ビジネスわかったランド (経営・社長)
医食同源
リンゴ・シイタケと血圧の不思議な関係
リンゴ・シイタケと血圧の不思議な関係
冬場は血圧が急上昇するシーズンである。こうした季節に注目したいのが、リンゴとシイタケ。まずはリンゴと血圧の意外な関係から紹介してみよう。
リンゴは漢字で「林檎」と書く。禽(=鳥)が集まる木という意味である。つまり、東洋でいうリンゴは、人間が食べるというよりも鳥に好まれた木の実、という程度の果物でしかなかった。実際、日本に古くからあった和リンゴは実が小さく、形も味も貧弱そのもので、梨、桃、柿などと比べるとまったく精彩を欠いている。
そのリンゴが日本で果物の王者に君臨したのは、明治になって西洋リンゴの苗木が持ち込まれてからのことである。
このとき、西洋から言葉が1つもたらされた。「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」という言い伝え……。
リンゴの産地では脳卒中が少ない!
西洋では、リンゴは万病の妙薬とされていた。しかし、西洋でもその言葉をまともに信じている人は希だった。リンゴが“薬”になるとは、誰も考えていなかったわけだが、おもしろいことに、その言葉の正しかったことが日本の、それもリンゴの名産地・弘前で証明されたのである。
かつての日本は、世界で名だたる脳卒中国だった。なかでもとりわけ多かったのが東北地方。さまざまな研究から塩分の摂りすぎが血圧を上げ、脳卒中を多発させていることがわかってきたが、東北地方では米飯とよくあう塩気の多い味噌汁や漬物が盛んに食べられていたのである。当時、東北地方での1日の食塩摂取量は、25~30グラムにものぼったといわれる。ところが、青森県にはなぜか高血圧が少ない地域があった。リンゴの産地として有名な弘前である。ここに住む人たちは1日に2個も3個もリンゴを食べる。リンゴに含まれる栄養素を調べると、カリウムが多い。リンゴ100グラム中に110ミリグラムも含まれている。弘前の人々は当然、多量のカリウムを摂取していることになる。
そのカリウムが食塩の害を抑えて、高血圧の発生を抑えているのではないか。これが当時、世界的な関心を集めた、弘前大学医学部・佐々木直亮教授のリンゴ説だった。この説をきっかけに、高血圧を予防したり治療したりする1つの手段として、ナトリウム(食塩の主要成分)とカリウムのバランスが世界中で問題にされるようになったのである。
では、実際にリンゴを食べると血圧は下がるのか。佐々木教授は38人を2つのグループに分け、10日間、一方にはリンゴを食べさせず、もう一方にはリンゴを好きなだけ食べさせた。すると、好きなだけリンゴを食べた人は明らかに血圧が下がったのである。なお、カリウムをたくさん含んでいる食品はリンゴだけではない。果物ではイチゴ、柿、ビワ、梨、ミカン。野菜ではキュウリ、キャベツ、大根、トマト、ナスなどに豊富に含まれている。
シイタケ水は“御利益”食品
続いてシイタケについて。シイタケには、次のような逸話がある。貞応2(1223)年、仏法の源流を訪ねて、24歳の若者が宋へ向かって船出した。彼は宋の天童山へのぼり、禅の修行をした。その時の話。
ある夏の暑い日、若者が昼食を終えて長い廊下を歩いていたとき、年老いた典座(食事などの生活の世話をする僧)が仏殿の前でシイタケを干していた。老典座は頭に蓑もかぶらず、灼熱の地面の上で汗だくになりながら、背骨を弓のように曲げて黙々とシイタケを干していた。若者は思わず尋ねた。
「なぜあなたのようなお年寄りが、そのような苦しい仕事をするのですか。もっと若い修行僧がいるではありませんか」
老人はきっぱりと言った。
「他はこれ吾にあらず」
他人にやらせても、その者は自分ではない、と言ったのである。
「何もこんな暑いときではなく、もっと日が陰ってからやったらいいじゃないですか」
「さらにいずれの時をか待つべき」
いまという時に行なわなかったら、いったいそんな時は来るのだろうか。老人は、さらに厳しくそう言った。
この老典座の言葉から若者はハッと悟った。いまこの時を大切にして、自分がしなければ自分は悟れないのだ、と。この若者がのちの曹洞宗の開祖・道元である。老典座がシイタケを干しているのを見て道元は悟りを開いたが、シイタケはそんな尊い機縁を生む、御利益のある食品なのかもしれない。
こんな実験がある。
生まれてしばらく経つと血圧が上がる特殊なネズミ(高血圧ラット)を2つのグループに分け、あるグループにはシイタケ水を、一方のグループにはただの水を飲ませて比較した。すると、水を飲ませたグループは18週目までに血圧が57ミリも上昇したのに対して、シイタケ水を飲ませたグループでは15ミリしか上がらなかった。民間療法として伝わっているシイタケ水は、天然の“降圧剤”として利用することができる。
シイタケ水は、次のようにしてつくって飲む。干しシイタケ(小さいものや薄いものなら2~3枚)をコップ1杯の水に漬けて、一晩おいて、翌朝飲む。これを毎日続けるだけ。実際、こんな簡単なことで、血圧が下がった人がたくさんいる。
残ったシイタケは料理に使って、食べるといい。干しシイタケを1日1枚食べると、ガン予防になるともいうから、まさにいいことずくめである。私たちも、道元のように干しシイタケを見て、健康法に悟りを開きたいものである。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
冬場は血圧が急上昇するシーズンである。こうした季節に注目したいのが、リンゴとシイタケ。まずはリンゴと血圧の意外な関係から紹介してみよう。
リンゴは漢字で「林檎」と書く。禽(=鳥)が集まる木という意味である。つまり、東洋でいうリンゴは、人間が食べるというよりも鳥に好まれた木の実、という程度の果物でしかなかった。実際、日本に古くからあった和リンゴは実が小さく、形も味も貧弱そのもので、梨、桃、柿などと比べるとまったく精彩を欠いている。
そのリンゴが日本で果物の王者に君臨したのは、明治になって西洋リンゴの苗木が持ち込まれてからのことである。
このとき、西洋から言葉が1つもたらされた。「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」という言い伝え……。
リンゴの産地では脳卒中が少ない!
