ビジネスわかったランド (経営・社長)

医食同源

人間の運命すら変える大豆がもつ健康パワー
人間の運命すら変える大豆がもつ健康パワー
「食は命なり」
江戸中期の観相の大家、水野南北はそう言った。「命」は「運命」にも通じるし、「生命」にも通じる。食によって、長寿と強運がもたらされると南北は説いたのである。
観相とは、人の容貌や骨格から性格や運命を判断する術である。しかし、観相家がなぜ食について語るようになったのか。これにはちゃんとわけがある。

過食と肥満は人間の相を変える
水野南北の観相は、百発百中だったといわれる。「黙って座ればピタリと当たる」という言葉は、南北を評して生れてきたものだ。もちろん、南北も初めから観相の名手だったわけではない。運命鑑定の術を習得するために、あらゆる努力をした。風呂屋で働いて、お客の全身の相をひそかに観察したり、墓守となって死人の相を見たり、さらに諸国を巡歴して観相の研究を深めた。そうして奥義にたどり着き、名前は全国に轟いた。
ただし、南北にはいくら研究してもわからないことがあった。貧相短命の相をもっているにもかかわらず、裕福な長命者がいることだった。ある日、南北はこの謎を解くために、伊勢神宮に参拝し、断食水ごりの荒行をした。そして七日の行を終えたとき、ついに霊感を得て、大悟した。「食は命なり」と。
南北はこのとき以来、運命判断の基礎を食の問題に置くようになった。食の慎みと乱れが命の長短を決め、その人の運命を支配すると説くようになったのである。しかし、この南北の言葉が、本当の意味で理解できるようになったのは、最近のことといっていい。日本の40代以上の10人に1人の割合で糖尿病が見つかるようになってからである。
糖尿病で怖いのは、ちゃんと治療をしないで放置しておくことである。糖尿病で血糖値の高い状態が持続すると、次第に血管や神経を傷めつけ、目や腎臓など全身に障害を引き起こす。たとえば、目では網膜の出血を起こし、失明の恐れすらある。脳梗塞や心筋梗塞も起こりやすくなる。
この糖尿病を引き起こす最大の要因が過食と肥満なのである。つまり、“食”が糖尿病を引き起こすのだ。
かつての日本人には糖尿病は珍しい病気だったが、戦後、食生活が欧米化され、高カロリー・高脂肪の食事をとるようになってから激増した。しかも、日本人は体質的に欧米人より糖尿病になりやすいことがわかってきた。欧米人に比べ日本人のインスリン分泌量は2分の1から3分の1程度しかなく、余力がないためとみられている。
もし一家の大黒柱が糖尿病になり、合併症で苦しんだり、短命で人生を終えてしまったら、大変な悲劇となる。幸い糖尿病は食事療法でコントロールできる。その意味で、正しい食を続けることは、運命を好転させることにもなるのだ。
医師の警告を無視して、そのまま過食を続けていると、糖尿病がジワジワと全身の血管を蝕んでいく。気がついたときは病院のベッドの上で、もはや手後れということにもなりかねない。糖尿病に狙われている現代人は「食は命なり」という南北の言葉をいつも肝に銘じておく必要があるだろう。

大豆を食べると寿命が伸びる!
南北にはもう1つ、食にまつわる面白い話がある。観相の修行をする前の彼の人相はものすごく悪かった。絶えず喧嘩を売られ、アウトローのような生活をしていたという。18歳のとき、1年間投獄されたこともある。
出所した南北は、見知らぬ托鉢僧から「険難の相があり、寿命はあと一年」と教えられた。驚いた南北は、禅寺で一年間修行をした。その後、先の托鉢僧と偶然に出会い、彼から「険難の相が消えている。大きな功徳を積んだに違いない」と言われる。南北は「うまいものを食べるのをやめて、一年間麦と大豆を食べていただけだ」と言ったところ、その食生活を変えたことが運命を変えたのだ、と托鉢僧から教えられた。
実は、南北が一生懸命食べた大豆は「スーパー健康食品」といっていいほど素晴らしい食べ物なのだ。寿命が延びて当然なのである。
大豆のたんぱく質は肉に比較しても劣らないほど優れたもので、免疫を高めたり、コレステロールを下げたり、ガンや動脈硬化を予防する。また、大豆特有の成分にイソフラボンと呼ばれているものがあって、これは男性の前立腺ガンや女性の乳ガンの予防に大いに活躍しているとみられている。
実際、こんな研究もある。日本人とフィンランド人の前立腺ガン、乳ガンの死亡率を比較すると、フィンランド人のほうが2倍以上も高い。そこで、両者の血液中のイソフラボン濃度を測定したところ、日本人はフィンランド人の約40倍も高い値を示した。
前立腺ガンや乳ガンのような男性や女性に特有な臓器にできるガンの発生には、性ホルモンの分泌が関係している。イソフラボンはこうした性ホルモンの働きに干渉することにより、それらのガンの発生を予防するのではないか、と考えられている。
フィンランド人の菜食主義者と比較しても、日本人の血液中のイソフラボン濃度は格段に高い。いうまでもなく、日本人が豆腐や納豆など大豆食品をそれだけよく食べているからである。国立がんセンターの調査でも、大豆食品をよく食べている地域ほど、乳ガン、卵巣ガン、大腸ガンの死亡率が低いことがわかっている。
大豆特有の成分である大豆サポニンにも、抗ガン作用がある。これはまたエイズウイルスを抑えることもわかって話題になっている。もう1つ。大豆サポニンにはのどの舌咽神経を刺激して、食欲を減退させる働きがある。たとえば、豆腐を食べていると、最初はおいしく感じられるが、食べ進むうちになんとなく食べられなくなってくる。大豆には適度に食欲を抑えて、肥満を防止する働きもあるのだ。
これも万病の元ともいうべき糖尿病の予防に大いに役立つ。
まさに「食は命なり」である。

著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)