ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
あらためて見直したいお米中心の日本の食事
あらためて見直したいお米中心の日本の食事
江戸時代の最盛期とされる文政年間(1818~1830年)。そのときの大工の年収は、銀一貫五八七匁六分だった。うち米代が夫婦と子供1人の生活で354匁、収入の実に22.3%を占めた。昔もいまも、米は日本人に欠かせない食物なのである。
旅行をする際にも日本人は米を携行していた。「干飯(ほしいい)」がそれで、いったん炊いた米を干し、さらに炒って乾燥させたものである。そのまま食べてもいいし、湯や水を加えてもいい。旅人は宿に着くと湯を沸かし、干飯を浸して食事を取ったものだが、木賃宿という名称も、湯を沸かすための薪賃から生まれたという。
さらに、米は酒の原料にもなったし、籾を取ったあとの稲ワラは俵や綱、草履の材料として使われた。米は生活そのものに密着したものだった。
世界中の羨望を集める日本人の食生活
ところが、こうした日本人の米食文化が一時批判されたことがあった。第二次世界大戦後、日本がアメリカとの戦争に負けたのは、米ばかりを食べていたからだ、と大真面目に論議されたのである。
たしかにステーキと米とを比べたら、ステーキを食べるほうが強くなれそうだ。実際、アメリカ人の体格はわれわれとは比較にならない。だが、それでも日本人が、米を主食とする文化を守り続けてきたのは正解だった。いまでは、日本人の米を中心とする食事が、健康を維持する理想の食事として世界的に絶賛されているのである。
1970年ごろから、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病などの多発に苦しむアメリカは、食事の改善に取り組み始めた。そのアメリカの人たちが改善目標に掲げたのは「炭水化物が多くて、脂肪が少ない」食事だった。実は、これは日本人の食事にほぼ近いものなのである。
エネルギーを供給するたんぱく質、脂質(脂肪)、炭水化物などの栄養素別構成比のことを「PFCエネルギー比」というが、先進国のなかでこのバランスが取れているのは日本だけ。米を中心にしているからなのだが、対してアメリカはもちろん、フランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパ諸国は脂質が飛び抜けて多い。
現代日本人の食事パターンは、主食、主菜、副菜から成り立っている。このパターンで主食となる米から炭水化物を摂り、主菜となる魚、肉、大豆製品などからたんぱく質を摂り、さらに副菜となる野菜、海藻、小魚などからビタミン、ミネラルを補給している。
この主食、主菜、副菜という食事のパターンは日本独自のもので、これが先のバランスにつながっているのだ。欧米の食事のほうは、主菜と脂肪・砂糖中心の食事パターンであり、パンはついたとしても「つけ足し」のような存在。これだと、どうしても脂質が多くなり、成人病へとつながっていく。真似すべきものではないのである。
米食は祖先から引き継いだ、日本人の生命を守る貴重な財産なのだ。そのことに日本人は気づくべきであろう。
質素な玄米食はパワーの固まりだった!?
しかし、欲をいうなら、玄米のパワーにも気づいていただきたい。
たとえば、戦国時代の武士は一般の武士から将軍に至るまで、驚くほど質素な生活をしていた。食事も実に粗末である。だが、簡素な食事で、戦国の武士が栄養不良になったという話は聞かない。むしろ、重い甲冑を身にまとい、刀や槍を持って戦場を駆け回った彼らの体力は、現代人には想像もできないほど優れていたのである。
では、彼らのパワーの源は何だったのか。ズバリ、玄米中心の食事をしていたことだった。最近、筆者は胃腸内視鏡の世界的権威・新谷弘美氏(米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科教授)の話をうかがっているうちに、その秘密の一端に触れることができたのだった。
新谷氏は、これまで20万人もの人たちの胃腸を内視鏡でのぞいているうちに、肉中心の食生活をしている人の腸は硬くて短く、その働きが低下しており、大腸ポリープや大腸ガンばかりか高血圧、糖尿病、心臓病といった病気が多数見つかることに気がついた。
ところが、働きの低下した腸も玄米などの穀物を中心とした食事を取るよう変えると、2~3か月ほどでみるみるきれいになり、働きもよくなって病気にかかりにくい元気な体になる。新谷氏は実際に患者の腸を観察して、そうした結論を得た、という。
内視鏡の世界的権威が玄米について力説するので奇異な感じがしたが、要は「食物が体をつくっている」という単純な理屈を、私たちは忘れていたのだろう。
なお、白米は玄米から糠(ぬか)を取ったものである。しかし、糠にはビタミンB1、B2、食物繊維などの栄養素がとくに多く含まれている。栄養的には玄米のほうがはるかに優れているのである。白米という字が「粕(かす)」になることや、糠という字が健康の「康」の字と「米」からできているのも決して偶然ではない。
とはいえ、白米ばかり食べてきた人が、急に玄米は食べられないだろう。そこで、お薦めしたいのは五分づき米だ。玄米を100%精米したのを白米だとすると、半分ほど精米したのが五分づき米。お米屋さんでは玄米を精米してから配達しているので、あらかじめ頼んでおくと五分づき米にしてくれる。あるいは、七分づき米でもいい。
どちらも、白米と区別がつかないくらい食べやすい。普通の炊飯器で炊くこともできる。体質改善にもってこいである。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
