ビジネスわかったランド (経営・社長)
健康Q&A
朝ボーッとするのはなぜ?
朝食抜きが脳不活性の原因
ビジネスマンの間で、栄養ドリンクが爆発的に売れています。疲れたときに飲むとよく効くといわれ、実際、栄養ドリンクはみな精力増強や疲労回復を効用にうたっていますが、その成分と照らし合わせてみると、本当に効果があるのかどうかは疑わしい。それでも、飲むと何となく元気が出るような気分になるのは、どうしてなのでしょう。
暗示効果のためと思う人は多いでしょう。が、実は栄養ドリンクには“脳が元気になる”科学的な裏づけがあるのです。
その効果の秘密は栄養ドリンクの“甘さ”にあります。たいていの栄養ドリンクには甘味がありますが、その甘さの主成分はブドウ糖。このブドウ糖こそ、脳が働くのに欠かせないエネルギー源であり、これが不足すると頭を働かそうにも働かなくなってしまいます。
ブドウ糖の摂取で脳の活力は増す
人間が生きていくには、ブドウ糖が欠かせません。とりわけ脳はブドウ糖をたくさん消費します。体重比でいうと体全体の2%でしかない脳が、エネルギー消費量では体全体の18%も占めている。体重比で52%を占める皮膚と筋肉でも、エネルギーでは25%しか消費していませんから、どれだけ脳が大食漢かおわかりいただけることでしよう。
脳にとってブドウ糖がいかに大切であるかは、いくつかの実験によって明らかにされています。1950年にアメリカのハーペンという人が、学童に朝から昼まで45分おきに10グラムのブドウ糖を与える実験を試みました。そのうえで、算数の試験をしてみたところ、正解率が大きく上昇したといいます。
これを機に、ブドウ糖と脳の関連についてのさまざまな研究が行なわれるようになり、ブドウ糖を摂ると脳が目覚めたり、注意力が増すことがわかってきました。また、創造的な仕事をするときに最も適したα波が、ブドウ糖摂取後に増えることも明らかになってきました。
自動車のスピードの出し過ぎによる事故が、ブドウ糖を摂ることで予防できることを立証した実験もあります。時速70キロメートルまでならブドウ糖を摂った人、摂らなかった人ともに、運転ミスが0.5件前後で変わりません。ところが、時速70キロメートルを超えると、ブドウ糖を摂らない人の運転ミスの頻度は急に増えてきます。
この実験をふまえて、大手宅配便の運送会社では、東京―大阪間などの長距離トラック運転手には、ブドウ糖を摂取するためのマニュアルが義務づけられているようです。
空腹のまま運転をしない、あるいは休息時にはドリンク剤を飲むようにする、といったことで脳の注意力が増し、安全運転ができるようになるわけです。ビジネスマンが疲れたときに栄養ドリンク剤を飲むのも、これと同じ理由と考えられます。
とはいえ、甘いものを飲んだり食べたりするだけが、ブドウ糖を摂る方法ではありません。パンや米を食べるだけでもブドウ糖は摂取できます。米やパン自体にブドウ糖は含まれていなくても、体内の酵素によってブドウ糖に分解されるのです。栄養ドリンクの代わりに、おにぎりやサンドイッチでもブドウ糖を補給するには十分です。
もちろん、栄養ドリンクの類を飲んでもかまいませんが、それ以前に忙しいから、あるいは食べるのが面倒だからといって、朝食をろくに摂らないような生活をしていることのほうが問題なのです。
睡眠中もブドウ糖は消費されている
ビジネスマンのなかには、「午前中はボーッとしていて、昼食を摂った昼過ぎからバリバリと仕事をする」ような人がいるようです。こうした人は「寝起きが悪いので、午前中は頭が回らない」などと思い込んでいるようですが、人間の頭が朝に弱いというのは俗説に過ぎません。朝が弱いという人は朝食を摂らないために脳の働きが低下していることが多いのです。
すでにお話ししたように脳はエネルギーの大食漢です。この大食漢ぶりは起きている間だけではなく、眠っている間も同じです。体が眠っているからといって、脳も眠っているわけではありません。睡眠中も脳は大量のブドウ糖を消費し続けています。脳にとって、睡眠というのも立派な活動の1つで、脳細胞にいろいろな養分を送っている。脳が睡眠中に活動しなかったら、いざ起きて脳にエンジンをかけようとしても、本当にエンジンがかからなくなってしまうことでしょう。
脳が睡眠中にどのくらいブドウ糖を消費するかというと、8時間ぐっすりと眠った場合、約40グラムとされています。肝臓にグリコーゲンとして蓄えられているブドウ糖はせいぜい55グラム程度。ということは、眠っている間は何も食べずにブドウ糖を消費するのですから、8時間眠ったあとの脳は、ブドウ糖が欠乏した一種の飢餓状態にあります。
朝起きたときに頭がすぐに回転しないのは、このブドウ糖不足のためです。したがって、朝はブドウ糖を補ってあげるのが大切なのです。
朝、頭がぼんやりしていると感じるのは、朝食を摂らないからとみて間違いないでしょう。昼食を摂ってから頭が動き出すというのも、裏を返せば「朝食抜き」をしている証拠です。
ただ、気をつけていただきたいのは、一時的に大食をしても脳の血糖値(血液中のブドウ糖の量)は上がらないという点。つまり、脳内の血糖値を一定に保つことが大切です。脳内のブドウ糖が常に豊富な一定量であれば、頭は常によく働く状態にあるといえます。そのためには、食事を抜いたりまとめ食いをすることを避け、1日3度の食事をきちんと摂ることです。
不規則な食事をしていると、かえってドカ食いをして、肥満の原因になります。規則正しく食事をすることは、脳にとっても生活習慣病の予防にとっても重要なことなのです。
著者
大島 清(京都大学名誉教授)
