ビジネスわかったランド (経営・社長)

プライベートの問題

二世経営者が自分のブレーンを育てるには、どのような手法をとるべきか
 全社員で“マインド”を共有できれば期待する人材も育つはずだ。

往々にして二世経営者は、自分のブレーンをすぐに集めたがる傾向がある。しかし、先代とともに会社を支えてきた人たちを無視して自分の周囲に人を集めれば、必ずしこりが残り、社内が混乱する。
私が父の跡を継いだときは、父の番頭格を切るようなことはしなかった。古参幹部たちに実績があるのは動かせない事実であるし、要は役割分担の問題だと考えたのだ。
もちろんこの時代、変化に対応できない会社は生き残れない。新しいことに着手していく以上、旧来の価値観に縛られた人間だけでは無理で、その局面では「新しいブレーン」が必要になる。だからといって、ブレーン作りを急ぐと、結局は失敗する。

<< 理念を共有すれば結果もともなう >>

ブレーンの条件として最も重要なのは、表面的なスキルではなく、社長とブレーンが深いところで価値観を共有できているかどうかということだ。
当社の例を申し上げると、社長に就任後、私はまず、企業風土の改革に取り組んだ。先代のスタイルから脱却して、会社として総合力を高めていかなければ、生き残っていけないと考えたのだ。社員には自助自立の気概をもたせ、問題対処型ではなく問題解決型、そして未来へ向けた思考回路へと進化させることを目指した。
ブレーンの育成という点に関していえば、企業風土を変革していく過程で、社長である自分と社員が価値観を共有し、進むべき方向をともにしていく。そこで頭角を現わしてくる人間こそが、ブレーンと頼むに足る存在になるだろうと考えた。
結局、どんなにスキルがあろうと、社長と方向性を一にしてくれなければ会社のエネルギーをロスするだけだ。また、ベクトルが一致しない段階で権限を委譲しても、糸の切れた凧のようなもので、各自が勝手なことをしでかしかねない。
具体的には、まず問題点を整理するために参加者を募って「会社の悪口を言う会」を設けた。続いて理念を共有するためのミーティングを行ない、そういう場で私の考えをオープンにし、お互い侃々諤々やり合って、創業の精神に立ち返るところから始めていった。この改革は、当初は3年で完了させるつもりだったが、手応えを感じるまでには5年かかった。古参幹部を外さなかったことも理由だが、想像以上に過去の価値観が社内で幅を利かせていたのだ。しかし時間をかけた甲斐あって、ようやく自分のブレーンといえる存在が育ってきている。
彼らの抜擢に際しては、成果より会社の方向性についての考えを共有したうえで、私と深いところで議論できる人間かという点を重視した。そうした人材は、やはり社内の誰が見ても文句のない成果を上げるもの。結果として、成果を上げている部署のリーダーがそろうことになった。彼らは思考回路も未来志向型だし、部下の立場、同僚の立場にも立てる。時間はかかったが、方法としては間違っていなかったのだと思う。
ご相談者があせるお気持ちはわかるが、土壌がよくなければいくらよい種を蒔いても草木は育たない。“抵抗勢力”も巻き込んで、楽しみながら改革を行なってみてはどうだろう。その過程で、求める人材もきっと育ってくるはずだ。
 
月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。