ビジネスわかったランド (経営・社長)

健康Q&A

口で呼吸するのはよくない?
アトピーなどの原因にも
現在、国境を越えて世界中で大気汚染が大きな社会問題になっていますが、こうした大気汚染が健康にいい影響を与えないことはみなさんもよくご存知でしょう。とくに排気ガスの人体への悪影響には計り知れないものがあります。呼吸器病からガンに至るまで、多くの病気が大気汚染がひどくなるのと合わせて増えているという相関関係を示すデータもあります。
こうした状況で、ぜひ見直さなければならないのが呼吸の仕方です。ご質問にあるように鼻で呼吸をしないで、口で呼吸をしていると、汚染された空気がそのまま肺に入り、体内に行き渡ってしまいます。鼻には浄化装置がついていますが、口にはそれがないためで、まったくの無防備状態といえるのです。
口呼吸の害はそれだけではありません。空気中には細菌やウイルスが無数に存在し、人体に有毒な微小粒子もたくさんあります。口呼吸をしていると、これらがのどを直撃します。よくカゼをひかれるのは、そのためでしょう。

日本の小学生の80%は口呼吸
のどには細菌やウイルスの侵入を防ぐために、リンパ組織(扁桃リンパ輪)が発達しています。ちなみに、これを発見したドイツのワルダイエル博士は「すべての病気は扁桃リンパ輪の感染に始まる」と言っています。口呼吸を続けていると、空気と一緒に吸い込んだ細菌やウイルスが扁桃リンパ輪を攻撃して、その働きを低下させ、結果的に病気を引き込むことになってしまうわけです。
また、口呼吸は花粉症、アトピー性皮膚炎などの免疫病ももたらします。
重篤な場合には、白血病、膠原病、関節リウマチ、あるいは偏頭痛、潰瘍性大腸、間質性肺炎などを引き起こすこともわかってきました。まさに口呼吸は万病の元なのです。
実は、人間以外の動物は生涯にわたって鼻だけで呼吸をします。イヌは口で息をしているように見えますが、これは口で呼吸をしているわけではありません。イヌの皮膚には汗腺がないので、汗で体温を下げることができない。そのため舌を放熱器や冷却器の代わりにして、体の熱を発散させているのです。
口はもともと食べ物の通り道である食道の入口です。しかし、人間は空気の通り道である気道としても使っています。チンパンジーやオランウータンなどの類人猿と、人間の体の仕組みにはほとんど差はありませんが、のどだけは違っており、類人猿ののどは鼻と連続していて、気道と食道が別々になっています。対して、人間ののどは鼻だけではなく、口にもつながっている。これは声を出しやすいようにのどが短縮したためです。その結果、人間だけは口からでも呼吸ができるようになってしまったのです。
人間でも生まれたばかりの乳幼児はサルと同じで、鼻でしか呼吸ができません。しかし、1歳くらいになると、言葉の習得に合わせて口呼吸ができるようになります。子供は口呼吸ができると、うれしくて一生懸命に行ないます。そうやって、口呼吸の習慣がついてしまうというわけです。
子供にこうした癖をつけないためには、1歳になる前からおしゃぶり(乳首型)を与えておくといいでしょう。こうすれば口がふさがれるので、自然に鼻呼吸の習慣がつきます。実際、欧米では子供が3~4歳になるまでおしゃぶりを使わせているのですが、日本ではおしゃぶりを外す時期が早いので、1~2歳の子供の多くが口でハアハアと呼吸をしています。
日本人に口呼吸が多いのは、食習慣とも関係しているようです。たとえば日本人には熱い汁物を直接口をつけて飲む習慣がありますが、これが呼吸には良くない。熱い汁物の温度を下げようとして、フーフーと息を吹きかけたり、音を立ててすすり込むため、どうしても口呼吸になってしまうのです。
さらに日本人に多い猫背の姿勢も口呼吸の原因になります。猫背だと胸で浅く呼吸をする胸式呼吸しかできないため、あごを突き出して口呼吸をするようになるのです。
このようなことから日本人には口呼吸をする人が非常にたくさんいます。私が行なった調査では、小学生の80%が主に口で呼吸をしていました。健康に暮らしたいのなら、口呼吸はぜひとも改めるべきです。
・自然な状態にしていると、口が半開きになり、締りのない表情になる
・いつも片側で噛む習慣があり、歯の噛み合わせが悪い
・下唇が上唇よりぶ厚い
・唇がカサカサに乾燥する
・朝起きるとのどがヒリヒリと痛い
こうした症状があるなら、口呼吸の害が出ている証拠です。

呼吸法の改善にはまずガムを噛むこと
とはいえ、習慣になってしまうと、無意識のうちに口呼吸をしてしまうものです。悪い癖を直して鼻呼吸ができるようにするには、次のことを試していただくといいでしょう。
まず、簡単な方法としてはガムを噛むこと。ガムは虫歯にならないようにキシリトールガムを選びましょう。口をきちんと閉じて、姿勢を正して、効きあご(よく使う側のあご)とは反対側のあごで、リズミカルに噛むようにします。噛む時間は1回40~50分。これを1日に3回行ないます。
夜寝るときには、唇の両側に紙製のバンソウコウを貼るのもよい方法です。口全体をふさぐと、くしゃみをしたときに空気の逃げ場がなくなり、鼓膜を破る恐れがあります。そのため、唇の両側に貼るのです。
もう1つ、寝るときに高い枕を使うのはやめましょう。高い枕はのどを圧迫して、気道を狭めるため、口呼吸になってしまいます。できたら、羽毛のようなフワッとした枕を使ってください。これなら、頭が沈んで気道が真っ直ぐになり、無理なく鼻で呼吸ができます。
実をいうと、バンソウコウや低い枕を使うと、イビキの予防にもなります。イビキで困っている人も試してください。

著者
西原 克成(東京大学医学部付属病院講師)