ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
ゴボウとニンニクは古くから知られた“長寿食”
ゴボウとニンニクは古くから知られた“長寿食”
弘法大師空海が唐に渡っていたときの話である。
ある山里に大師が泊まっていたところ、その家の主人は30歳くらいでしかないのに、息子のほうは80歳を過ぎているように見えた。不思議に思ってわけを聞くと、父親の年齢は100歳以上なのだが、毎日延命草を食べているので若々しく、息子は延命草が嫌いで食べないために老いてしまったという。
見ると、家の近くにいた牛の尾に延命草がついていた。大師は主人の目を盗んで、牛の尾に房のようについていた、その草の実を取り、日本に持ち帰った。のちにそれを「牛蒡(ゴボウ)」と呼ぶようになった。
ゴボウ食で善玉細菌を育成
ゴボウは古くから強精・強壮の食物として知られる。中国の薬物書『本草綱目』にも「ゴボウの根を久しく服すれば、体を軽くして、老衰を防ぐ」とある。ゴボウを常食していると、活力がつき、老化による体の衰えが防止できるというのだ。
しかし、不思議なことに、世界広しといえども、ゴボウを食品だと思っている民族は日本人しかいない。ゴボウを絶賛している当の中国人も食べていない。ゴボウを食べる日本の食文化は、世界でも珍しいのだ。
日本人は歯ごたえのある硬さを風味として好む。だから、ゴボウが珍重されてきたのだが、強壮食といわれていても、実際には栄養価はそれほど高くない。ビタミンはほとんどゼロ。カルシウムもたんぱく質も微々たる量しか含まれていない。あるのは硬い繊維ばかりだ。
ところが、その食物繊維がよく効く。ゴボウにたっぷりと含まれている食物繊維には、大腸ガン、肥満、糖尿病、動脈硬化、心臓病、高血圧などを防ぐ作用があることが確かめられている。それだけではない。ゴボウの繊維は腸内の善玉細菌を増やして、老化防止に役立つこともわかっている。
腸内には、驚くべきことに100種類100兆個もの細菌が住み着いている。このうち、ビフィズス菌のような善玉細菌は体を病原菌の感染から守る、便秘・下痢を防ぐ、ビタミンB群をつくる、発ガン物質を分解するなどの働きをしている。これに対して、ウエルシュ菌などの悪玉細菌は有害物質を生成して、血圧を上げたり、発ガンを促進させたりして、体の老化を進めている。
ビフィズス菌が圧倒的に多いのは赤ちゃんの時期。あとは老化とともに減っていき、代わりに悪玉のウエルシュ菌が増える。ただし、長寿と呼ばれる人たちの腸内にはビフィズス菌がたくさんいる。日本有数の長寿村として知られる山梨県棡原(ゆずりはら)村のお年寄りと都内の老人ホームのお年寄りとを比較したところ、平均年齢が上にもかかわらず、棡原村のお年寄りにはビフィズス菌が数多く検出された。棡原のお年寄りはゴボウのような繊維食品をよく食べているために、腸内がきれいでビフィズス菌もたくさんいるのである。
また、自然の食品のなかでは珍しく、ゴボウにはオリゴ糖が多く含まれている。オリゴ糖はビフィズス菌のエサとなる糖類で、ビフィズス菌を増やすのに役立つ。ゴボウは腸をクリーンにして、体の老化を予防するという意味では、たしかに強壮食なのである。
ニンニクは光源氏も食した?
もう1つ、古くから強壮食品として定評の食べ物を紹介しよう。こちらは『源氏物語』にも出てくる。
雨の降り注ぐ夕刻、光源氏とその友人たちが集まって、女性の品定めをしていた。そのうちの1人が次のような体験を話した。ある日、久しぶりに女を訪ねたところ、女は几帳の中から「このごろ風邪を引いて極熱の薬草を服用していますから、とても匂いが強いのでお目にかかれません。この匂いが消えたころ、またおいでください」と言われてしまった。
上流貴族の息子たちはこの話を聞くと、嘘に違いないと笑った。「極熱の薬草を食べるような臭い女と接するくらいなら、鬼と一緒にいたほうがましだ」などと言った。
「帚木(ははきぎ)」の巻に出てくる件だが、ここに出てくる極熱の薬草とは何か。もうおわかりかもしれない。ニンニクである。昔からニンニクは強壮の効果が強く、風邪薬としても使われていたが、その反面、強烈な匂いのために人々から嫌われていたのだ。
実は、ニンニクそのものは臭くない。すりおろしたり、生のまま齧ると鋭い刺激臭が鼻を突く。アリナーゼという酵素がニンニクを傷つけた瞬間に働き出し、主要成分のアリインを分解して、アリシンという匂いの元をつくり出すのだ。
皮肉なことに、この匂いの元に優れた働きがあり、アリシンに多くの薬効があることが科学的に確かめられている。アリシンには感染症の予防、抗ガン作用、心筋梗塞・脳梗塞の予防、血圧降下作用、コレステロール値の低下作用、免疫増強、老化予防などの効果がある。
最近では、ニンニクには老化による記憶障害(物忘れ)を防ぐ働きまであることがわかってきた。これは老化促進マウス(老化による記憶障害が起こりやすい実験用のネズミ)を用いた実験で確かめられている。もう1つ興味深いのは、老化促進マウスは普通のネズミに比べて老化のスピードが早く、寿命が短いが、ニンニクを与えると正常なマウスと同じくらいの寿命になることである。
健康増進のためにゴボウを食べるなら、よく煮ること。また、ニンニクは一度にたくさん食べる必要はない。1日1片で十分。電子レンジで少し加熱するだけで、匂いを100分の1まで抑えることができる。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
