ビジネスわかったランド (経営・社長)
健康Q&A
倦怠感が続いている
心身両面から治療する
自律神経失調症というと、何か得体の知れない病気のようなイメージがありますが、実はそれほど珍しくはありません。中高年の男性なら、それに近いものはすでに経験しているはずです。
たとえば、徹夜した日の朝のことを考えてみてください。普段なら一気に駆け上がることができる階段でも息切れがしたり、動悸がしたりする。こういうときは、体調が妙にすぐれないもので、胃がもたれて食が進まなかったり、体が重く感じられることもあるでしょう。
これらは、いわば一時的な自律神経失調症といえます。わかりやすくいえば、こんな状態が毎日、慢性的に続いているのが自律神経失調症なのです。
精神的・肉体的に疲れた状態
私たちの体は、外部環境に適応するために一定の体温や血圧を維持し、心臓を休みなく動かしながら生命活動を続けています。こうした活動ができるのは、ホメオスターシス(生体の機能を恒常的に維持する働き)という力が作用しているからで、このホメオスターシスを保つために全身をコントロールしているのが自律神経なのです。
自律神経には、交感神経と副交感神経の2つがあります。このうち、交感神経は「活動する神経」といわれ、仕事や運動をするときに心臓の拍動を速め血圧を高めたり、精神活動を活発にさせます。一方、副交感神経は「休む神経」といわれ、睡眠、休息などを取るときに働きます。体をスムーズに働かせるために、いつも2つの神経がお互いにリズムを取りあって働いているのです。
つまり、このリズムが乱れて体にさまざまな変調が起こるのが自律神経失調症。「よく眠れない」「動悸が激しい」「体がだるい」「手が震える」「食欲がない」「頭痛がする」「めまいがする」「微熱が続く」など実に多彩な症状を訴えます。
自律神経の働きを乱す一番の犯人はストレスです。もちろん、ストレスも軽いうちなら、比較的ラクに処理ができます。しかし、それが過度に長く続くと、精神的にも肉体的にも疲労困憊の状態に陥り、ホメオスターシスが崩れて体のリズムの異常となって現われてくる。
ただしストレスがあっても、すべての人が自律神経失調症になるわけではありません。ストレスを溜め込みやすい、次のような性格の人が要注意です。
(1)過剰に努力してしまう人
適当なところで妥協することができない人で、正義感や責任感も強く努力家です。人からも評価されていて、その期待にこたえようと無理をし、ストレスを溜め込んでしまいます。
(2)過敏に反応してしまう人
何事にも過敏で、いつも心配の種が尽きない人です。
(3)落ち込みやすい人
しばしば「気分が沈んですぐれない」「ときどき死にたくなる」といった抑うつタイプの人もストレスを溜め込んで、自律神経失調症に陥りやすい。
自律神経失調症は、“弱々しい人”が罹りやすい、“弱々しい人”だけがなる、と思われているようですが、実はそうではありません。むしろ(1)のような“強い人”のほうが、少しぐらい症状があってもがまんをしてしまうので、より重症になりやすいものなのです。
心療内科の受診がベスト
自律神経失調症のような多彩な症状が出てくると、その症状によって内科や整形外科、耳鼻科、婦人科などの一般科を受診する人が多いようですが、検査を受けてもこれといった異常が見つからず、「気のせいですよ」と言われたり、「低血圧」「更年期障害」「慢性胃炎」などの病名がつけられてしまうことがしばしばです。しかも、熱心に病院に通ってもよくならないためにドクターショッピング(何回も医師を変えること)になりがちです。
ご質問のように一般科を受診しても原因が見つからない場合や、自律神経失調症という診断名はつけられたものの症状が改善しない場合には、心療内科を受診してください。心療内科は心身症などストレス関連疾患を守備範囲にしている科で、薬剤による治療法と並行して、ストレスの軽減やリラックスのための心理療法や生活指導も行ないます。
心療内科では、自律神経失調症を次の4つのタイプに分けて治療しています。
(1)本態性自律神経失調症
生まれつき自律神経が弱かったり、体力に自信のない人によくみられるタイプ。
(2)神経症型自律神経失調症
体に異常はなく、自律神経の機能も損なわれていないのに不安や恐怖などの精神症状が強いのが、このタイプの特徴。
(3)心身症型自律神経失調症
日常生活の心身のストレスから起こるもので、症状の出方、重さも、ストレスの程度によってまちまちです。
(4)抑うつ型自律神経失調症
ストレスが常に蓄積してうつ状態となり、不眠、胃腸の痛み、食欲不振、全身倦怠感、微熱、筋肉痛などさまざまな症状を訴えるタイプ。
これらのうち、最も多いのは(3)の心身症型自律神経失調症です。治療はタイプによって多少変わってきますが、ここでは心身症型に絞って治療内容を簡単に紹介しておきましょう。
心身症型自律神経失調症では、まず心身両面の治療が必要になります。それぞれの症状に合わせた薬(精神安定剤、自律神経調整薬、抗うつ薬、漢方薬など)を投与して症状が安定してきたら、意識や行動の変化を促すためにカウンセリング(面接により問題解決へのプロセスを援助)を行ないます。また、交流分析(性格のゆがみや人間関係のまずさから生じるストレスの修正)も実施します。
食事、睡眠、運動など、日常生活の改善も必要になります。なかでも食事は、家族や友人と楽しく、おいしく食べることが大切です。なお、心療内科を受診されるには、現在治療を受けている科の先生とよく相談をし、紹介状を書いてもらうのが理想的でしょう。
著者
村上 正人(日本大学板橋病院心療内科医長)