ビジネスマンの間で、栄養ドリンクが爆発的に売れています。疲れたときに飲むとよく効くといわれ、実際、栄養ドリンクはみな精力増強や疲労回復を効用にうたっていますが、その成分と照らし合わせてみると、本当に効果があるのかどうかは疑わしい。それでも、飲むと何となく元気が出るような気分になるのは、どうしてなのでしょう。
暗示効果のためと思う人は多いでしょう。が、実は栄養ドリンクには“脳が元気になる”科学的な裏づけがあるのです。
その効果の秘密は栄養ドリンクの“甘さ”にあります。たいていの栄養ドリンクには甘味がありますが、その甘さの主成分はブドウ糖。このブドウ糖こそ、脳が働くのに欠かせないエネルギー源であり、これが不足すると頭を働かそうにも働かなくなってしまいます。
ブドウ糖の摂取で脳の活力は増す
人間が生きていくには、ブドウ糖が欠かせません。とりわけ脳はブドウ糖をたくさん消費します。体重比でいうと体全体の2%でしかない脳が、エネルギー消費量では体全体の18%も占めている。体重比で52%を占める皮膚と筋肉でも、エネルギーでは25%しか消費していませんから、どれだけ脳が大食漢かおわかりいただけることでしよう。
脳にとってブドウ糖がいかに大切であるかは、いくつかの実験によって明らかにされています。1950年にアメリカのハーペンという人が、学童に朝から昼まで45分おきに10グラムのブドウ糖を与える実験を試みました。そのうえで、算数の試験をしてみたところ、正解率が大きく上昇したといいます。
これを機に、ブドウ糖と脳の関連についてのさまざまな研究が行なわれるようになり、ブドウ糖を摂ると脳が目覚めたり、注意力が増すことがわかってきました。また、創造的な仕事をするときに最も適したα波が、ブドウ糖摂取後に増えることも明らかになってきました。
自動車のスピードの出し過ぎによる事故が、ブドウ糖を摂ることで予防できることを立証した実験もあります。時速70キロメートルまでならブドウ糖を摂った人、摂らなかった人ともに、運転ミスが0.5件前後で変わりません。ところが、時速70キロメートルを超えると、ブドウ糖を摂らない人の運転ミスの頻度は急に増えてきます。
この実験をふまえて、大手宅配便の運送会社では、東京―大阪間などの長距離トラック運転手には、ブドウ糖を摂取するためのマニュアルが義務づけられているようです。
空腹のまま運転をしない、あるいは休息時にはドリンク剤を飲むようにする、といったことで脳の注意力が増し、安全運転ができるようになるわけです。ビジネスマンが疲れたときに栄養ドリンク剤を飲むのも、これと同じ理由と考えられます。
とはいえ、甘いものを飲んだり食べたりするだけが、ブドウ糖を摂る方法ではありません。パンや米を食べるだけでもブドウ糖は摂取できます。米やパン自体にブドウ糖は含まれていなくても、体内の酵素によってブドウ糖に分解されるのです。栄養ドリンクの代わりに、おにぎりやサンドイッチでもブドウ糖を補給するには十分です。
もちろん、栄養ドリンクの類を飲んでもかまいませんが、それ以前に忙しいから、あるいは食べるのが面倒だからといって、朝食をろくに摂らないような生活をしていることのほうが問題なのです。
睡眠中もブドウ糖は消費されている
ビジネスマンのなかには、「午前中はボーッとしていて、昼食を摂った昼過ぎからバリバリと仕事をする」ような人がいるようです。こうした人は「寝起きが悪いので、午前中は頭が回らない」などと思い込んでいるようですが、人間の頭が朝に弱いというのは俗説に過ぎません。朝が弱いという人は朝食を摂らないために脳の働きが低下していることが多いのです。
すでにお話ししたように脳はエネルギーの大食漢です。この大食漢ぶりは起きている間だけではなく、眠っている間も同じです。体が眠っているからといって、脳も眠っているわけではありません。睡眠中も脳は大量のブドウ糖を消費し続けています。脳にとって、睡眠というのも立派な活動の1つで、脳細胞にいろいろな養分を送っている。脳が睡眠中に活動しなかったら、いざ起きて脳にエンジンをかけようとしても、本当にエンジンがかからなくなってしまうことでしょう。
脳が睡眠中にどのくらいブドウ糖を消費するかというと、8時間ぐっすりと眠った場合、約40グラムとされています。肝臓にグリコーゲンとして蓄えられているブドウ糖はせいぜい55グラム程度。ということは、眠っている間は何も食べずにブドウ糖を消費するのですから、8時間眠ったあとの脳は、ブドウ糖が欠乏した一種の飢餓状態にあります。
朝起きたときに頭がすぐに回転しないのは、このブドウ糖不足のためです。したがって、朝はブドウ糖を補ってあげるのが大切なのです。
朝、頭がぼんやりしていると感じるのは、朝食を摂らないからとみて間違いないでしょう。昼食を摂ってから頭が動き出すというのも、裏を返せば「朝食抜き」をしている証拠です。
ただ、気をつけていただきたいのは、一時的に大食をしても脳の血糖値(血液中のブドウ糖の量)は上がらないという点。つまり、脳内の血糖値を一定に保つことが大切です。脳内のブドウ糖が常に豊富な一定量であれば、頭は常によく働く状態にあるといえます。そのためには、食事を抜いたりまとめ食いをすることを避け、1日3度の食事をきちんと摂ることです。
不規則な食事をしていると、かえってドカ食いをして、肥満の原因になります。規則正しく食事をすることは、脳にとっても生活習慣病の予防にとっても重要なことなのです。
著者
大島 清(京都大学名誉教授)
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