ビジネスわかったランド (経営・社長)
対外折衝
銀行との付合いの程度と折衝時の心得は
1担当者ならともかく、取締役としては、銀行に対しての付合い方や折衝・交渉においてはきちんとしたポリシーをもって臨まなければならない。細かい実務面では金融緩和の時代とタイトな時代とでは異なる部分もあろうが、基本的なスタンスはしっかり押さえておくことである。
銀行と付き合う視点は
銀行は金の貸借りが付合いの主目的になることは間違いないが、ここ数年の金融業界の変化、変貌振りは実に目まぐるしく、銀行相互の合従連衡はもとより、保険、証券業界との業際も入り交じり、金融機関選定の判断基準がまったく違ったものになってきた。
銀行とは、決して金を借りるだけ、あるいは預けるだけの相手ではなく、銀行は付合い方によってはきわめて優秀なコンサルタントになってくれるところでもある。
それは金融ビッグバンによる、銀行自体の変貌に基づく取扱商品の多様化はもとより、本来的にもっていた大きなメリット、つまり銀行の接触先がメーカーからサービス業、大企業から中小・零細企業と広い範囲に及び、種々雑多な情報を有しているからである。また、それによって経営のノウハウも蓄積している。銀行は“あらゆる情報の宝庫”として付き合う視点が不可欠だ。
したがって、積極的に銀行とコネクションをつくり、先方の人脈、情報資源を十二分に活用するようにしたい。
コミュニケーションを密にする
銀行も商売だから、有意義な情報が得られそうな会社、これから有望な企業に育てようと考えている会社には頻繁に足を運ぶ。しかし、通り一遍の付合いでよいと考えている会社には足が遠のくのは当然である。
コミュニケーションが密でなければ、いざ、融資を頼もうとしても、すんなり応じてはもらえない。経営上の相談に乗ってもらおうとしても力を入れてはくれないだろう。
したがって、いかに銀行の営業マンに足を運ばせ得るか。これが腕の見せどころ。それには、まず相手に“与える”ことである。相手の欲するものとは、時には預金であり、資金導入(借入)であり、業界・社内情報であり、経営者の人となり、である。
“あの役員さんは好意的だ”と思ってもらうところから、良きパートナーとしての付合いが始まるのである。
さらに付合いを深めていこうとすれば、担当者を通じて支店長との接触を図らなければならない。そのためには、頻繁に先方に出向くことである。とくに、自社の業績のよいときほど足を運ぶ。バランスシートや情報データをできるだけオープンにし、「何か問題はないですか」と相談を持ちかけていくわけである。
社長を売り込む
中堅・中小企業の場合、会社の信用とは社長の信用にほかならない。社長の生立ち、ものの見方・考え方、出身畑といったキャラクターが経営に大きく影響するから、銀行は努めて社長のことを知ろうとする。
したがって、あなたが取締役としていくら熱心に銀行と親しくなろうとしても、それだけでは限界がある。やはり、自社の社長を銀行に売り込まなければならない。
できれば、年に数回は社長を伴って支店長を訪ね、社長の人柄や経営理念、夢といったものを理解してもらうようにする。その積重ねで社長のファンを銀行内に増やしていくのである。
もっとも、腰の重い社長も少なくない。ことに技術畑を歩いていた社長には、銀行訪問をいやがる人が多いように思われる。
しかし、簡単に諦めてはいけない。連れて行くのがむずかしいなら、支店長が来社した折に社長に時間を取ってもらうことである。「支店長が会いたがっています」と言えば、むげに断わる社長もいないだろう。また、経営研究会や講演会等にも顔を出してもらうようお膳立てする。時には、営業部門の長から「営業部門のために…」とバックアップしてもらうのも一法だ。
逆に非常に偉そうにする社長の場合はどうか。銀行支店長に売り込むにも、ふんぞり返っているという悪印象を強く与えかねないような社長もいるかもしれない。「社長、偉そうにだけはしないでください」とはなかなか言えないので、この場合は止むを得ない。ナンバー2の専務、あるいは社長の子息を引っ張り出す。要は、会社ぐるみで社長および会社をPRすることである。
そして、理想をいえば、銀行の支店にとどまらず、本店幹部にまでファンを広げ、人脈を築いていくことであろう。
本来、企業が銀行に金を借りなくてはならない状況は、変えていかなければならない。無借金経営を目指さなければならない。まず、こうした基本を踏まえておきたい。
