管がもろくなり、脳では脳出血が起こりやすくなる。動物性たんぱくを与えると、マウスに脳出血が起こりにくくなることも確かめられている。体の防衛軍ともいうべき免疫の主役となるのは白血球だが、これらもみなたんぱく質でできている。そのため、たんぱく質の不足は病気を起こしやすいのだ。
毎日200グラムのステーキを食べるという人は、その摂取を控えたほうがいいだろう。が、大部分の日本人は肉をよく食べるようになったとはいえ、まだまだそれほど多くはない。とくにお年寄りにその傾向が強く、毎日の食生活を点検して、肉をほとんど食べていないようであれば、1日に50グラムは肉をとるようにしたい。
その際、脂肪のとりすぎが気になるようなら、肉をゆでると過剰摂取がなくなる。沖縄でも豚肉はゆでて食べることが多いのである。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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