江戸時代の最盛期とされる文政年間(1818~1830年)。そのときの大工の年収は、銀一貫五八七匁六分だった。うち米代が夫婦と子供1人の生活で354匁、収入の実に22.3%を占めた。昔もいまも、米は日本人に欠かせない食物なのである。
旅行をする際にも日本人は米を携行していた。「干飯(ほしいい)」がそれで、いったん炊いた米を干し、さらに炒って乾燥させたものである。そのまま食べてもいいし、湯や水を加えてもいい。旅人は宿に着くと湯を沸かし、干飯を浸して食事を取ったものだが、木賃宿という名称も、湯を沸かすための薪賃から生まれたという。
さらに、米は酒の原料にもなったし、籾を取ったあとの稲ワラは俵や綱、草履の材料として使われた。米は生活そのものに密着したものだった。
世界中の羨望を集める日本人の食生活
ところが、こうした日本人の米食文化が一時批判されたことがあった。第二次世界大戦後、日本がアメリカとの戦争に負けたのは、米ばかりを食べていたからだ、と大真面目に論議されたのである。
たしかにステーキと米とを比べたら、ステーキを食べるほうが強くなれそうだ。実際、アメリカ人の体格はわれわれとは比較にならない。だが、それでも日本人が、米を主食とする文化を守り続けてきたのは正解だった。いまでは、日本人の米を中心とする食事が、健康を維持する理想の食事として世界的に絶賛されているのである。
1970年ごろから、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病などの多発に苦しむアメリカは、食事の改善に取り組み始めた。そのアメリカの人たちが改善目標に掲げたのは「炭水化物が多くて、脂肪が少ない」食事だった。実は、これは日本人の食事にほぼ近いものなのである。
エネルギーを供給するたんぱく質、脂質(脂肪)、炭水化物などの栄養素別構成比のことを「PFCエネルギー比」というが、先進国のなかでこのバランスが取れているのは日本だけ。米を中心にしているからなのだが、対してアメリカはもちろん、フランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパ諸国は脂質が飛び抜けて多い。
現代日本人の食事パターンは、主食、主菜、副菜から成り立っている。このパターンで主食となる米から炭水化物を摂り、主菜となる魚、肉、大豆製品などからたんぱく質を摂り、さらに副菜となる野菜、海藻、小魚などからビタミン、ミネラルを補給している。
この主食、主菜、副菜という食事のパターンは日本独自のもので、これが先のバランスにつながっているのだ。欧米の食事のほうは、主菜と脂肪・砂糖中心の食事パターンであり、パンはついたとしても「つけ足し」のような存在。これだと、どうしても脂質が多くなり、成人病へとつながっていく。真似すべきものではないのである。
米食は祖先から引き継いだ、日本人の生命を守る貴重な財産なのだ。そのことに日本人は気づくべきであろう。
質素な玄米食はパワーの固まりだった!?
しかし、欲をいうなら、玄米のパワーにも気づいていただきたい。
たとえば、戦国時代の武士は一般の武士から将軍に至るまで、驚くほど質素な生活をしていた。食事も実に粗末である。だが、簡素な食事で、戦国の武士が栄養不良になったという話は聞かない。むしろ、重い甲冑を身にまとい、刀や槍を持って戦場を駆け回った彼らの体力は、現代人には想像もできないほど優れていたのである。
では、彼らのパワーの源は何だったのか。ズバリ、玄米中心の食事をしていたことだった。最近、筆者は胃腸内視鏡の世界的権威・新谷弘美氏(米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科教授)の話をうかがっているうちに、その秘密の一端に触れることができたのだった。
新谷氏は、これまで20万人もの人たちの胃腸を内視鏡でのぞいているうちに、肉中心の食生活をしている人の腸は硬くて短く、その働きが低下しており、大腸ポリープや大腸ガンばかりか高血圧、糖尿病、心臓病といった病気が多数見つかることに気がついた。
ところが、働きの低下した腸も玄米などの穀物を中心とした食事を取るよう変えると、2~3か月ほどでみるみるきれいになり、働きもよくなって病気にかかりにくい元気な体になる。新谷氏は実際に患者の腸を観察して、そうした結論を得た、という。
内視鏡の世界的権威が玄米について力説するので奇異な感じがしたが、要は「食物が体をつくっている」という単純な理屈を、私たちは忘れていたのだろう。
なお、白米は玄米から糠(ぬか)を取ったものである。しかし、糠にはビタミンB1、B2、食物繊維などの栄養素がとくに多く含まれている。栄養的には玄米のほうがはるかに優れているのである。白米という字が「粕(かす)」になることや、糠という字が健康の「康」の字と「米」からできているのも決して偶然ではない。
とはいえ、白米ばかり食べてきた人が、急に玄米は食べられないだろう。そこで、お薦めしたいのは五分づき米だ。玄米を100%精米したのを白米だとすると、半分ほど精米したのが五分づき米。お米屋さんでは玄米を精米してから配達しているので、あらかじめ頼んでおくと五分づき米にしてくれる。あるいは、七分づき米でもいい。
どちらも、白米と区別がつかないくらい食べやすい。普通の炊飯器で炊くこともできる。体質改善にもってこいである。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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