ビジネスわかったランド (経営・社長)

医食同源

雑食・悪食こそ長寿と健康増進の秘訣なり
雑食・悪食こそ長寿と健康増進の秘訣なり
文化2年(1805)、幽霊を煮て食べた男の話が評判になった。その年の秋、四ツ谷に住むある武士が夜中に道を歩いていると、白装束の者が前にいる。相手の様子をよくうかがうと、腰から下がない。
「これが幽霊というものか」
そう思って、さらに後をつけてみた。すると、急に幽霊が振り返り、大きな目を光らせた。武士は抜きうちに切りつけ、「キャッ」とすさまじい叫び声をあげて幽霊は倒れたが、よく見るとそれは大きな五位鷺だった。武士は死んだ五位鷺をかついで帰り、みんなで食べた、という。これが幽霊を煮て食べたと話題になった。

日本人の腸は世界最長!?
もし本当に幽霊を食べたとしたら、これ以上の悪食はないだろう。そこまでいかなくても、いまでもヘビやアリ、ナメクジ、ミミズなどの悪食をする人がいる。いわゆるゲテモノ食いである。
しかし、もともと日本人ほど悪食の民族はいない。
私たちの祖先はそれこそ何でも食べた。日本人は270種類の貝、200種類の魚、20種類の哺乳動物、80種類の鳥類、90種類の海藻、その他昆虫、爬虫類、頭足類など、全部で1500種類もの動植物を食べてきた。トカゲ、コウモリ、猫など何でも食べるといわれる中国の広東料理でも、食材は800種類程度である。
日本人が悪食の民族であったのは、先天的に腸が長いことでもわかる。何しろ私たちの腸はヨーロッパ人より80センチも長いのだ。もちろん、腸が長いのは草食性のものを多食してきたことが大きいが、これくらい長ければ、変わったものを食べても、長い腸管を通過する間になんとか消化できる。
何でも食べると、体が丈夫になる。平安貴族が短命だったのは、おかずといったら乾燥食品がほとんどで、米ばかり偏食していたためらしい。たとえば、絵画が伝える平安貴族の顔はみな下ぶくれだ。これはむくみの顔であり、栄養不良によるビタミン欠乏が考えられる。
本来、雑食民族はたくましいのである。日本人が長寿になったのも、経済的に繁栄したのも、何でも食べる雑食民族に戻ったからともいえる。偏った食事ではパワーが生まれないし、長生きもできない。とくに、偏食ではガンが多発する。ガンの原因の70%近くは食習慣にあることもわかっている。
とにかく、ワンパターンの食事がよくない。たいていの食品には発ガン物質が含まれているが、いろいろな食品をとり、さまざまな栄養素を摂取していると、それらの栄養素が混ざり合って、ガンを防いてくれる。
たとえば、発色剤や保存剤としてハムなどに添加される亜硝酸ナトリウムと、肉や魚に含まれるアミンが反応すると、ニトロソアミンという強力な発ガン物質ができる。こうした反応が胃袋の中で起こると、胃ガンの元になるが、そのときビタミンCを含んだ食品を食べていると、ビタミンCの作用によって反応が起こらなくなり、ニトロソアミンができなくなるのだ。
現代では、あまりにも多くの食品に発ガン物質が含まれているので、それを避けることはできない。発ガン物質が怖いのなら、できるだけいろいろな種類の食品を食べることだ。厚生省も、1日30品目ぐらいの食品は摂るようにと提案している。ちなみに、調味料に味噌を使った場合でも1品目に数える。

タコを食せば生活習慣病を防げる
ゲテモノ食いに話を戻そう。
実は私たちは欧米人から見ると、信じられないような食品をよく食べている。その代表がタコである。あんなグロテスクな生物を食べることは欧米人には考えられないことなのだ(唯一の例外はイタリア人で、彼らもタコを食べる)。
しかし、このゲテモノ食いで私たちは大いに得をしている、と認識すべきだろう。タコにはタウリンという成分がとりわけたくさん含まれているからだ。
タウリンには、動脈硬化を防ぐ、肝臓の働きを強化する、不整脈を改善する、血圧を下げる、糖尿病を予防するなど数々の有用な働きのあることがわかってきた。生活習慣病対策には“もってこい”である。日本が長寿国なのも、1つにはこのタウリンを魚介類からたくさん摂っているため、という説もあるくらいだ。
近年、健康ドリンク剤などに配合され、すっかり有名になってしまったタウリンだが、意外に知られていない効果がまだある。疲れ目などの解消に役立つ作用で、健康ドリンク剤以上に広く配合されているのは市販の目薬なのである。
目薬として用いるだけでなく、口からタウリンを摂るだけでも疲れ目には効くようだ。重度の疲れ目の人にタウリンを飲ませたところ、数日で治ってしまったという報告もある。
タウリンは人間の体の中では、脳や脊髄などの中枢神経、肝臓、それに目の網膜に多く含まれている。このことからもタウリンが、目の働きのなんらかの役割を担っているのは間違いない。
動物には体内でタウリンがつくれるものとつくれないものとがある。ネズミは体内でタウリンをつくることができ、ネコはあまりつくることができない。それでネコはネズミを食べてタウリンを摂取し、視力を守ってきたわけだ。最近のキャットフードにはタウリンが含まれているので、もうネコはネズミを捕る必要がなくなってしまったらしい。
ところで、肝心のわれわれ人間もタウリンは、あまりつくることができない。だからこそ雑食・悪食は健康を守る元となるのである。

著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)