ビジネスわかったランド (経営・社長)

取締役の責任

見せ金による新株発行と取締役の責任は?
 中小会社では、増資を行なう場合、代表取締役やその同族の者だけで新株の全部を引き受け、いわゆる「見せ金」によって払込みをするというやり方が見受けられる。

<< 違法な見せ金による払込み >>

見せ金による払込みとは、株式引受人からの払込金を、株式発行手続き完了を待って、何らかの理由をつけて株式引受人に返してしまう違法な払込み方法である。たとえば、A社が五〇〇万円の増資をする際に、代表取締役甲が全株式を引き受けたうえ、乙から五〇〇万円を寸時借用して払込みをし、増資手続き・登記を完了してすぐにA社から甲への貸付金などの名目で五〇〇万円を引き出し、これによって甲から乙へ返済してしまうという方法である。
これでは、A社はせっかく新株発行をして増資手続きをとったのに、実際には甲に対する貸金が残っただけで、実質的な資本の増加はないことになる。

<< 下手をすれば詐欺罪にも問われる >>

このような見せ金方式による払込みは、もちろん有効な払込みとはいえない。払込みがない以上、甲は株式引受人としての権利を失い、取締役の引受担保責任の制度は廃止されたから、その株式はいわゆる失権株となる。
また、見せ金行為は忠実義務違反であるから、それによって会社に生じた損害があれば、見せ金に関係した取締役は会社に損害賠償もしなければならない。
さらに、代表取締役甲は、真実の払込みがないにもかかわらず、増資が完了したとして登記手続きをとったのだから、甲について公正証書原本不実記載罪が成立する。
見せ金による増資は、大企業や官庁との取引を始めるのに資金力のある会社だと思わせたいといった理由でなされることが多い。見栄だけで済めばよいが、前述のような責任を生み犯罪となるばかりか、増資が見せ金であることを隠して銀行借入などの取引をした場合には、詐欺罪まで成立してしまうおそれがある。

著者
横山 康博(弁護士)
2010年6月末現在の法令等に基づいています。