西洋では、リンゴは万病の妙薬とされていた。しかし、西洋でもその言葉をまともに信じている人は希だった。リンゴが“薬”になるとは、誰も考えていなかったわけだが、おもしろいことに、その言葉の正しかったことが日本の、それもリンゴの名産地・弘前で証明されたのである。
かつての日本は、世界で名だたる脳卒中国だった。なかでもとりわけ多かったのが東北地方。さまざまな研究から塩分の摂りすぎが血圧を上げ、脳卒中を多発させていることがわかってきたが、東北地方では米飯とよくあう塩気の多い味噌汁や漬物が盛んに食べられていたのである。当時、東北地方での1日の食塩摂取量は、25~30グラムにものぼったといわれる。ところが、青森県にはなぜか高血圧が少ない地域があった。リンゴの産地として有名な弘前である。ここに住む人たちは1日に2個も3個もリンゴを食べる。リンゴに含まれる栄養素を調べると、カリウムが多い。リンゴ100グラム中に110ミリグラムも含まれている。弘前の人々は当然、多量のカリウムを摂取していることになる。
そのカリウムが食塩の害を抑えて、高血圧の発生を抑えているのではないか。これが当時、世界的な関心を集めた、弘前大学医学部・佐々木直亮教授のリンゴ説だった。この説をきっかけに、高血圧を予防したり治療したりする1つの手段として、ナトリウム(食塩の主要成分)とカリウムのバランスが世界中で問題にされるようになったのである。
では、実際にリンゴを食べると血圧は下がるのか。佐々木教授は38人を2つのグループに分け、10日間、一方にはリンゴを食べさせず、もう一方にはリンゴを好きなだけ食べさせた。すると、好きなだけリンゴを食べた人は明らかに血圧が下がったのである。なお、カリウムをたくさん含んでいる食品はリンゴだけではない。果物ではイチゴ、柿、ビワ、梨、ミカン。野菜ではキュウリ、キャベツ、大根、トマト、ナスなどに豊富に含まれている。
シイタケ水は“御利益”食品
続いてシイタケについて。シイタケには、次のような逸話がある。貞応2(1223)年、仏法の源流を訪ねて、24歳の若者が宋へ向かって船出した。彼は宋の天童山へのぼり、禅の修行をした。その時の話。
ある夏の暑い日、若者が昼食を終えて長い廊下を歩いていたとき、年老いた典座(食事などの生活の世話をする僧)が仏殿の前でシイタケを干していた。老典座は頭に蓑もかぶらず、灼熱の地面の上で汗だくになりながら、背骨を弓のように曲げて黙々とシイタケを干していた。若者は思わず尋ねた。
「なぜあなたのようなお年寄りが、そのような苦しい仕事をするのですか。もっと若い修行僧がいるではありませんか」
老人はきっぱりと言った。
「他はこれ吾にあらず」
他人にやらせても、その者は自分ではない、と言ったのである。
「何もこんな暑いときではなく、もっと日が陰ってからやったらいいじゃないですか」
「さらにいずれの時をか待つべき」
いまという時に行なわなかったら、いったいそんな時は来るのだろうか。老人は、さらに厳しくそう言った。
この老典座の言葉から若者はハッと悟った。いまこの時を大切にして、自分がしなければ自分は悟れないのだ、と。この若者がのちの曹洞宗の開祖・道元である。老典座がシイタケを干しているのを見て道元は悟りを開いたが、シイタケはそんな尊い機縁を生む、御利益のある食品なのかもしれない。
こんな実験がある。
生まれてしばらく経つと血圧が上がる特殊なネズミ(高血圧ラット)を2つのグループに分け、あるグループにはシイタケ水を、一方のグループにはただの水を飲ませて比較した。すると、水を飲ませたグループは18週目までに血圧が57ミリも上昇したのに対して、シイタケ水を飲ませたグループでは15ミリしか上がらなかった。民間療法として伝わっているシイタケ水は、天然の“降圧剤”として利用することができる。
シイタケ水は、次のようにしてつくって飲む。干しシイタケ(小さいものや薄いものなら2~3枚)をコップ1杯の水に漬けて、一晩おいて、翌朝飲む。これを毎日続けるだけ。実際、こんな簡単なことで、血圧が下がった人がたくさんいる。
残ったシイタケは料理に使って、食べるといい。干しシイタケを1日1枚食べると、ガン予防になるともいうから、まさにいいことずくめである。私たちも、道元のように干しシイタケを見て、健康法に悟りを開きたいものである。
著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)
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