ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
成人病にならないための満腹感を得る簡便法
成人病にならないための満腹感を得る簡便法
江戸時代になると、いよいよ“食道楽”が極致を迎える。食べるほうだけでなく、つくるほうも負けじと食にこだわるようになった。
たとえば、こんな話がある。
有名な食通が、江戸で1、2を争う、これまた有名な料理屋に入って、「極上のお茶漬け」を注文した。が、いつになっても注文の品は現われない。有名な食通は、「きっと料理人は、自分に出すお茶漬けをどうつくったらいいのか、迷っているに違いない」と北叟笑んだ。
半日ほど待たせた末に、店の主がやっと現われ、香の物と煎茶の土瓶を持ってきた。お茶もいいし、香の物は季節に珍しい瓜と茄子が切り混ぜてあった。さすがだ、と食通は思った。ただ、どこが極上なのか?食通にはやや不満が残った。
そして、お茶漬けを食べたあと、勘定を聞いてびっくり。何と1両2分だ、という。驚いた食通は「どうしてお茶漬けがこんなに高いのか」と文句を言った。すると、主人がしたり顔で答えた。
「極上のお茶ゆえ、その茶にふさわしい水を玉川に早飛脚で汲みに行かせたのです。その運賃が高くつきました」
成人病は過食から生じる
生活が豊かになってくると、食べることも遊びの1つになる。江戸時代は和食の調理法が完成した時代であると同時に、人々が贅沢に走り、過度の飲食による病気が珍しくなくなった時代でもあった。
そんな時代だからこそ、貝原益軒は『養生訓』のなかで、「珍味の食に対すとも、八、九分にてやむべし。十分に飽きみつるはあとの禍あり」
と言ったのである。
実際、「腹八分」が健康の秘訣であることは、後世の学者たちによって確かめられている。
C・マッケイという学者は、100匹のネズミを使って、食事制限と老化の関係について調べている。彼の実験によると、食べ放題にさせたネズミは最長で980日しか生きなかった。対して、食事制限を徹底したネズミは1320日という最長寿命を記録した。ネズミの寿命は3年ほどなので、1年は長生きした勘定だ。人間にたとえると、20~30年も長生きしたのと同じことになる。
動物もそうだが、人類の歴史のほとんどは飢えのなかにあった。もともと人間の体は飢餓に強くできていて、飽食には弱い。人々が過食を覚えると、すぐに肥満になり、高血圧、動脈硬化、心臓病、脳卒中、糖尿病といった成人病(生活習慣病)を患うのは、そのためである。成人病は、“食の病”というわけだ。
要するに、健康の基本は「腹八分」から始まる。
とはいえ、腹八分という言葉ほどあいまいなものはない。具体的に、どのくらい食べたら腹八分なのか。食べ過ぎない量といっても、いつも満腹に食べている人にとっては、どれくらいの量を指すのかなかなかわからないことだろう。腹八分と言いつつ、実際には十分に食べている人もいるはずである。個人差もあって、判断は難しい。
腹八分とは、感覚的には「おなかいっばい」よりやや足りない量、「ちょっと食べ足りない」量である。これを具体的に知るには、体重を測るのが一番いい。
起床後、朝食後、夕食後、それに寝る直前の4回、体重を測ってノートにしっかりと記録する。腹八分がうまくいっていると、朝食から夕食にかけて増えた体重が寝る前に減り、翌朝にはさらに減って、前日の朝と同じになるか、もしくはそれより少し減るようになる。それが腹八分の量である。
もっとも、きちんきちんと体重を測るのは面倒な気もする。が、毎日計るにつれて、どのくらい食べたら自分の場合は適量なのかが感覚的にわかってくるはずだ。そうしたら、もう体重を測らなくてもいい。あとはその感覚を守るだけである。
よく噛めば満腹感が得られる
もう1つ。腹八分を守りたかったら、ゆっくりとよく噛んで食べることが大切だ。
みなさんは、食後まだ少しもの足りなくて何か食べようか食べまいかと迷っているうちに、いつの間にかおなかがいっぱいに感じた、という経験はないだろうか。時間が経つと、満腹になってしまうのだろうか?