弘法大師空海が唐に渡っていたときの話である。
ある山里に大師が泊まっていたところ、その家の主人は30歳くらいでしかないのに、息子のほうは80歳を過ぎているように見えた。不思議に思ってわけを聞くと、父親の年齢は100歳以上なのだが、毎日延命草を食べているので若々しく、息子は延命草が嫌いで食べないために老いてしまったという。
見ると、家の近くにいた牛の尾に延命草がついていた。大師は主人の目を盗んで、牛の尾に房のようについていた、その草の実を取り、日本に持ち帰った。のちにそれを「牛蒡(ゴボウ)」と呼ぶようになった。
ゴボウ食で善玉細菌を育成
ゴボウは古くから強精・強壮の食物として知られる。中国の薬物書『本草綱目』にも「ゴボウの根を久しく服すれば、体を軽くして、老衰を防ぐ」とある。ゴボウを常食していると、活力がつき、老化による体の衰えが防止できるというのだ。
しかし、不思議なことに、世界広しといえども、ゴボウを食品だと思っている民族は日本人しかいない。ゴボウを絶賛している当の中国人も食べていない。ゴボウを食べる日本の食文化は、世界でも珍しいのだ。
日本人は歯ごたえのある硬さを風味として好む。だから、ゴボウが珍重されてきたのだが、強壮食といわれていても、実際には栄養価はそれほど高くない。ビタミンはほとんどゼロ。カルシウムもたんぱく質も微々たる量しか含まれていない。あるのは硬い繊維ばかりだ。
ところが、その食物繊維がよく効く。ゴボウにたっぷりと含まれている食物繊維には、大腸ガン、肥満、糖尿病、動脈硬化、心臓病、高血圧などを防ぐ作用があることが確かめられている。それだけではない。ゴボウの繊維は腸内の善玉細菌を増やして、老化防止に役立つこともわかっている。
腸内には、驚くべきことに100種類100兆個もの細菌が住み着いている。このうち、ビフィズス菌のような善玉細菌は体を病原菌の感染から守る、便秘・下痢を防ぐ、ビタミンB群をつくる、発ガン物質を分解するなどの働きをしている。これに対して、ウエルシュ菌などの悪玉細菌は有害物質を生成して、血圧を上げたり、発ガンを促進させたりして、体の老化を進めている。
ビフィズス菌が圧倒的に多いのは赤ちゃんの時期。あとは老化とともに減っていき、代わりに悪玉のウエルシュ菌が増える。ただし、長寿と呼ばれる人たちの腸内にはビフィズス菌がたくさんいる。日本有数の長寿村として知られる山梨県棡原(ゆずりはら)村のお年寄りと都内の老人ホームのお年寄りとを比較したところ、平均年齢が上にもかかわらず、棡原村のお年寄りにはビフィズス菌が数多く検出された。棡原のお年寄りはゴボウのような繊維食品をよく食べているために、腸内がきれいでビフィズス菌もたくさんいるのである。
また、自然の食品のなかでは珍しく、ゴボウにはオリゴ糖が多く含まれている。オリゴ糖はビフィズス菌のエサとなる糖類で、ビフィズス菌を増やすのに役立つ。ゴボウは腸をクリーンにして、体の老化を予防するという意味では、たしかに強壮食なのである。
ニンニクは光源氏も食した?
もう1つ、古くから強壮食品として定評の食べ物を紹介しよう。こちらは『源氏物語』にも出てくる。
雨の降り注ぐ夕刻、光源氏とその友人たちが集まって、女性の品定めをしていた。そのうちの1人が次のような体験を話した。ある日、久しぶりに女を訪ねたところ、女は几帳の中から「このごろ風邪を引いて極熱の薬草を服用していますから、とても匂いが強いのでお目にかかれません。この匂いが消えたころ、またおいでください」と言われてしまった。
上流貴族の息子たちはこの話を聞くと、嘘に違いないと笑った。「極熱の薬草を食べるような臭い女と接するくらいなら、鬼と一緒にいたほうがましだ」などと言った。
「帚木(ははきぎ)」の巻に出てくる件だが、ここに出てくる極熱の薬草とは何か。もうおわかりかもしれない。ニンニクである。昔からニンニクは強壮の効果が強く、風邪薬としても使われていたが、その反面、強烈な匂いのために人々から嫌われていたのだ。
実は、ニンニクそのものは臭くない。すりおろしたり、生のまま齧ると鋭い刺激臭が鼻を突く。アリナーゼという酵素がニンニクを傷つけた瞬間に働き出し、主要成分のアリインを分解して、アリシンという匂いの元をつくり出すのだ。
皮肉なことに、この匂いの元に優れた働きがあり、アリシンに多くの薬効があることが科学的に確かめられている。アリシンには感染症の予防、抗ガン作用、心筋梗塞・脳梗塞の予防、血圧降下作用、コレステロール値の低下作用、免疫増強、老化予防などの効果がある。
最近では、ニンニクには老化による記憶障害(物忘れ)を防ぐ働きまであることがわかってきた。これは老化促進マウス(老化による記憶障害が起こりやすい実験用のネズミ)を用いた実験で確かめられている。もう1つ興味深いのは、老化促進マウスは普通のネズミに比べて老化のスピードが早く、寿命が短いが、ニンニクを与えると正常なマウスと同じくらいの寿命になることである。
健康増進のためにゴボウを食べるなら、よく煮ること。また、ニンニクは一度にたくさん食べる必要はない。1日1片で十分。電子レンジで少し加熱するだけで、匂いを100分の1まで抑えることができる。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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