ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営の問題

取引先から資本参加をもちかけられたときはどうする?
 相手の意図を見極めて、十分な検討が必要である。

資本参加とは、具体的には特定の第三者に新株を引き受けさせる増資のことで、第三者割当増資による株式の発行手続きをとる。要するに取引先が自社の株主になるということだ。
資本参加によって取引先が受けるメリットとしては、一般的に今後の取引を円滑に進めるための関係強化や配当の受領などが挙げられるが、自社にとっては乗っ取りのリスクも考えられる。そこで、取引先がどういった意図や目的で資本参加をもちかけてきているのかをよく見極め、事前に十分な検討をすることが必要となる。
ここで重要なのが、株式数と議決権の関係である。取引先が取得する株式の割合いかんによっては、相手側と会社の間で経営に及ぼす影響力のバランスが変わってくる。判断のポイントは、議決権総株式数の「三分の一超」「過半数」「三分の二以上」の三つである。それぞれの注意点を挙げておこう。

(1)三分の一超を取引先が取得した場合
取引先は特別決議の否決権を得ることになる。重要な決定事項に関して、常に取引先の同意を取り付けなければならなくなる。

(2)過半数を取引先が取得した場合
相手方から取締役の選任・解任が可能となる。取引先から役員が派遣され、現在の取締役が解任される可能性がある。

(3)三分の二以上を取引先が取得した場合
定款変更、事業の譲渡、会社の解散・合併が取引先の単独意思で可能になる。事実上、経営に関しては現経営陣での主導的な経営判断ができなくなる。

<< 乗っ取りを防ぐには >>

現経営陣が主導的に経営を進めていくためには、この議決権株式数の割合の問題をクリアしなくてはならない。
議決権総株式数の三分の一以下の割合で取引先に新株を発行する場合は、経営に大きな影響はないが、出資にあたりあらかじめ書面で出資契約を行ない、経営参加についてある程度制限しておくことも一つの方策である。
また、株式に譲渡制限を付けておくことも重要である。取締役会の決議がなければ株式の譲渡をできなくする制限を付けることで、取引先からよからぬ相手に株式が渡ってしまうのを防ぐことができる。議決権制限株式の発行や、会社法で施行された取得条件付株式なども検討の余地があるだろう。
このほか、資本参加とは異なるが、経営参加や乗っ取りなどのリスクが発生しない資金調達方法としては、取引先から貸付を受ける方法や少人数私募債を発行して引き受けてもらう方法などもある。
会社が資金繰りに窮している状態ならば、取引先からの資本参加の申し出は確かに「渡りに船」といえよう。売上低迷の打開策を思いついたが資金がないという場合は、積極的に増資を受けて経営を立て直すべきである。だが、きちんとした経営立て直しの計画もなく、当面の危機を切り抜けるためだけに、安易に資本参加を受け入れることはお勧めしない。
経営者は、自社への愛着のあまり、大きな視点を見失ってはいけない。自力で経営危機を乗り切ることにはこだわらず、打開策を検討すべきであろう。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。