ところが、そうしたこちら側の理想と、金融機関の思惑は必ずしも一致しない。利害がぶつかる時、彼らはそれは厳しい。本当に容赦ない。とくに大銀行は、組織でもって上からピシッと押さえられているから、食い下がるにしても限界がある。だから大銀行とばかり付き合っていては、常に弱い立場のまま、ということになりかねない。
そこで、いくら会社が大きくなっても、信用金庫など、小さな金融機関とのパイプを保っておくことをお勧めする。かつて危険に陥った頃に手形割引に走り回り、その時一所懸命になってくれた信金といまだに取引している例がある。困った時に、「実は支店長…」と飛んでいけるところを、1つは持っておかなければならない。それには、組織でがんじがらめではない、多少小さいところのほうがよい。
機会を捉えて、金融機関の人にきてもらうのもよい。決算役員会には、取引銀行(株主になってもらっている銀行)の支店長にはみんなきてもらうようにしている例もある。
相手の支店長によって、付合い方を変える必要はないと思われるし、ゴルフや飲み食いの付合いも、最近はほとんど見受けなくなった。
しょせん、力関係なのだから、公明正大、堂々たる経営をしていくことが何よりも大事である。
とくに最近の顕著な動きとして、銀行は規模の大小を問わず不良債権の償却に懸命である。下手をするとたちまちその存在があやうくなるので当然貸し渋りが出てきている。しかし、前述のように平素からの誠実な取引ぶり、実力に合った経営姿勢が認められれば何も案ずることはない。
さらにその上に銀行に対する姿勢として、資金を借りるだけではなく、逆に虎の子の預金に対してもペイオフ対策を講じておかねばならなくなってきた。つまり好条件だからと、1行に預金を集中させたり、個人的なしがらみで基盤の弱い銀行に過大な預金をすることは避けたほうがよいだろう。いずれにせよいましばらく情勢の安定するまでは預金、借入金双方に気を配っていかねばならない。
つい先般、日銀のゼロ金利政策が解禁された。これによって預金金利に変化が生ずるのは当然であるが、貸出金利も上がってくる。しかし、これは、銀行の収益力、つまり体力の強弱によって自ずからその幅は違ってくるはずで、昔の護送船団方式、右へ習えというわけにはいかないだろう。したがって、銀行ともよく話し合い、他行の状況もよく調査して折衡する必要がある。
著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。
銀行と付き合う視点は
銀行は金の貸借りが付合いの主目的になることは間違いないが、ここ数年の金融業界の変化、変貌振りは実に目まぐるしく、銀行相互の合従連衡はもとより、保険、証券業界との業際も入り交じり、金融機関選定の判断基準がまったく違ったものになってきた。
銀行とは、決して金を借りるだけ、あるいは預けるだけの相手ではなく、銀行は付合い方によってはきわめて優秀なコンサルタントになってくれるところでもある。
それは金融ビッグバンによる、銀行自体の変貌に基づく取扱商品の多様化はもとより、本来的にもっていた大きなメリット、つまり銀行の接触先がメーカーからサービス業、大企業から中小・零細企業と広い範囲に及び、種々雑多な情報を有しているからである。また、それによって経営のノウハウも蓄積している。銀行は“あらゆる情報の宝庫”として付き合う視点が不可欠だ。
したがって、積極的に銀行とコネクションをつくり、先方の人脈、情報資源を十二分に活用するようにしたい。
コミュニケーションを密にする
銀行も商売だから、有意義な情報が得られそうな会社、これから有望な企業に育てようと考えている会社には頻繁に足を運ぶ。しかし、通り一遍の付合いでよいと考えている会社には足が遠のくのは当然である。
コミュニケーションが密でなければ、いざ、融資を頼もうとしても、すんなり応じてはもらえない。経営上の相談に乗ってもらおうとしても力を入れてはくれないだろう。
したがって、いかに銀行の営業マンに足を運ばせ得るか。これが腕の見せどころ。それには、まず相手に“与える”ことである。相手の欲するものとは、時には預金であり、資金導入(借入)であり、業界・社内情報であり、経営者の人となり、である。
“あの役員さんは好意的だ”と思ってもらうところから、良きパートナーとしての付合いが始まるのである。
さらに付合いを深めていこうとすれば、担当者を通じて支店長との接触を図らなければならない。そのためには、頻繁に先方に出向くことである。とくに、自社の業績のよいときほど足を運ぶ。バランスシートや情報データをできるだけオープンにし、「何か問題はないですか」と相談を持ちかけていくわけである。
