ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
コンニャクと饅頭は肥満を防ぐ健康食品
コンニャクと饅頭は肥満を防ぐ健康食品
旅の俳諧師・松尾芭蕉の好物は、意外にもコンニャクだった。芭蕉は元禄2(1689)年に『奥の細道』の長旅を終えたあと、生まれ故郷の伊賀を訪れたり、江戸や上方にいる門人の指導に当たっていたが、元禄7年の9月29日から激しい下痢を催して病の床につき、10月5日にこの世を去った。その前年の正月に、芭蕉はこんな句を詠んでいた。
蒟蒻にけふは売り勝つ若葉かな
同じ年の春にも、芭蕉はコン二ャクの句をつくっている。
蒟蒻の刺身も少し梅の花
コンニャクの刺身は、魚の刺身のように薄く切り、ゆがいて酢味噌で食べるもの。仏前に供える精進料理の一つである。
芭蕉のコンニャク好きは、弟子たちの間でも有名だった。弟子の1人は多少ユーモアを混じえて、「亡き芭蕉に詫びるためにコンニャクの白あえを供えよ」とまで書いている。
コンニャクは腸の清掃人
芭蕉が終生好んだコンニャクは廉価な食品であったが、一時その値が高騰した。宝永4(1707)年11月、富士山が大噴火し、江戸中に火山灰が雪のように降り積もった。吸い込んだ火山灰を体内から払うために、「砂払い」と呼ばれたコンニャクが江戸市民の間で売れに売れたのだ。
コンニャクは「胃腸のほうき」とされ、腸をきれいにする働きがあると考えられていた。実際、コンニャクに含まれるグルコマンナンという食物繊維には、そのような働きがある。
かつて食物繊維は食物のカスとされ、何の役にも立たないものとされていた。ところが、ここ20年近くの間に食物繊維の、人気がうなぎ登りになっている。食物繊維に大腸ガン、便秘、糖尿病、動脈硬化、胆石、高血圧などを防ぐ作用のあることがわかってきたからだ。
食物繊維は、大きく2種類に分けられる。水に溶けない不溶性繊維と水に溶ける水溶性繊維で、植物の皮や筋などに多く含まれるセルロースやヘミセルロースなどは不溶性繊維だ。果物に含まれるペクチン、海藻に含まれるアルギン酸、コンニャクのグルコマンナンなどは水溶性繊維の代表格である。
不溶性繊維は水分を吸収して数倍から十数倍にふくれ上がり、それが腸管を刺激して、腸の働きを盛んにする。便秘を防ぐ働きは、不溶性繊維のほうが強いのである。一方、水溶性の食物繊維は、腸内の有害物質を吸着して体外へ排出するカが強い。血圧を引き上げるナトリウムや動脈硬化を引き起こすコレステロール、さらに大腸ガンの元となる発ガン物質を腸内で吸いつけ、体の外へ出す。
どちらも、腸の清掃人であるが、成人病対策としてはコンニャクなど水溶性のほうが効果が高いだろう。また、コンニャクなど食物繊維の多い食品は低カロリーである点も重要だ。実際、コンニャクなどを上手に加えて料理をすれば減量しやすくなるのである。
饅頭など小豆の菓子は太らない
ダイエットにからめて、もう1つ、饅頭についても触れておこう。近年、饅頭など和菓子はケーキなどの洋菓子に押され気味であるが、ケーキよりも和菓子のほうが太りにくいとなれば、どうなるか。
肥満の原因は、皮下や内臓などの脂肪組織にたまる脂肪(体脂肪)である。ただし、食物から摂取された脂肪が、そのまま体脂肪になるわけではない。脂肪はまず脂肪酸とグリセロールに分解され、このうち脂肪酸が脂肪組織の脂肪細胞に取り込まれて、それがグリセロールと結合して体脂肪となる。
もっとも、この結合したグリセロールは、先の脂肪が分解してできたグリセロールとは異なる物質である。食事から得られた糖質からつくられたものだ。要するに、体脂肪ができるには食事のなかに脂肪と糖質という2つの栄養素がなければならないのである。アメリカ人に肥満が多いのも、脂肪をたっぷり含んだ食事のあとに、デザートとして糖質と脂肪を大量に含んだアイスクリームやケーキをたくさん食べるからだ。
さらに、糖質は脂肪になりやすい性質をもっている。糖質は肝臓で脂肪に合成され、あとは先と同様の過程を歩み、体脂肪となる。糖質が肥満の一番の原因といえる。
さて、饅頭である。実は、饅頭は脂肪を含まない。しかも和菓子のあんこには小豆が使われており、そこに多く含まれる食物繊維は糖質の吸収を遅らせる働きをもっている。甘納豆には1.4%、きんつばには0.9%もの食物繊維が含まれているのに対して、洋菓子は0~0.1%しか含まれていない。饅頭がケーキより、太りにくいことがおわかりいただけただろう。
余談になるが、日本での饅頭の普及には象が一役買っている。享保14(1729)年、交趾国(ベトナム)から象が初めて江戸に渡来した。これ以前、江戸で饅頭を売っている店はほとんどなかったが、たまたま小麦でできた丸いパンを象のエサにしていたのが珍しかったのだろう、まもなくそれにあんこを入れたものが『象の饅頭』として安く売り出され、人気を博すようになった。
饅頭は、すでに14世紀に中国から伝わっていたが、まだ庶民のお菓子ではなかった。その後、本当の饅頭も安く売られるようになり、代表的な和菓子の1つになった。芭蕉が亡くなったのは、こうした流行の前のことだが、もし食べることができれば、饅頭の句も残したであろうか。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
