ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営の問題

採算性の悪い事業から撤退すべきか迷っている
 自身のモチベーションと投資利益率から判断をする。

撤退の意思決定をするにあたっては、二段階の基準で考える必要がある。
まず、経営者自身が、成功に向けて自らの動機づけが難しいと感じたのなら、即刻撤退すべきである。経営者のモチベーションが下がっている事業が成功するはずがないからだ。
そしてこの基準をクリアしたとしても、次に述べるような客観的な基準によって、撤退か継続かの判断をすべきであろう。

<< 具体的な判断基準は >>

第一に、その事業が黒字か赤字かという点だが、単純に黒字であれば継続、赤字であれば撤退というわけにはいかない。
黒字の場合でも「より効果的な事業投資の機会を逃していないか」ということを検討しなければならない。具体的には、本業のROI(投資利益率)を超えていれば継続すべきということになる。
一方、赤字の場合も、赤字即撤退では伸びる可能性の芽を摘んでしまうことになりかねない。実際、新規事業の場合には初年度からしばらくの間は赤字を余儀なくされるケースも少なくない。問題はその赤字をどこまで容認できるかである。
具体的な線引きの基準としては、その事業の債務超過額が、本業のキャッシュフローの3年分で回収できるかどうかが一つの目安となるが、回収できないとなれば即刻撤退すべきだ。
次に、このどちらにも属さない分類、つまり黒字だが事業価値を高めるレベルにない場合と、赤字だが本業に大きな影響を及ぼすには至っていない場合について検討しよう。
これらについては、将来の事業領域に必要か、今後3年以内に基準レベルに達するか、本業への相乗効果がどの程度あるか等の点において総合的に判断すべきだろう。
将来の事業領域に必要かという判断は定量化が難しいが、非常に重要な観点である。事業領域に必要かどうかは、将来、何を実現していくのかという、経営理念に直結するものと考えたい。そうでないと、経営者のモチベーションを維持することが難しくなるからだ。
採算という面では、黒字であっても既存事業のROIを超えそうにないようであれば、別の投資に資源を振り向けるべきだろう。もちろん、ここでも将来性の見極めは重要だ。
そして相乗効果だが、本業に大きな効果をもたらすものであれば、少々赤字でも継続すべきという判断もあり得る。
このように、基準といっても絶対的なものさしでなく、会社の状況や業種・業態の特性なども考慮した判断基準を見つけることが肝要となる。
なお、いったん撤退を決めたなら、事後処理はとにかく迅速に行なう必要がある。段階的な撤退は結論の先送りにすぎず、よい結果をもたらすことはないからだ。
また、その事業に従事してきた社員の処遇にはとくに留意したい。配置転換によって本業に吸収できればいいが、退職を強いる可能性も出てくる。
そうした場合には可能な限りの金銭的な補償や再就職支援を行なうしかないが、その雇用者責任を果たすことが、残された社員のモチベーションに大きな影響を及ぼすことを忘れてはならないだろう。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。