社長を売り込む
中堅・中小企業の場合、会社の信用とは社長の信用にほかならない。社長の生立ち、ものの見方・考え方、出身畑といったキャラクターが経営に大きく影響するから、銀行は努めて社長のことを知ろうとする。
したがって、あなたが取締役としていくら熱心に銀行と親しくなろうとしても、それだけでは限界がある。やはり、自社の社長を銀行に売り込まなければならない。
できれば、年に数回は社長を伴って支店長を訪ね、社長の人柄や経営理念、夢といったものを理解してもらうようにする。その積重ねで社長のファンを銀行内に増やしていくのである。
もっとも、腰の重い社長も少なくない。ことに技術畑を歩いていた社長には、銀行訪問をいやがる人が多いように思われる。
しかし、簡単に諦めてはいけない。連れて行くのがむずかしいなら、支店長が来社した折に社長に時間を取ってもらうことである。「支店長が会いたがっています」と言えば、むげに断わる社長もいないだろう。また、経営研究会や講演会等にも顔を出してもらうようお膳立てする。時には、営業部門の長から「営業部門のために…」とバックアップしてもらうのも一法だ。
逆に非常に偉そうにする社長の場合はどうか。銀行支店長に売り込むにも、ふんぞり返っているという悪印象を強く与えかねないような社長もいるかもしれない。「社長、偉そうにだけはしないでください」とはなかなか言えないので、この場合は止むを得ない。ナンバー2の専務、あるいは社長の子息を引っ張り出す。要は、会社ぐるみで社長および会社をPRすることである。
そして、理想をいえば、銀行の支店にとどまらず、本店幹部にまでファンを広げ、人脈を築いていくことであろう。
本来、企業が銀行に金を借りなくてはならない状況は、変えていかなければならない。無借金経営を目指さなければならない。まず、こうした基本を踏まえておきたい。
ところが、そうしたこちら側の理想と、金融機関の思惑は必ずしも一致しない。利害がぶつかる時、彼らはそれは厳しい。本当に容赦ない。とくに大銀行は、組織でもって上からピシッと押さえられているから、食い下がるにしても限界がある。だから大銀行とばかり付き合っていては、常に弱い立場のまま、ということになりかねない。
そこで、いくら会社が大きくなっても、信用金庫など、小さな金融機関とのパイプを保っておくことをお勧めする。かつて危険に陥った頃に手形割引に走り回り、その時一所懸命になってくれた信金といまだに取引している例がある。困った時に、「実は支店長…」と飛んでいけるところを、1つは持っておかなければならない。それには、組織でがんじがらめではない、多少小さいところのほうがよい。
機会を捉えて、金融機関の人にきてもらうのもよい。決算役員会には、取引銀行(株主になってもらっている銀行)の支店長にはみんなきてもらうようにしている例もある。
相手の支店長によって、付合い方を変える必要はないと思われるし、ゴルフや飲み食いの付合いも、最近はほとんど見受けなくなった。
しょせん、力関係なのだから、公明正大、堂々たる経営をしていくことが何よりも大事である。
とくに最近の顕著な動きとして、銀行は規模の大小を問わず不良債権の償却に懸命である。下手をするとたちまちその存在があやうくなるので当然貸し渋りが出てきている。しかし、前述のように平素からの誠実な取引ぶり、実力に合った経営姿勢が認められれば何も案ずることはない。
さらにその上に銀行に対する姿勢として、資金を借りるだけではなく、逆に虎の子の預金に対してもペイオフ対策を講じておかねばならなくなってきた。つまり好条件だからと、1行に預金を集中させたり、個人的なしがらみで基盤の弱い銀行に過大な預金をすることは避けたほうがよいだろう。いずれにせよいましばらく情勢の安定するまでは預金、借入金双方に気を配っていかねばならない。
つい先般、日銀のゼロ金利政策が解禁された。これによって預金金利に変化が生ずるのは当然であるが、貸出金利も上がってくる。しかし、これは、銀行の収益力、つまり体力の強弱によって自ずからその幅は違ってくるはずで、昔の護送船団方式、右へ習えというわけにはいかないだろう。したがって、銀行ともよく話し合い、他行の状況もよく調査して折衡する必要がある。
著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。
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