ビジネスわかったランド (経営・社長)

健康Q&A

微小脳梗塞の正体は?
痴呆症の原因の可能性もあり
私たち脳の専門医は、脳のことなら手に取るようにわかっている、と思われているかもしれません。しかし、実際は違います。脳の専門医ですら、いまだに脳の中でどのようなことが起こっているのかを正確につかむことができないでいます。
脳は、硬い頭蓋骨でおおわれています。そのため、普通のレントゲンでは詳しい状態はわかりません。かといって、むやみやたらに頭蓋骨を開けることもできない。
脳は本当になぞだらけなのです。

50代でも3人に1人に微小脳梗塞が見つかる
一般にもよく知られている、レントゲンとコンピュータを組み合わせたCTスキャン(コンピュータ断層撮影)が、こうした問題を解決した画期的な装置・方法でした。ただ、これにも限界がありました。ですから、80年代に入ってからのMRI(磁気共鳴断層撮影)という、磁気を利用した新しい検査機器の登場は、まさに衝撃的な出来事だったのです。
MRIを使えば、いままで考えられなかったくらい脳の中を詳細に見ることができます。いままでわからなかったことも、明らかになってきました。
なかでも、注目を集めたのはご質問の微小脳梗塞です。精度の高いMRIで脳の中をのぞいてみると、これまで見過ごされてきた、非常に小さい、わずか数ミリしかないような脳梗塞が続々と見つかるようになってきました。
脳梗塞というと、片マヒ、あるいは失語症といった症状を思い浮かべるかもしれませんが、微小脳梗塞は何の異常もないと思われる、元気な人たちからも見つかります。しかも、年をとるにつれて増えていきます。30代で5%、40代で18%、50代で38%、60代で55%、70代で71%から見つかっているという報告もあります。つまり、50代で3人に1人、60代で2人に1人、70代で3人に2人以上の人が、それに罹かっているのです。
正直なところ、微小脳梗塞が私たちの体にどのような意味をもっているのか、現時点ではまだよくわかりません。微小脳梗塞という名前自体も、まだきちんとした定義のもとにつけられたものでもないのです。
さらにいうなら、最新鋭のMRIですら、その姿を完璧にとらえているわけではない。脳の神経細胞に起こる脱髄性変化という、神経細胞を包んでいるサヤが取れる現象があります。MRIで見ると、この脱髄性変化と微小脳梗塞は同じように映るのです。
微小脳梗塞についての理解を深めるためには、今後、MRI以上の精度をもつ検査機器の登場が待たれます。また、その正体をつかむためにはもっと多くの時間が必要でしょう。
研究はまだスタートしたばかりといえます。
とはいえ、現実の医療現場では、この“新しい病気”の正体が完全にわかるまで、手をこまねいて見ているわけにはいきません。微小脳梗塞をそのままにしておくと、その数が増え、将来的に本格的な脳梗塞を起こす危険性も指摘されています。
また、痴呆の原因は、脳の血管障害による脳血管性痴呆と、原因不明のアルツハイマー病とに大別できますが、このうち脳血管性痴呆は、この微小脳梗塞の“なれの果て”と考えられるからです。
微小脳梗塞が見つかった場合、やはり注意信号が点滅している状態と考えたほうがいいでしよう。
もっとも、微小脳梗塞がいくつか見つかっても、体のほうはいたって元気という人がほとんどです。微小脳梗塞は、またの名を無症候性脳梗塞ともいい、それがあったからといって、特別な症状があるわけではない。そのため、脳ドックなどで発見されても、最初はショックを受けるかもしれませんが、そのうち症状がないために油断をしてしまう人が少なくありません。
しかし、微小脳梗塞の多発によってのちに本格的な脳梗塞が引き起こされたら、取り返しのつかないことになってしまいます。脳梗塞によって一度死んでしまった神経細胞は、決して元には戻りません。
やはり打つべき手は打っておくべきです。

最大の危険要因は高血圧
では、具体的にはどのような方法があるのか。まず、どんな人に微小脳梗塞があるのかということから考えてみましょう。
中高年で高血圧、糖尿病、動脈硬化、喫煙、飲酒、ストレスなどがある人では、微小脳梗塞があると思って間違いありません。なかでも注意をしなければならないのは高血圧。ある研究で、頭部のMRI検査を行ない、微小脳梗塞が見つかった群と、見つからなかった群とに分け、それぞれどのくらい高血圧の患者が含まれているかを検討しました。その結果、前者では高血圧の患者が30%にすぎなかったのに、後者では68%という数値になりました。
こうしたことからも、高血圧が微小脳梗塞の最も重大な危険要因であるといわれています。
患者さんのなかには、降圧剤をできるだけ飲まずにすませたいという人が時々います。こっそり降圧剤を飲むのをやめてしまう人もいます。しかし、そうしている間に、微小脳梗塞が進んでいる可能性があります。必要があって用いている降圧剤はきちんと飲むことが大切です。
現在、降圧剤を服用していない人でも、血圧が高めになったら、上手に血圧をコントロールするようにしてください。そのためには、以下のことを守ってください。
(1)塩分をとりすぎないようにする
(2)肥満を防ぐ
(3)適度な運動をする(毎日30分~50分の速足歩きなど)
(4)睡眠時間を十分に取る
(5)ストレスをためない
高血圧のコントロールは本格的な脳梗塞や脳出血の予防にもなります。その意味でも、血圧のコントロールは中高年の人には欠かせません。

著者
安部 聡(元東京慈恵医大付属青戸病院脳神経外科医長)