実は、おなかがいっぱいになったと感じるのは、胃袋ではなく脳の視床下部にある満腹中枢なのである。
食物を摂取すると、糖分が吸収されて血糖値(血液中のブドウ糖の量)が上がったり、脂肪やたんぱく質の刺激で十二指腸からホルモンが分泌されたり、食べたものによって胃が膨れたりする。満腹中枢がそうしたさまざまな情報を受け取ると、「満腹した」という信号を大脳に送る。
ただし、満腹中枢が「おなかがいっぱい」という信号を送るのには、食べ始めてから20~30分くらいかかる。そのため、先述したように食べようかどうか迷っているうちにおなかが落ち着いてしまうのだ。
つまり、早く食べる習慣がついていると、満腹中枢が信号を出す前にいくらでも食べてしまう。これでは腹八分は守れない。逆にゆっくりとよく噛んで食べるようにすると、食事に時間がかかるようになり、満腹中枢が刺激されて、たくさん食べなくても十分に満腹感が感じられるようになるわけだ(それに、よく噛むこと自体が満腹中枢を刺激するので、二重の効果がある)。
だいたい一口20回ぐらい噛むつもりで食べるといいだろう。一口食べるごとに箸を置くようにすれば、すぐに慣れること請合いだ。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
江戸時代になると、いよいよ“食道楽”が極致を迎える。食べるほうだけでなく、つくるほうも負けじと食にこだわるようになった。
たとえば、こんな話がある。
有名な食通が、江戸で1、2を争う、これまた有名な料理屋に入って、「極上のお茶漬け」を注文した。が、いつになっても注文の品は現われない。有名な食通は、「きっと料理人は、自分に出すお茶漬けをどうつくったらいいのか、迷っているに違いない」と北叟笑んだ。
半日ほど待たせた末に、店の主がやっと現われ、香の物と煎茶の土瓶を持ってきた。お茶もいいし、香の物は季節に珍しい瓜と茄子が切り混ぜてあった。さすがだ、と食通は思った。ただ、どこが極上なのか?食通にはやや不満が残った。
そして、お茶漬けを食べたあと、勘定を聞いてびっくり。何と1両2分だ、という。驚いた食通は「どうしてお茶漬けがこんなに高いのか」と文句を言った。すると、主人がしたり顔で答えた。
「極上のお茶ゆえ、その茶にふさわしい水を玉川に早飛脚で汲みに行かせたのです。その運賃が高くつきました」
成人病は過食から生じる
生活が豊かになってくると、食べることも遊びの1つになる。江戸時代は和食の調理法が完成した時代であると同時に、人々が贅沢に走り、過度の飲食による病気が珍しくなくなった時代でもあった。
そんな時代だからこそ、貝原益軒は『養生訓』のなかで、「珍味の食に対すとも、八、九分にてやむべし。十分に飽きみつるはあとの禍あり」
と言ったのである。
実際、「腹八分」が健康の秘訣であることは、後世の学者たちによって確かめられている。
C・マッケイという学者は、100匹のネズミを使って、食事制限と老化の関係について調べている。彼の実験によると、食べ放題にさせたネズミは最長で980日しか生きなかった。対して、食事制限を徹底したネズミは1320日という最長寿命を記録した。ネズミの寿命は3年ほどなので、1年は長生きした勘定だ。人間にたとえると、20~30年も長生きしたのと同じことになる。
動物もそうだが、人類の歴史のほとんどは飢えのなかにあった。もともと人間の体は飢餓に強くできていて、飽食には弱い。人々が過食を覚えると、すぐに肥満になり、高血圧、動脈硬化、心臓病、脳卒中、糖尿病といった成人病(生活習慣病)を患うのは、そのためである。成人病は、“食の病”というわけだ。
要するに、健康の基本は「腹八分」から始まる。
とはいえ、腹八分という言葉ほどあいまいなものはない。具体的に、どのくらい食べたら腹八分なのか。食べ過ぎない量といっても、いつも満腹に食べている人にとっては、どれくらいの量を指すのかなかなかわからないことだろう。腹八分と言いつつ、実際には十分に食べている人もいるはずである。個人差もあって、判断は難しい。
腹八分とは、感覚的には「おなかいっばい」よりやや足りない量、「ちょっと食べ足りない」量である。これを具体的に知るには、体重を測るのが一番いい。
起床後、朝食後、夕食後、それに寝る直前の4回、体重を測ってノートにしっかりと記録する。腹八分がうまくいっていると、朝食から夕食にかけて増えた体重が寝る前に減り、翌朝にはさらに減って、前日の朝と同じになるか、もしくはそれより少し減るようになる。それが腹八分の量である。
もっとも、きちんきちんと体重を測るのは面倒な気もする。が、毎日計るにつれて、どのくらい食べたら自分の場合は適量なのかが感覚的にわかってくるはずだ。そうしたら、もう体重を測らなくてもいい。あとはその感覚を守るだけである。
よく噛めば満腹感が得られる
もう1つ。腹八分を守りたかったら、ゆっくりとよく噛んで食べることが大切だ。
みなさんは、食後まだ少しもの足りなくて何か食べようか食べまいかと迷っているうちに、いつの間にかおなかがいっぱいに感じた、という経験はないだろうか。時間が経つと、満腹になってしまうのだろうか?
実は、おなかがいっぱいになったと感じるのは、胃袋ではなく脳の視床下部にある満腹中枢なのである。
食物を摂取すると、糖分が吸収されて血糖値(血液中のブドウ糖の量)が上がったり、脂肪やたんぱく質の刺激で十二指腸からホルモンが分泌されたり、食べたものによって胃が膨れたりする。満腹中枢がそうしたさまざまな情報を受け取ると、「満腹した」という信号を大脳に送る。
ただし、満腹中枢が「おなかがいっぱい」という信号を送るのには、食べ始めてから20~30分くらいかかる。そのため、先述したように食べようかどうか迷っているうちにおなかが落ち着いてしまうのだ。
つまり、早く食べる習慣がついていると、満腹中枢が信号を出す前にいくらでも食べてしまう。これでは腹八分は守れない。逆にゆっくりとよく噛んで食べるようにすると、食事に時間がかかるようになり、満腹中枢が刺激されて、たくさん食べなくても十分に満腹感が感じられるようになるわけだ(それに、よく噛むこと自体が満腹中枢を刺激するので、二重の効果がある)。
だいたい一口20回ぐらい噛むつもりで食べるといいだろう。一口食べるごとに箸を置くようにすれば、すぐに慣れること請合いだ。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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