自律神経失調症というと、何か得体の知れない病気のようなイメージがありますが、実はそれほど珍しくはありません。中高年の男性なら、それに近いものはすでに経験しているはずです。
たとえば、徹夜した日の朝のことを考えてみてください。普段なら一気に駆け上がることができる階段でも息切れがしたり、動悸がしたりする。こういうときは、体調が妙にすぐれないもので、胃がもたれて食が進まなかったり、体が重く感じられることもあるでしょう。
これらは、いわば一時的な自律神経失調症といえます。わかりやすくいえば、こんな状態が毎日、慢性的に続いているのが自律神経失調症なのです。
精神的・肉体的に疲れた状態
私たちの体は、外部環境に適応するために一定の体温や血圧を維持し、心臓を休みなく動かしながら生命活動を続けています。こうした活動ができるのは、ホメオスターシス(生体の機能を恒常的に維持する働き)という力が作用しているからで、このホメオスターシスを保つために全身をコントロールしているのが自律神経なのです。
自律神経には、交感神経と副交感神経の2つがあります。このうち、交感神経は「活動する神経」といわれ、仕事や運動をするときに心臓の拍動を速め血圧を高めたり、精神活動を活発にさせます。一方、副交感神経は「休む神経」といわれ、睡眠、休息などを取るときに働きます。体をスムーズに働かせるために、いつも2つの神経がお互いにリズムを取りあって働いているのです。
つまり、このリズムが乱れて体にさまざまな変調が起こるのが自律神経失調症。「よく眠れない」「動悸が激しい」「体がだるい」「手が震える」「食欲がない」「頭痛がする」「めまいがする」「微熱が続く」など実に多彩な症状を訴えます。
自律神経の働きを乱す一番の犯人はストレスです。もちろん、ストレスも軽いうちなら、比較的ラクに処理ができます。しかし、それが過度に長く続くと、精神的にも肉体的にも疲労困憊の状態に陥り、ホメオスターシスが崩れて体のリズムの異常となって現われてくる。
ただしストレスがあっても、すべての人が自律神経失調症になるわけではありません。ストレスを溜め込みやすい、次のような性格の人が要注意です。
(1)過剰に努力してしまう人
適当なところで妥協することができない人で、正義感や責任感も強く努力家です。人からも評価されていて、その期待にこたえようと無理をし、ストレスを溜め込んでしまいます。
(2)過敏に反応してしまう人
何事にも過敏で、いつも心配の種が尽きない人です。
(3)落ち込みやすい人
しばしば「気分が沈んですぐれない」「ときどき死にたくなる」といった抑うつタイプの人もストレスを溜め込んで、自律神経失調症に陥りやすい。
自律神経失調症は、“弱々しい人”が罹りやすい、“弱々しい人”だけがなる、と思われているようですが、実はそうではありません。むしろ(1)のような“強い人”のほうが、少しぐらい症状があってもがまんをしてしまうので、より重症になりやすいものなのです。
心療内科の受診がベスト
自律神経失調症のような多彩な症状が出てくると、その症状によって内科や整形外科、耳鼻科、婦人科などの一般科を受診する人が多いようですが、検査を受けてもこれといった異常が見つからず、「気のせいですよ」と言われたり、「低血圧」「更年期障害」「慢性胃炎」などの病名がつけられてしまうことがしばしばです。しかも、熱心に病院に通ってもよくならないためにドクターショッピング(何回も医師を変えること)になりがちです。
ご質問のように一般科を受診しても原因が見つからない場合や、自律神経失調症という診断名はつけられたものの症状が改善しない場合には、心療内科を受診してください。心療内科は心身症などストレス関連疾患を守備範囲にしている科で、薬剤による治療法と並行して、ストレスの軽減やリラックスのための心理療法や生活指導も行ないます。
心療内科では、自律神経失調症を次の4つのタイプに分けて治療しています。
(1)本態性自律神経失調症
生まれつき自律神経が弱かったり、体力に自信のない人によくみられるタイプ。
(2)神経症型自律神経失調症
体に異常はなく、自律神経の機能も損なわれていないのに不安や恐怖などの精神症状が強いのが、このタイプの特徴。
(3)心身症型自律神経失調症
日常生活の心身のストレスから起こるもので、症状の出方、重さも、ストレスの程度によってまちまちです。
(4)抑うつ型自律神経失調症
ストレスが常に蓄積してうつ状態となり、不眠、胃腸の痛み、食欲不振、全身倦怠感、微熱、筋肉痛などさまざまな症状を訴えるタイプ。
これらのうち、最も多いのは(3)の心身症型自律神経失調症です。治療はタイプによって多少変わってきますが、ここでは心身症型に絞って治療内容を簡単に紹介しておきましょう。
心身症型自律神経失調症では、まず心身両面の治療が必要になります。それぞれの症状に合わせた薬(精神安定剤、自律神経調整薬、抗うつ薬、漢方薬など)を投与して症状が安定してきたら、意識や行動の変化を促すためにカウンセリング(面接により問題解決へのプロセスを援助)を行ないます。また、交流分析(性格のゆがみや人間関係のまずさから生じるストレスの修正)も実施します。
食事、睡眠、運動など、日常生活の改善も必要になります。なかでも食事は、家族や友人と楽しく、おいしく食べることが大切です。なお、心療内科を受診されるには、現在治療を受けている科の先生とよく相談をし、紹介状を書いてもらうのが理想的でしょう。
著者
村上 正人(日本大学板橋病院心療内科医長)
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