旅の俳諧師・松尾芭蕉の好物は、意外にもコンニャクだった。芭蕉は元禄2(1689)年に『奥の細道』の長旅を終えたあと、生まれ故郷の伊賀を訪れたり、江戸や上方にいる門人の指導に当たっていたが、元禄7年の9月29日から激しい下痢を催して病の床につき、10月5日にこの世を去った。その前年の正月に、芭蕉はこんな句を詠んでいた。
蒟蒻にけふは売り勝つ若葉かな
同じ年の春にも、芭蕉はコン二ャクの句をつくっている。
蒟蒻の刺身も少し梅の花
コンニャクの刺身は、魚の刺身のように薄く切り、ゆがいて酢味噌で食べるもの。仏前に供える精進料理の一つである。
芭蕉のコンニャク好きは、弟子たちの間でも有名だった。弟子の1人は多少ユーモアを混じえて、「亡き芭蕉に詫びるためにコンニャクの白あえを供えよ」とまで書いている。
コンニャクは腸の清掃人
芭蕉が終生好んだコンニャクは廉価な食品であったが、一時その値が高騰した。宝永4(1707)年11月、富士山が大噴火し、江戸中に火山灰が雪のように降り積もった。吸い込んだ火山灰を体内から払うために、「砂払い」と呼ばれたコンニャクが江戸市民の間で売れに売れたのだ。
コンニャクは「胃腸のほうき」とされ、腸をきれいにする働きがあると考えられていた。実際、コンニャクに含まれるグルコマンナンという食物繊維には、そのような働きがある。
かつて食物繊維は食物のカスとされ、何の役にも立たないものとされていた。ところが、ここ20年近くの間に食物繊維の、人気がうなぎ登りになっている。食物繊維に大腸ガン、便秘、糖尿病、動脈硬化、胆石、高血圧などを防ぐ作用のあることがわかってきたからだ。
食物繊維は、大きく2種類に分けられる。水に溶けない不溶性繊維と水に溶ける水溶性繊維で、植物の皮や筋などに多く含まれるセルロースやヘミセルロースなどは不溶性繊維だ。果物に含まれるペクチン、海藻に含まれるアルギン酸、コンニャクのグルコマンナンなどは水溶性繊維の代表格である。
不溶性繊維は水分を吸収して数倍から十数倍にふくれ上がり、それが腸管を刺激して、腸の働きを盛んにする。便秘を防ぐ働きは、不溶性繊維のほうが強いのである。一方、水溶性の食物繊維は、腸内の有害物質を吸着して体外へ排出するカが強い。血圧を引き上げるナトリウムや動脈硬化を引き起こすコレステロール、さらに大腸ガンの元となる発ガン物質を腸内で吸いつけ、体の外へ出す。
どちらも、腸の清掃人であるが、成人病対策としてはコンニャクなど水溶性のほうが効果が高いだろう。また、コンニャクなど食物繊維の多い食品は低カロリーである点も重要だ。実際、コンニャクなどを上手に加えて料理をすれば減量しやすくなるのである。
饅頭など小豆の菓子は太らない
ダイエットにからめて、もう1つ、饅頭についても触れておこう。近年、饅頭など和菓子はケーキなどの洋菓子に押され気味であるが、ケーキよりも和菓子のほうが太りにくいとなれば、どうなるか。
肥満の原因は、皮下や内臓などの脂肪組織にたまる脂肪(体脂肪)である。ただし、食物から摂取された脂肪が、そのまま体脂肪になるわけではない。脂肪はまず脂肪酸とグリセロールに分解され、このうち脂肪酸が脂肪組織の脂肪細胞に取り込まれて、それがグリセロールと結合して体脂肪となる。
もっとも、この結合したグリセロールは、先の脂肪が分解してできたグリセロールとは異なる物質である。食事から得られた糖質からつくられたものだ。要するに、体脂肪ができるには食事のなかに脂肪と糖質という2つの栄養素がなければならないのである。アメリカ人に肥満が多いのも、脂肪をたっぷり含んだ食事のあとに、デザートとして糖質と脂肪を大量に含んだアイスクリームやケーキをたくさん食べるからだ。
さらに、糖質は脂肪になりやすい性質をもっている。糖質は肝臓で脂肪に合成され、あとは先と同様の過程を歩み、体脂肪となる。糖質が肥満の一番の原因といえる。
さて、饅頭である。実は、饅頭は脂肪を含まない。しかも和菓子のあんこには小豆が使われており、そこに多く含まれる食物繊維は糖質の吸収を遅らせる働きをもっている。甘納豆には1.4%、きんつばには0.9%もの食物繊維が含まれているのに対して、洋菓子は0~0.1%しか含まれていない。饅頭がケーキより、太りにくいことがおわかりいただけただろう。
余談になるが、日本での饅頭の普及には象が一役買っている。享保14(1729)年、交趾国(ベトナム)から象が初めて江戸に渡来した。これ以前、江戸で饅頭を売っている店はほとんどなかったが、たまたま小麦でできた丸いパンを象のエサにしていたのが珍しかったのだろう、まもなくそれにあんこを入れたものが『象の饅頭』として安く売り出され、人気を博すようになった。
饅頭は、すでに14世紀に中国から伝わっていたが、まだ庶民のお菓子ではなかった。その後、本当の饅頭も安く売られるようになり、代表的な和菓子の1つになった。芭蕉が亡くなったのは、こうした流行の前のことだが、もし食べることができれば、饅頭の句も残したであろうか。
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堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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