ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営の問題

メインバンクから元支店長を受け入れて欲しいと要請されたときはどうする?
 実務能力は乏しいはずであり、「タフさ」も鑑定材料にする。

銀行からの要請とはいえ、闇雲にというわけにはいかない。まずは、銀行に対して要望する部署を指定し、適切な人材の選定を要求することである。
そのうえで面接となるが、面接の際の能力判定においては「管理能力」もさることながら「実務能力」を重視すべきである。銀行員の場合、批判能力には長けるが実務には暗い「頭の高い人物」が多いのが実状だ。加えて、協調性に欠ける人がかなりの数存在する。
要は、きちんと仕事ができ、「出向先を第二の職場として骨を埋める覚悟をもつ」人物を選ぶ必要がある。
面接の際には、遠慮せず厳しい勤務条件であることを言明しておくべきである。最初から、給与・ポスト・福利厚生などを口に出すような人物は見込みがない。
中小企業の場合、事務社員の数は極端に少ないはずだ。仮に総務部長であっても、すべての実務をこなす必要が出てくる。その覚悟ができているか。肩書と現実とのギャップに耐えられる「タフさ」も判断の大きな材料になるだろう。
さらに実務についていえば、中小の経営者のなかには、銀行員時代の人脈に期待して営業部長、対銀行交渉に期待して経理部長などに単純に任命する向きがあるが、銀行員は看板を失えばタダの人、審査能力はあっても経理事務は知らないのが実状である。まして、営業力など期待しないほうが無難。この点にも十分注意することだ。
最後に受け入れ後の処遇だが、いきなり役員に任命する必要はない。給与も生え抜きより高めにすることは避けなくてはいけない。採用後、数年は暫定的な処遇に留め、能力や協調性などを見極めながら正式に決定すべきである。

<< 拒否する勇気も必要 >>

ここまでは受け入れるという前提で話を進めてきたが、そもそも銀行の要請は受けなくてはいけないものなのだろうか。拒否すると不利益を被むることはあるのだろうか。
結論から先に言えば、貴社の経営状態から判断すべきであって、銀行との関係を斟酌する必要はない。
「銀行から出向者を受け入れれば融資など取引上のメリットが期待できる」という考えが一部に見られるが、これはもはや時代錯誤。受け入れによって得られる取引上のメリットは皆無と考えるべきだ。
一方、受け入れることによって被るデメリットはどうだろうか。
中小企業に適した事務能力をもつ銀行員はそう多くはない。メリットとデメリットを比べれば、デメリットのほうが多いのではないだろうか。受け入れることがすなわち貴社のためになる、とは決して言えないのが実情である。
銀行からの出向中(給与は銀行負担)の間はまだよいものの、正式に出向先に身分が移った時点で様々な問題が発生し、結局、解雇せざるを得なくなる。こちらのほうがむしろ、銀行取引に与える影響は大きいだろうし、残った社員に与えるダメージも計りしれないものがあるはずだ。
自社の事情を十分に考え、受け入れが無理な場合は拒否する。その勇気が経営者には必要である。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。