ビジネスわかったランド (経営・社長)

医食同源

古代中国人が見つけた不老長寿の薬・野菜
古代中国人が見つけた不老長寿の薬・野菜
不老長寿は古代中国人たちの夢だった。3000年あまり昔、彼らは神仙という仙人になることで、夢を叶えようとした。そのため研究したのが呼吸法や体操法。現在、太極拳として残っているのがそれである。
一方、丹薬という不老長寿薬をつくろうと試みた人たちもいた。これはいまでいう錬金術師たちである。彼らは金を不変の象徴と考え、水銀や砒素を原料にして、金や不老長寿薬をつくろうとしたのだった。
砒素は最近の「和歌山カレー事件」でもご存知のように猛毒である。こんなものが体にいいわけがない。薬物書の古典として名高い『本草綱目』の著者・李時珍は、こうした丹薬は不老長寿薬どころか、命を縮める猛毒だと断罪している。
ところが、皮肉なことに丹薬は永遠の生命を得る妙薬として中国の貴族階級で重用されていたのだ。仙人になるための極意書ともいうべき『抱朴子』には、丹薬の成分とその製造法が記載されているが、この薬は明らかに水銀や砒素を含んだ猛毒である。お陰で、中国の皇帝たちはみな短命だった。唐の太宗は53歳で死んだが、憲宗は43歳、穆宗は30歳、敬宗は18歳という若さで亡くなっている。

野菜を食べれば成人病にかからない
では、中国人たちは本物の丹薬を見つけなかったのかというと、そうではない。神仙思想の影響を大きく受けている最古の医学書『神農本草経』では、最高の薬として食物を挙げ、先の『本草綱目』では日常、私たちが食べている野菜の薬効が事細かに整理されている。
驚いてはいけない。最近、さまざまな研究や調査から野菜をよく食べている人たちはガンや心筋梗塞、脳卒中にかかりにくいことがわかってきた。日本の国立がんセンターが行なった世界的に有名な疫学調査によると、野菜をよく食べる人のガンや心臓病、脳卒中などによる死亡率は、食べない人の死亡率より3分の1も低いのである。これは日本に限らず世界的な調査によっても確かめられている。
アメリカには面白い調査がある。寿命を短くする因子は、男性ではタバコ、肥満、飲酒などを抜いて独身が一番だというものだ。独身であれば外食が多くなり、その結果野菜がとれなくなる。と考えると、早死にしたとしても不思議ではないかもしれない。それほど野菜は人の健康を左右しているといってもいいのである。
では、なぜ野菜がすごいのか。ここで全部紹介することはできないが、医学や栄養学の世界でいま最も注目されていることをお話ししよう。
まず、野菜からは数々の抗酸化物質が見つかっている。それは、ガンや成人病、老化の元凶となる活性酸素(反応性の高い酸素分子)を撃退してくれる物質のことだ。病気や老化の根源のところで、活性酸素が暗躍していることがわかってから、老化予防物質として抗酸化物質が注目されるようになってきた。世界中の学者が、野菜のなかから新しい抗酸化物質を見つけることでしのぎを削っている。
また、野菜は白血球の働きを高めて、免疫を強化することもわかってきた。実は、これは非常に重要なことで、白血球は体のさまざまな機能を調整する働きをもつサイトカインという生理活性物質をつくる作用がある。つまり、白血球の働きが高まると、カゼに罹らないだけではなく、それこそ万病になりにくくなるのだ。
さらに、免疫と老化には密接な関係があることもわかってきている。このように野菜が寿命を伸ばすことを、中国人たちは3000年も前に知っていた。一方、私たちはいまになって野菜が“丹薬”であることに気づいたのである。

体によりいいのは生より煮て食べること
しかし、いくら野菜をとるのが重要であることがわかっても、生で食べたのではあまり意味がない。不老長寿食品として野菜を食べるのなら、煮て食べることである。
もともと日本でよく食べられてきたホウレンソウ、コマツナ、カボチャなどは、煮て食べなければ食べられないような野菜ばかりだった。実際のところ、煮て食べたほうが食べ方としては理に適っている。野菜の細胞の外側は、セルロース(食物繊維の一種で、水に溶けない性質をもつ)からできた頑丈な壁におおわれていて、人間の体中にはこれを消化する酵素がない。つまり、生野菜を食べても、細胞自体は姿を変えずにそのまま排泄されてしまうのである。
お皿に山盛りの生野菜を食べて、野菜をたくさん食べたつもりになっている人がよくいるが、その場合、食べた生野菜はいっさい消化吸収されず、そのまま出てしまうと考えていい。よく噛めばと思われるかもしれないが、よく噛んだところで大きな細胞の塊を小さくするくらいにしかできないので、肝心の栄養成分はほとんど外に出てこない。野菜の栄養的な価値は低下したままなのだ。
これに対して、野菜を煮るとどうなるか。まずそれぞれの細胞をつなげているペクチン(食物繊維の一種で、水に溶ける性質をもつ)が溶け出して、細胞がバラバラになる。さらに、細胞内のガスが加熱によって膨張し、セルロースの細胞壁が破裂して、栄養成分が外に出てくる。
煮た野菜には抗酸化物質の量が生野菜よりも100倍近くも多い、という報告すらある。これは、いうまでもなく煮た野菜からたくさんの抗酸化物質が出てくるからである。
強力な抗酸化物質として、よく知られているものにビタミンCがある。ビタミンCは熱に弱いことで有名だ。となると、加熱するとビタミンCがなくなってしまうことを心配する人がいるかもしれない。
たしかに加熱すると、野菜のビタミンCは減ってしまうが、すべてのビタミンCがなくなってしまうわけではない。それに、野菜を煮ると大量の水分が出て行き、その量はぐんと減ってしまう。結果的にはたくさんの野菜を食べることができ、むしろビタミンCもたくさん補給できるのだ。煮た野菜こそ、丹薬となるのである。

著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)