ビジネスわかったランド (経営・社長)
対外折衝
税務調査への対応とその心得は
担当者に任せて心配しているくらいなら自ら応対して説明するほうがよく、堂々と受け答えしながら種々の情報を得たい。「見解の相違」は、後日のために記録に残しておく。
調査のタイプを知っておく
決算が終われば、法人税の申告書を税務署に提出する。税務署はそれをもとに、正しく経理処理され、正しく申告されているかをチェックしていく。毎年、きちんとした申告書になっていれば“なかなかしっかりした会社”として、5年に1回の調査(一般調査)(注)で済ます。
(注)国税局管轄の大企業では一応隔年調査が一般的であるが、各地税務署管轄の企業では業種により、隔年から5年ごとになっており、とくに赤字企業では黒字に転換したときに、時効にかかるまでの7年分をフルに調査されることになっているようである。
一般調査とは、別に申告書におかしな点があったからということはでなく、その間、税法や通達が改正されていたりするから、それにきちんと対応できているかを調べる程度と解釈してよい。
また、経営者が交代している場合には、決算政策等に変更はないかをチェックする意味合いもあるだろう。
ところが、いつも申告内容に疑問点が発見されたり、処理の誤りがあったりすれば、故意にしろ単純な処理ミスにしろ、“いい加減な会社”“目の離せない会社”のレッテルを貼られ、税務調査も毎年あるいは隔年ごとに入られることになる。当然ながら、調査態度も多少シビアになる。
したがって、まず、自社がどのようなタイプなのかを知ることがポイントとなろう。
税務調査の対応は
税務調査を迎えての具体的な対応の仕方は、次のようになろう。
1.税理士の立会い
一般的には各企業は税理士と顧問契約を結ぶが、税務申告書を税理士の検印を経て提出している。したがって、税務調査の予告があれば、当然、顧問税理士に連絡のうえ、立ち会ってもらうべきである。税務上の細かな疑念についても、彼らから質問してもらうほうが有効である。
2.役員自ら対応する
調査官との対応は、若い経理担当者には荷が重い。任せても、心配で部屋に入ったり出たりするようでは心証を悪くするだけだ。それなら、役員自ら対応して初めから説明するほうがよい。むろん担当役員とて、知らないこともある。しかし、それはそれで、「すぐ調べさせる」ようにすればよい。
3.雑談の場を生かす
調査は、まず雑談から始まる。税務調査官は一見とりとめもない話の中から、調査のポイントを探ろうとする。しっかりした見識をもって、経理処理しているかの感触をつかもうとする場合もある。
調査を受ける側としては、堂々と受け答えをすればよい。同時に、せっかくならば、雑談の中から逆に、調査のやり方とか、同業者に関する情報を得るようにしたい。固有名詞こそ出さないが、いろいろ知っていて損のない話がポロッと出てくるときもある。
4.要求された資料は速やかに提出する
調査に入り、調査官が「○○の帳簿を見せてください」と言ったら、速やかに提出することである。変に隠したりすると、痛くもない腹を探られることになる。また悪気はなくとも、提出に手間取ると、何か時間稼ぎしているように受け取られかねない。
したがって、資料は前もって、整備しておくべきである。ただし、要求されてもいないものまで見せる必要はない。下手に突っこまれたら損である。
5.意見は堂々と述べる
調査の過程で、調査官から質問がいろいろと出てこよう。たとえば、「なぜ、このように処理したの」などと、場合によっては突っ込まれることもあろう。そのときは自分の意見を述べることである。「このように考えて処理した」「私が勉強した範囲では問題ないと思いますが、どこか間違っていますか」と主張する。処理がおかしいといっても、時には、“見解の相違”による場合も少なくないからである。
また、税務処理上、よく「○○に相当するもの」という税法の規定の解釈が問題になるが、この場合、調査官の主観で処理が異なるケースも出てくる。したがって、何もかも「おっしゃるとおりです」ではなく、納得いくまで説明を求めることも必要である。
