ビジネスわかったランド (経営・社長)

健康Q&A

高血圧の治療はいつから?
自覚症状なしでも積極的に
高血圧がひどくなると、さまざまな症状が出ると思っている方がたくさんいるようです。とくに、軽症の高血圧の場合、自覚症状が出てきたら治療をすればよいと考えている人が多い。しかし、高血圧には特有の自覚症状はないのです。そのことをまず知っておいてください。
よく言われているのは、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、手足のしびれなどですが、実はこうした症状は低血圧の人の訴えでもあります。これらの症状を訴えている人を血圧別に調べてみると、血圧が正常な人も高い人も同じようなパーセンテージで現われるという結果が出ています。したがって、高血圧に特有の自覚症状はないと考えたほうが正しいのです。

自覚症状なしでも病状は進行する
一般に血圧の高い人は、血圧が正常な人や低めの人に比べ活動的で、仕事も人の何倍もこなす有能な存在といった場合が多いようです。無理も利くし、疲れを知らない体力ももっています。ところが、ここに落とし穴がある。昨日まで元気に働いていたのに、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞で倒れるという、傷ましい出来事が起こるのです。
これはまさに会社の倒産に似ていて、端で見ている人には驚きそのものでしょう。
もっとも、会社も人間も診断をきちんと受けて、打つべき手を打っておけば、悲劇は防ぐことができたはず。高血圧についても、何ら自覚症状がなくても体の中では嵐のような現象が起きています。血圧が高いと指摘されたら、とにかく大変なことだと理解して、治療をきちんと受けてください。
もし、治療もしないで高血圧をそのまま放っておくと、動脈の傷つき方が早くなり、脳卒中や心筋梗塞にかかりやすくなります。この動脈系の傷みは全身に一様に起こるわけではありません。高血圧以外の因子との関係で、傷みやすい部位はそれぞれ違っていますが、生命を脅かす動脈の傷みという意味では、脳と心臓、腎臓になるでしょう。高い血圧を放置しておいて、これらの臓器に影響が出ると大変な結果になるのです。
いずれにしろ、血圧を下げると、心不全、脳卒中、腎臓障害は見事に予防されるのですが、みなさんのなかに、こんな話を聞いた人はないでしょうか。欧米では、血圧を下げても心筋梗塞や急性心臓死は思ったほど減らないといわれている、と。
これには、それなりの理由があります。心筋梗塞などは高血圧以外に発病を進める因子がたくさん関係しているため、とくに栄養過多でコレステロール値が高かったり、糖尿病が多い欧米では、血圧を下げただけでは焼け石に水。予防に劇的効果はないのです。
しかし、日本では大きく事情が違っており、現時点の日本人はコレステロール値も血糖値も欧米並みに達していない。つまり、血圧を下げる効果はそれだけ大きいということです。この点については、「日本人に生まれてよかった」ということがいえるでしよう。
 欧米では、最小血圧が90~114ミリという場合、治療しないでいると、5年間で55%も脳や心臓の病気が発生すると報告されています。しかし、きちんと治療をしていると、18%にまで抑えることができるという調査結果も出ている。日本人についての調査でも、治療を続けている人は脳や心臓の事故を起こしにくくなることがわかっています。軽症であっても血圧の治療を受けることは、賢明なことなのです。

勝手な治療の中断はトラブルのもと
高血圧の治療には、降圧剤を使って積極的に血圧を下げる場合と、降圧剤は便わずに食事や生活習慣の改善(食塩制限および運動、肥満の解消)といった一般療法で下げる場合があります。
血圧がそれほど高くないケースであれば、降圧剤を使わず、一般療法だけで治療するのがふつうですが、血圧がある程度の高さを超えれば、一般療法に加え降圧剤も使用しなければなりません。
たとえば、最大血圧が240ミリ以上とか最小血圧が130ミリ以上と重症の高血圧では、積極的な降圧剤治療が必要になります。最大血圧が180~220ミリ、最小血圧が110~130ミリの中等症の高血圧でも、脳梗塞や心筋梗塞の急性期を除いては、積極的な降圧剤治療が行なわれます。
議論が分かれるのは、最大血圧が150~160ミリそこそこで、最小血圧が90~100ミリそこそこという軽症高血圧(ご質問者のケース)。このようなときには、正直なところ、ケースバイケースということになるでしょう。
ごく大雑把にいえば、脳卒中や心筋梗塞の遺伝的訴因をもっていたり(両親が脳卒中や心筋梗塞になったことがある)、高血圧によって重要臓器に障害を受けている場合は、一般療法だけで血圧を下げるのは難しいので、降圧剤を使うことになります。しかし、そうした要素がなく、ふだん食塩を取りすぎる生活習慣だったり、ひどく太っている場合は、これらを是正するだけで血圧は下がるはずですから、一般療法のみの対象となります。
どのケースに当てはまるかは、医師と十分相談して決めてください。
高血圧の治療で、もう一つ大切なことは、自分勝手に降圧剤を飲むのをやめてはいけないということです。自分勝手に治療を中断してしまうと、かえって脳や心臓にトラブルが起こりやすくなります。
実をいうと、高血圧の治療をまったく受けなかった人より、降圧剤の服用を途中でやめてしまった人たちのほうが、トラブルが起こりやすいことがわかっているのです。
とにかく、高血圧を指摘されたら、必ず治療を受けること。同時に、その治療を長期にわたって続けていくのが大切だということを忘れてはいけません。

著者
渡辺 孝(老年病研究所所長)