ビジネスわかったランド (経営・社長)

医食同源

香辛料(唐辛子・胡椒)の薬効を取り入れよう!
香辛料(唐辛子・胡椒)の薬効を取り入れよう!
江戸の薬研堀で寛永年間(1624~43年)、七味唐辛子が初めて売りに出された。考案したのは中島徳右衛門である。
唐辛子は関ヶ原の合戦(1600年)のころ、日本に伝わっていたが、強烈な辛味が日本人の舌には合わなかった。その唐辛子の強い辛味を徳左衛門は、胡麻、山淑、ケシの実、菜種、麻の実、陳皮(ミカンの皮)といった調味料を加えることによって抑えたのである。“七色唐辛子”ともいわれるように、調味料が混ざり合うことによって真っ赤な色も抑えられ、視覚的にも日本人が好む穏やかなものになったのだった。

唐辛子で成人病を撃退
「とんとん唐辛子、ヒリヒリ辛いが山淑の粉、スハスハ辛いが胡椒の粉……」
そう歌いながら、江戸の町々に七味唐辛子を売り歩く行商人まで現われた。辛いのが好きな人には唐辛子をたくさん入れ、ほどほどを好む人には胡麻や陳皮を多くする。七味唐辛子は好みに合った辛さをもっていた。
とはいえ、塩味を好む日本人に辛い味はあまり馴染まないようだ。実際、唐辛子を使った料理は日本食には多くない。七味唐辛子も、薬味としてうどんなどに加えるのが主流。だが、これは非常にもったいないことなのだ。後に詳しく紹介するが、胡椒を含めて香辛料のほとんどは生薬とされている。その薬効の素晴らしさは、いま次々と証明されているのである。
たとえば、唐辛子は塩分の摂取を抑制して、血圧を下げる作用のあることが動物実験で明らかになっている。
ネズミを2つのグループに分け、一方には普通のエサを、残りには唐辛子の成分であるカプサイシンを混ぜたエサを与える。飲み水として、蒸留水と濃度が1.4%、0.9%、0.5%の三種の塩水を用意する点は同じ。こうして8週間にわたって自由に飲ませてみた。
結果、普通のエサを与えたネズミは1.4%の塩水を最も好み、8週間で摂取した塩分の量は体重100グラム当たり平均7グラムだった。対して、カプサイシン入りのエサを食べたほうは1.4%の塩水を嫌い、摂取塩分量も体重100グラム当たり平均5グラムに止まった。
カプサイシンは味覚に影響を与え、塩味に対して敏感にさせる働きがある、と考えられている。このほか、カプサイシンには動脈硬化を防いだり、脂肪を効率よく燃焼させて、肥満を予防する働きのあることなどが突き止められている。
塩分をたくさん取ると、血圧が上昇する。血圧が上がると動脈硬化が促進される。加えて、肥満になると血圧がさらに上昇して、動脈硬化が一段と進む。心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす確率がさらに高まるのだ。カプサイシンはこの連鎖を断ち切ってくれる“妙薬”。高血圧、動脈硬化、肥満という成人病(生活習慣病)の三大因子を一網打尽にしてくれるのだ。
ただし、体にいいといって取り過ぎ、食べ過ぎはやはりよくない。昔から肩こりの強いときは鷹の爪を1つこっている部分に当てた。また、冷え性や足が疲れているときには、鷹の爪を土踏まずに当てたものだった。カプサイシンには血行を促進する働きがあるからだが、このときもヒリヒリするようならすぐに外したことだろう。口にする場合も、同じことである。

胃腸の病に胡椒は効果てきめん
もう1つ、胡椒についてもぜひ記しておきたいことがある。
同じ香辛料でも、胡椒はむしろ西洋料理に使うイメージが強い。ところが、江戸の初めのころはうどんの薬味といえば、七味唐辛子ではなく胡椒と決まっていた。近松門左衛門の『大経師昔暦』にも「本妻の悋気とうどんには胡椒はお定まり」という文句が見られる。
うどんに使うくらいなので、胡椒はそれほど高価な品ではなかったと思われる。だが、調味料としては重要視されず、唐辛子と同じく、日本食にはあまり使われていない。
胡椒の原産国はインドだ。中世のヨーロッパ人がこれを求めて、大西洋、インド洋を命懸けで渡ってきたことはよく知られている。役人の給与が胡椒で支払われたり、同じ目方の銀と胡椒が同価だった時期もあった。
それはさておき、インドで胡椒はもともと薬として使われていた。8世紀に日本に伝わったときも、腹痛、下痢、暑気当たりなどに効くと、その効能がいわれていた。日本では食欲増進、健胃剤としての効果もよく知られている。実際、胡椒の辛味成分であるピペリンには、胃液の分泌を促進したり、腸の働きを高める作用がある。
中国でも古くから胡椒は漢方生薬として使われ、こちらは解熱、筋肉のこりを除く作用があり、風邪の初期などに料理に用いるといい、とされている。胃腸を温め、その働きを整える、とくに冷えによる消化不良に効果がある、ともいわれている。
いうまでもなく冬から春先にかけては体を冷し、体調を崩しやすい季節だ。その時期、腹痛や消化不良を訴えたら、次の方法を試していただきたい。これは胡椒を使った、中国伝来の健胃法である。
まずお腹が冷えて痛むときは、大棗(干したナツメ)7個の中にそれぞれ胡椒を7粒ずつ入れ、糸で縛ってよく蒸す。これをよく突いて、小豆大に丸め一度に7個飲むと、じきに痛みは治まる。冷えて腹痛があり吐き気をもよおすときには、漢方薬の一種である干したショウガ30グラムを少し蒸し焼きにして切り、胡椒1グラムを加えて2カツプの水で半量になるまで煎じたものを飲むといい。
もちろん、胡椒をうどんに入れるだけでも十分、ちゃんとお腹は温まる。

著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)