ビジネスわかったランド (経営・社長)

後継者育成

次期社長選抜で骨肉の争いを避けるには
 根本に和がないとトラブルが発生しがちだが、ドライにするほうがよいケースもある。たとえば、息子が後継者に成長するまでのリリーフとして選任するのなら、その旨を覚書きにしておくことも一法である。

三矢の教え
オーナー企業の事業承継を考えた場合、一族の誰が後継者になろうとも、常に念頭に置かなければならないのは、かの「三矢の教え」で名高い戦国武将、毛利元就の遺訓の冒頭の一節(第一条)であろう。
「一 いくど申し候ても、毛利と申す名字の儀、涯分、末代までもすたり候はぬやうに、御心がけ、御心づかひ、肝心までにて候」
毛利氏の場合は、創業者である元就の遺言どおり、本家の毛利家の生き残りのために吉川・小早川両家が共に提携・協力して、数々の大きな試練を乗り越え、毛利という名字を保ち続けた。
オーナー企業においても、まず考えなければならないのは、この毛利元就の遺訓であるわけだが、そのためにも日頃から、兄弟・一族の和を絶えず心がける必要がある。よく、社是・社訓に「和」を掲げている企業があるが、それは決して飾り物ではなく、企業存続のためのキー・ポイントなのである。

和の重視
とくに事業承継に際しては、何かと和が乱れやすい。社長の長男が順調に後継者に成長した場合でも、そこに異母弟(社長の後妻の子)がいたりすると、意外に厄介な事態が起こりかねない。
また、後継者がまだ若年で、社長の兄弟などが後継者にならざるを得ない場合も根本に和がないと、トラブルが発生しがちである。

補佐役等を置く
もし、何らかの事情で社長がその兄弟に跡を継がせるという場合、たとえトップの座を退いたとしても実権を握っていれば、問題は少ない。常識的に考えれば、いくら社長の兄弟でも、その器でない者を後継トップにするはずがないから、経営手腕についての不満が生じることはあるかもしれないが、基本的に企業経営については心配ない。
問題は、社長の想定する後継者が登場する前に、病気等で退任せざるを得ず、社長の兄弟に跡を継がせる場合である。
自らが手塩にかけて大きく成長させた企業を、兄弟とはいえバトンタッチせざるを得ないわけだから、そこに無念さや不安があるのは当然といえる。ことに、息子を後継者と想定していた場合など、その思いは強いに違いない。
しかし、企業は継続してこそ意義があるわけで、自らがリーダーとして陣頭に立つことができない以上、別の人間をトップにつけなければならない。社長の兄弟がトップとなる場合も、たまたま兄弟であったということにすぎない。
ただ、身内の場合には、とかく「雇用者と被雇用者」という感覚に欠けることが多い。身内ゆえに、一種の“甘え”も双方に生じがちである。そしてそれが、後に大きな悔いとなる例もないわけではない。
たとえば、息子が後継者として成長するまでの“リリーフ”として、兄弟をトップに選任するのであれば、一応、その旨をきちんと覚書きとして書類にとどめておくことも必要である。プライベートのことであれば口約束でもよいが、事業承継という公的なものである以上、ドライにするほうがよい。
また、自らが信任する人物を必ず新社長の補佐役(単なる監視役ではない)として置くようにする。その次の後継者に、よりよく事業を承継させるためである。

著者
大田 正幸(経営評論家)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。