ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営の問題

現場からのマイナス情報がすばやく上がってくるようにしたい
 制度だけに頼るのではなく「お互いの顔が見える組織」にする。

お客様との間にトラブルが発生した場合、いざというときには社長自ら頭を下げるのは、当然のことである。そのためにも、クレームなど現場のマイナス情報がすばやく上がってくる体制作りは大切だ。
だが、それが行きすぎると、個々人の自主性の下で裁量すべきこともすべて上に委ねることになってしまい、社員に実力がついてこない、ということになりかねない。トラブル報告が上がりやすくはなっても、依存心のせいで緊張感のない仕事ぶりになり、それが原因でトラブルが起こることも考えられる。それでは本末転倒だ。
また、自立心のある社員ほど、自分で処理しようとして上に報告してこない。その結果、トラブルが大きくなるのは困るが、その自主性は活かすべきだ。結局、社員の自立心との兼ね合いが重要となる。
トラブル報告の制度作りには、細心の注意が必要だ。まかり間違うと、制度のせいでかえってマイナスの効果が起こることもある。極端な例だが、クレームを報告しなかった場合にはペナルティを課すとしたせいで社員同士で密告が横行してしまったり、クレームをいち早く報告した人間を褒めるということにした結果、本来はトラブルを起こさない社員が優れているのに、トラブルを起こしながらそれを報告した者のほうがよく評価されるという、ちぐはぐなことにもなりかねない。
企業の規模にもよるが、規則で「マイナス情報を報告せよ」というフォーマルなやり方だけではうまくいかない。社内の横のつながりはどうか、社内にオープンな議論を行なえる雰囲気があるか、といったインフォーマルな情報伝達経路をもっと大切にすべきであろう。
オモテの組織とは別にウラの人的ネットワークが社内にあると「いま会社で何が起こっているか」をトップから末端の社員までが理解できる。社員が仕事だけでなくパーソナリティを含めてお互いを知っていれば、何か起きたときにもすぐにヨコの人間関係で連絡・相談も進む。
トラブルは起こってあたり前。そのトラブルを隠蔽するようなまずい事態にまでしてしまうのは、人間性の問題だ。それは、互いの顔が見渡せる中小企業であれば、社内の家族的つながりのなかで心的な安定を保っていれば十分防げる。その一方で、制度面での情報共有と共存ができていれば万全である。

<< トラブルに気づくための工夫も >>

そのほか、具体的な仕事の進め方を見直して、トラブルを未然に防ぐことも大切だ。
たとえば当社では、若手が開拓した顧客をベテラン社員が別個に巡回してサービスの向上に努めている。顧客に対応するのが現場の営業社員だけでは、そこで情報の通路がふさがってしまったときにトラブルが起こる。しかし、別のルートがあれば、不都合を発見し対処できる可能性が広がる。
これは別に、社員同士を相互に監視させているというわけではない。若手とベテランでは世代の違いもあって経験も、ものの見方も異なる。視点の違う者が同じ顧客の元を訪れれば、見えるものは違うし、顧客からの反応も異なるだろう。その意味で二重のチェックとなる。
そうした工夫も一考されてはいかがだろうか。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。