ビジネスわかったランド (経営・社長)

医食同源

ご飯に納豆・味噌汁は記憶力向上に効果てきめん
ご飯に納豆・味噌汁は記憶力向上に効果てきめん
江戸時代には、ミョウガをたくさん食べると物忘れをすると信じられていた。
こんな話がある。
「あのお客さんの荷物には、高価な品物がいっぱい詰まっているので、なんとか忘れて行かせる方法はないかしら?」
宿屋の女房が亭主に耳打ちをした。
「だったらミョウガを食べさせるといい」
その晩、女房は汁にも菜にもミョウガをたくさん入れて、客にふるまった。ところが翌朝、客が出立したあとに部屋を探しても何1つ忘れ物がない。
「おまえさん、ミョウガは効かなかったようだよ」
「そんなことはない」
「何か忘れて行ったとでもいうのかい」
「宿賃を払わずに行ってしまった」

そもそも和食は物忘れにいい!
もちろん、ミョウガを食べると物忘れをするというのは迷信である。もし物忘れをする食物があったら、その食物を食べたことすら忘れてしまうので、その存在は永遠にわからないに違いないからだ。
しかし、物忘れをする食物はおそらく見つからないとしても、物忘れを防ぐ食品として注目されているものはある。それは大豆だ。大豆に多く含まれている成分は、記億に深いかかわりをもつ神経伝達物質の材料となるのである。
脳は約140億個もの神経細胞が絡み合ってできている。脳にもたらされる情報は、神経細胞から神経細胞へと伝えられ、身体の各部を動かす。その際、神経細胞の末端から神経伝達物質が放出され、それが他の神経細胞を刺激するのだ。
脳の中では、さまざまな神経伝達物質が活躍している。そのうち、記憶に関連した神経伝達物質はアセチルコリンである。極度の記憶障害を訴えるアルツハイマー病でも、アセチルコリンが極端に減っていることがわかっている。いずれにしても歳を取るとアセチルコリンの減少は大なり小なり認められる。
中高年の記憶力の衰えも、こうしたことが関係している。そのため、脳内のアセチルコリンを増やせば記憶力がよくなる、と考えられているのである。
アセチルコリンをつくるには、コリンという物質が欠かせない。ネズミにコリンを与えたところ、記憶力がよくなったという報告もある。ただし、人間にコリンを投与すると、腸内で魚の腐ったような臭いを発する物質に変わるために、経口投与は困難だ。
そこで大豆の登場。大豆に多く含まれるホスファチジルコリン(レシチンともいう)という物質なら、消化管で吸収される際にコリンに分解され、それが脳内に運ばれてアセチルコリンを増やしてくれる。こんなことから、物忘れが気になる人には大豆がお勧めなのである。
ホスファチジルコリンは、大豆以外にピーナッツ、卵黄、肉、ハムなどにも多く含まれている。しかし、これらの食べ過ぎは脂肪の摂取も多くしてしまう恐れがある。やはり、たくさん食べるなら大豆なのだ。
ちなみに、大豆と比べると、その量は落ちるが精白米にもホスファチジルコリンがけっこう含まれている。ということは、ご飯に納豆、それに豆腐の入った味噌汁という和食の定番は、実は記憶力をよくする食事でもあるということだ。

お米はずばり脳の活力源
以前、ニンニクに物忘れを防ぐ作用のあることを少し紹介したことがあった。ニンニクの記憶障害防止作用にも興味深いものがあるので、今回はさらに詳しく報告しておこう。以下のことは、老化促進マウスという、老化による記憶障害を起こしやすい実験用のネズミを使った実験で確かめられた。
たとえば明るい部屋と暗い部屋を用意してマウスを放すと、マウスは夜行性なので、すぐに暗い部屋へ行こうとする。しかし、暗い部屋に入ると電気ショックを受ける仕組みにしておくと、一度そこへ入ったマウスは痛い思いをしたことを学習して、二度と行かなくなる。ただし、老化促進マウスは普通のマウスと違って物忘れのために、何度となく暗い部屋に入って、電気ショックを受けてしまう。
ところが、ニンニクを与えた老化促進マウスは、正常なマウスと同じように暗い部屋には行かなくなるのだ。このことからニンニクには物忘れを防ぐ働きがある、と考えられている。
なぜニンニクは物忘れを防くのだろうか。これについては、ある程度の推測が成り立つ。
実は老化促進マウスは普通のマウスと比べて老化のスピードが早く、寿命が短い。しかし、ニンニクを与えると、その寿命が正常なマウスと同じになってしまう。つまり、ニンニクは老化促進マウスの体の寿命を延ばすことによって脳の老化も遅らせ、その結果として物忘れを防いでいる、というわけだ。
最後に、もう1つ。脳の栄養としてご飯を食べることを忘れてはいけない。
寝ているときも起きているときも、脳はエネルギーとして多量のブドウ糖を消費している。脳で使われるエネルギーはブドウ糖だけで、血液中にどんなにたくさんの脂肪やたんぱく質があっても脳のエネルギーとしては使われない。ダイエットと称してご飯を極端に減らしてしまうような食生活は、ブドウ糖を欠乏させて、やはり記憶力を低下させるのである。
1950年にアメリカでハーペンという人が、学童に朝から昼まで45分おきに10グラムのブドウ糖を与え、算数の試験をしたところ、正解率が大きく上昇したという。ダイエットといえども、きちんと食事をして脳を養うことが大切だ。

著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)