ビジネスわかったランド (経営・社長)

医食同源

自然塩と黒砂糖で夏の疲れと成人病を吹き飛ばせ
自然塩と黒砂糖で夏の疲れと成人病を吹き飛ばせ
元禄15(1702)年12月14日、赤穂浪士47名が江戸・本所松坂町の吉良邸へ討ち入った。間もなく、歌舞伎でこの事件を脚色して演じたところ、大評判となる。ご存じ『忠臣蔵』で、この芝居を演ずると必ず大当たりを取るといわれるほどの名作である。
『忠臣蔵』では、吉良上野介は悪人として描かれているが、実際の上野介はかなりの名君だったようだ。堤防を築いたり、用水を設けたり、新しい田地を拓くなど、領地の農民からの人気は高かった。
そんな上野介と浅野内匠頭との間で起きた不和の本当の原因は、塩だったという説がある。赤穂の塩は、当時から味のいい塩として有名だった。上野介は自分の領地でも塩をつくろうと考え、製塩の秘伝を教えてくれと内匠頭に頼んだところ、すげなく断わられたのだという。

塩の害を防ぐには野菜・果物を取ること
いまでは、上野介と同様に塩も健康をおびやかす敵とされ、すっかり悪者扱いである。しかし、塩の主成分であるナトリウムは、私たちの生命活動にはなくてはならないものだ。
ナトリウムの代表的な働きは、細胞の浸透圧を調整することにある。水はナトリウムの濃度の低いほうから高いほうへと流れていく。この濃度差によって、細胞の栄養素の取り込みも行なわれている。そのため、塩分が極端に不足してしまうと、倦怠感、食欲不振、イライラ、無気力などの症状が現われる。
もちろん、ナトリウムの取り過ぎは血圧を上げるのでよくない。かといって、現代の日本人の食生活で減塩食を実行するほど難しいことはないだろう。私たちの周りには、塩分が含まれている食品があまりにも多いからだ。たとえば、焼き竹輪一本に3グラム、プレスハム5枚で3.3グラムといった具合に、加工食品には相当量の塩分が含まれている。
塩を減らすことばかり考えていると、食生活が全体的に味気ないものになってしまうだろう。ではどうすればいいか。
豊かな食生活を求めるなら、減塩と同時にナトリウムの害を帳消しにしてくれる、カリウムを一緒に取ることである。カリウムは野菜や果物に多く含まれている。それともう1つ、自然塩に変えてはどうか。現在、私たちが一般に取っている塩は、赤穂浪士たちのころの塩とはだいぶ違ってきているのだ。
江戸時代の塩は、塩田で自然な方法でつくられたものだった。この塩には、ナトリウム以外にカリウム、マグネシウム、カルシウムなどが微量ではあるが含まれていた。対して、現在の塩はイオン交換樹脂膜法という方法で、99%ナトリウムの化学塩になってしまっている。
最近、赤穂の塩などの自然塩がブームになっているが、こうした昔ながらの方法でつくられた塩は、ミネラルも豊富で健康によく、しかも味もいいのだ。

黒砂糖は成人病を防ぐ!?
一方、砂糖はどうか。
砂糖は塩に比べて日本人にはもともとなじみの薄い食品だった。江戸時代の初期、砂糖はすべて輸入品。元となる砂糖キビが、日本には存在しなかったからである。
そのため、砂糖の値段はべらぼうに高かった。江戸後期にはかなり値が下がったとはいえ、600グラムで200~300文もしたという。当時の職人の日収が300~400文だったから、いかに高かったかがわかるだろう。こんな川柳もある。
咽ばかり かわく伊勢屋の柏餅
江戸時代には、柏餅を自分の家でつくった。伊勢屋では砂糖を節約して塩を使って、塩あんの柏餅をつくったが、それが塩辛くて咽が乾くという意味だ。
値が高ければ、当然砂糖の消費は抑えられてしまう。ところが、19世紀の初めに日本は砂糖の自給に成功し、20世紀になると値段はさらに下がって、消費量が爆発的に増えた。輸入量も激増し、現在では4人家族で1年間に100キログラム以上を消費している。スーパーで売られている1キログラム詰めの砂糖が、100袋も家の中にあるところを想像すると、その量の多さに驚くに違いない。
江戸時代には、上等な白砂糖は「唐三盆」と呼ばれ、薬屋で販売されるほど大切にされていた。だが、時代は変わった。いまやその取り過ぎの害が懸念されている。
砂糖は、ブドウ糖と果糖という成分が結合したものだ。これはでんぷんなどの糖と違って、体内で簡単にその結合が切れて、すぐにエネルギーに変えることができる。そのため、取り過ぎると肥満の原因になる。動脈硬化、高血圧、糖尿病なども引き起こす。
しかし、一方で面白い報告もある。黒砂糖をよく取る沖縄には、高血圧などの成人病が少なく、日本一長寿者が多いのだ。
黒砂糖も砂糖キビを原料としてつくられる。が、白砂糖は精製されているために、砂糖キビのもつ香り、色、味がなくなってしまうばかりか、砂糖以外の成分が取り除かれている。一方、黒砂糖はほとんど精製していないので、カルシウムは白砂糖の240倍、カリウムは1000倍も含まれているのだ。
もう1つ、注目すべき研究がある。黒砂糖の褐色の部分には、黒糖オリゴと呼ばれる有効成分が含まれていることがわかってきた。この黒糖オリゴには、ブドウ糖の吸収を抑えて、肥満を防ぐ働きがある。もちろん、黒砂糖といえども取り過ぎれば肥満の元になり、成人病を促進するが、適度に取るなら、黒砂糖は肥満や成人病を防ぐ「甘い薬」になるのだ。
沖縄では「白糖は命を縮め、黒糖は命を長らえる」といわれてきたのも納得できる。

著者
堀田 宗路(医療ジャーナリスト)