近年、とくに税務上問題になっているのは、企業のグローバル化、国際協調の進展に伴い、本社を海外移転したり、海外子会社との取引において損益をやり繰りしたりするケースが増えているようである。この場合、税務当局としては形式上は別として、実質的にはどうなのか?といった判断で迫ってくる様である。たとえば、社長の常住地や役員会の開催頻度と会場等々といったことや、実質的経営拠点等から判断して利益移転や脱税と決めつけてくるわけである。したがってこのような場合、頭隠して尻隠さずにならぬよう万全の体制づくりが必要である(いくら見解の相違と弁解しても、一度新聞に脱税と報道されれば、企業イメージの低下は避けられない)。
6.ケースによっては修正申告を
いろいろと調査した結果、別に何ら問題になる点はなかった。ただ1点、見解の相違があったとしよう。このようなとき、ケースによっては、自説にこだわるより、自己否認して修正(申告の自発的な手直し)を行なったほうがよい。
とくに留意すべきは、決算期末にまたがる処理(繰越し、繰延べ、前倒し、仮渡し、仮受け、搬送在庫など)に関して、期間損益算定の立場からシビアに検討・処理しておくべきで、この点での調査官との論争は避けるべきであろう。
7.経緯を記録する
調査官とのやりとりの中で、とくに見解の相違等によって問題になった点は記録に残しておきたい。調査は1回きりのものではないし、後日、似たようなケースが出てきた場合、参考になるからである。
会社の調査と並行して個人も調査されるときは
会社の売上(収入)状況や集金状況が不振である一方で、役員個人からの借入金が増加しているといったケースでは、会社の収入除外も予想されるため、役員個人の所得についても同時にチェックされることがある。
国税当局では、最近とくに会社と役員個人との両面からの調査が同時に行なえるような組織体制を強化している。税務調査の目的が明らかに会社の申告所得に対するものであり、たまたま個人調査に及ぶようなケースでは、その目的等を質問し、内容により断わってもよいであろう。
著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。
調査のタイプを知っておく
決算が終われば、法人税の申告書を税務署に提出する。税務署はそれをもとに、正しく経理処理され、正しく申告されているかをチェックしていく。毎年、きちんとした申告書になっていれば“なかなかしっかりした会社”として、5年に1回の調査(一般調査)(注)で済ます。
(注)国税局管轄の大企業では一応隔年調査が一般的であるが、各地税務署管轄の企業では業種により、隔年から5年ごとになっており、とくに赤字企業では黒字に転換したときに、時効にかかるまでの7年分をフルに調査されることになっているようである。
一般調査とは、別に申告書におかしな点があったからということはでなく、その間、税法や通達が改正されていたりするから、それにきちんと対応できているかを調べる程度と解釈してよい。
また、経営者が交代している場合には、決算政策等に変更はないかをチェックする意味合いもあるだろう。
ところが、いつも申告内容に疑問点が発見されたり、処理の誤りがあったりすれば、故意にしろ単純な処理ミスにしろ、“いい加減な会社”“目の離せない会社”のレッテルを貼られ、税務調査も毎年あるいは隔年ごとに入られることになる。当然ながら、調査態度も多少シビアになる。
したがって、まず、自社がどのようなタイプなのかを知ることがポイントとなろう。
税務調査の対応は
税務調査を迎えての具体的な対応の仕方は、次のようになろう。
1.税理士の立会い
一般的には各企業は税理士と顧問契約を結ぶが、税務申告書を税理士の検印を経て提出している。したがって、税務調査の予告があれば、当然、顧問税理士に連絡のうえ、立ち会ってもらうべきである。税務上の細かな疑念についても、彼らから質問してもらうほうが有効である。
2.役員自ら対応する
調査官との対応は、若い経理担当者には荷が重い。任せても、心配で部屋に入ったり出たりするようでは心証を悪くするだけだ。それなら、役員自ら対応して初めから説明するほうがよい。むろん担当役員とて、知らないこともある。しかし、それはそれで、「すぐ調べさせる」ようにすればよい。
