ビジネスわかったランド (経営・社長)

健康Q&A

日本人が肩こりなのは?
体格と姿勢が大きな原因
われわれ日本人にとって、肩こりは珍しいものではありません。肩がこるといえば、それが何を意味するのか、どなたもご存知でしょう。しかし、欧米人はそうではないのです。
実は、欧米には「肩こり」に相当する言葉はありません。首や肩、背中の病気はありますが、日本人のような肩こりに脳む人はいないらしいのです。なぜ、欧米人に肩こりがなくて、日本人にはあるのでしょうか。
第一に指摘しなければならないのは、体格と姿勢の問題です。欧米人は、女性でも肩の筋肉がよく発達しています。姿勢も威張ったように胸をはっていて、歩き方もとてもスマートです。これに対して、日本人はなで肩が多く、猫背が目立ちます。こういう体型の差と悪い姿勢は、どうしても首や肩、背中、さらに腰の筋肉や骨のバランスを崩し、これらに無理をかけてしまうのです。

運動不足も肩こりを引き起こす
たとえば、猫背の人を横から見ると、背中を丸めて、肩をすぼめ、首を前へ突き出したような姿勢をしています。これでは重い首を支えるために、背中や肩の筋肉にいつも余分な負担をかけることになります。おかげで、常に筋肉が緊張し、その周りの血管や神経を締めつける。
また、猫背の人が上を向こうとすればどうでしょうか。あごを前に出して、天井を見上げるような姿勢になります。こうした姿勢は、首の骨と骨との間にある神経が出る穴(椎間孔)を狭めます。結果、この穴を通っている神経が締めつけられ、首や肩にこりや痛みとなって現われる可能性があります。このタイプの肩こりは、猫背の人ばかりではなく、首が短くて太い、いわゆる猪首の人にも起こりやすいものです。
一方、なで肩の人は第一肋骨(1番上の肋骨)と鎖骨の間で、血管や神経が締めつけられ、肩こりが起こりやすくなります。この状態が外側から加えられた圧迫によってつくり出されたのが「リュックサック・マヒ」と呼ばれる症状です。これは大学の登山部の新入生が、急に大きなリュックサックを背負わされたときなどに、神経と血管が締めつけられ、肩から腕に締めつけられたような感じの症状が起こるものです。
しかし、いつも重い荷物を背負っている人は肩こりがありません。肩の筋肉が鍛えられている人は、重いものを背負ってもなで肩にはならないからです。いつも重いリュックサックを背負っている登山家に、肩こりの人がいないのは有名な話です。
こうした条件に加えて、最近の日本人は運動不足が目立ちます。これも肩こりの原因とみていいでしょう。肩こりを訴える人のなかには、肩や腕を「使い過ぎたら、肩がこった」と考えている人がいますが、実際には「使わないから、肩がこった」と見るほうが正しいのです。
人間の頭の重さは2キロ、人によっては3キロもあります。いわば重いスイカが頭の上に乗っているようなものです。それに、腕は体重の8分の1の重さがあります。じっとしているだけでも、こんな重い物を支えたり、ぶら下げたりして、筋肉はたえず緊張しているわけです。
ところが、私たちが体を使うと、筋肉は収縮したり緩んだりする。これは血管をマッサージすることになり、血行をよくするうえでも非常に大切です。筋肉を「収縮させる、緩める。また収縮させる、緩める」という動作が普段の生活のなかで行なわれていれば、本来肩こりは起こらないものなのです。昔は、体を使うチャンスがたくさんありました。歩くとか、マキを割るとか、井戸で水を汲むとか、手で洗濯をするとか、何をするにも全身を使わなければなりませんでした。いまは歩く必要すらなくなってしまった。こうした運動不足が、現代人の肩と腰にひずみをつくり出してもいるのです。

正しい姿勢で症状の緩和は可能
もう1つ、ストレスも日本人の肩こりの原因となっています。実際、ストレスがあると肩がこります。ところが、これまた日本人特有の現象なのです。
欧米も日本に劣らずストレス社会でしょうが、一般に欧米人はリラックスする方法が上手ですし、自己管理が行き届いているので、ストレスと肩こりは結びつきません。その証拠に、日本ではストレスがたまりやすいとされるコンピュータを扱う人々に肩こりが多いのに対して、アメリカのコンピュータを扱う職場ではそのようなことは見られないといいます。
結論をいうと、体格の差、悪い姿勢、運動不足、ストレスを自己管理できない国民性というものが、日本人に肩こりが多い原因となっているわけですが、なかでも肩こりの多い人には悪い姿勢が目立ちます。いくら運動をしてもストレスを解消しても、姿勢の問題は1日中つきまとっていますから、肩こりの一番の原因になるのです。
そこで、最後によい姿勢とはどういうものかをお話ししておきましょう。これから説明する方法で、いつも意識的によい姿勢を取るようにしていると、それだけで肩こりが起こりにくくなります。
(1)まず、おなかをへこませる。へそが背骨につくような気持ちで、おなかの筋肉を縮める。腹筋が緩んで、内臓が下がっていたのではよい姿勢は取れない
(2)息を吸って胸(胸郭)をいつも広げておき、背筋を十分に伸ばす
(3)お尻の穴をすぼめるようなつもりで、お尻に力を入れる。小便を途中で止める要領で行なうこと。これは骨盤を固定して、正しい姿勢をつくる基礎となる
(4)胸を張らず肩を下ろす
(5)あごを引き、心持ち体重を前にかけ、足の親指で立つような気持ちの姿勢を保つ
(6)頭を風船にした感じで、体を上に引き上げる。体を引っ張り上げているようなイメージで行なう
以上の順序で繰り返し練習し、いつでもどこでもよい姿勢が取れるようにしましょう。

著者
石田 肇(日本医科大学名誉教授)