3.雑談の場を生かす
調査は、まず雑談から始まる。税務調査官は一見とりとめもない話の中から、調査のポイントを探ろうとする。しっかりした見識をもって、経理処理しているかの感触をつかもうとする場合もある。
調査を受ける側としては、堂々と受け答えをすればよい。同時に、せっかくならば、雑談の中から逆に、調査のやり方とか、同業者に関する情報を得るようにしたい。固有名詞こそ出さないが、いろいろ知っていて損のない話がポロッと出てくるときもある。
4.要求された資料は速やかに提出する
調査に入り、調査官が「○○の帳簿を見せてください」と言ったら、速やかに提出することである。変に隠したりすると、痛くもない腹を探られることになる。また悪気はなくとも、提出に手間取ると、何か時間稼ぎしているように受け取られかねない。
したがって、資料は前もって、整備しておくべきである。ただし、要求されてもいないものまで見せる必要はない。下手に突っこまれたら損である。
5.意見は堂々と述べる
調査の過程で、調査官から質問がいろいろと出てこよう。たとえば、「なぜ、このように処理したの」などと、場合によっては突っ込まれることもあろう。そのときは自分の意見を述べることである。「このように考えて処理した」「私が勉強した範囲では問題ないと思いますが、どこか間違っていますか」と主張する。処理がおかしいといっても、時には、“見解の相違”による場合も少なくないからである。
また、税務処理上、よく「○○に相当するもの」という税法の規定の解釈が問題になるが、この場合、調査官の主観で処理が異なるケースも出てくる。したがって、何もかも「おっしゃるとおりです」ではなく、納得いくまで説明を求めることも必要である。
近年、とくに税務上問題になっているのは、企業のグローバル化、国際協調の進展に伴い、本社を海外移転したり、海外子会社との取引において損益をやり繰りしたりするケースが増えているようである。この場合、税務当局としては形式上は別として、実質的にはどうなのか?といった判断で迫ってくる様である。たとえば、社長の常住地や役員会の開催頻度と会場等々といったことや、実質的経営拠点等から判断して利益移転や脱税と決めつけてくるわけである。したがってこのような場合、頭隠して尻隠さずにならぬよう万全の体制づくりが必要である(いくら見解の相違と弁解しても、一度新聞に脱税と報道されれば、企業イメージの低下は避けられない)。
6.ケースによっては修正申告を
いろいろと調査した結果、別に何ら問題になる点はなかった。ただ1点、見解の相違があったとしよう。このようなとき、ケースによっては、自説にこだわるより、自己否認して修正(申告の自発的な手直し)を行なったほうがよい。
とくに留意すべきは、決算期末にまたがる処理(繰越し、繰延べ、前倒し、仮渡し、仮受け、搬送在庫など)に関して、期間損益算定の立場からシビアに検討・処理しておくべきで、この点での調査官との論争は避けるべきであろう。
7.経緯を記録する
調査官とのやりとりの中で、とくに見解の相違等によって問題になった点は記録に残しておきたい。調査は1回きりのものではないし、後日、似たようなケースが出てきた場合、参考になるからである。
会社の調査と並行して個人も調査されるときは
会社の売上(収入)状況や集金状況が不振である一方で、役員個人からの借入金が増加しているといったケースでは、会社の収入除外も予想されるため、役員個人の所得についても同時にチェックされることがある。
国税当局では、最近とくに会社と役員個人との両面からの調査が同時に行なえるような組織体制を強化している。税務調査の目的が明らかに会社の申告所得に対するものであり、たまたま個人調査に及ぶようなケースでは、その目的等を質問し、内容により断わってもよいであろう。
著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。
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